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第3巻第2章 里上層部vsマヤ

パコを不幸にした奴を探してみる

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「そういえば、パコ君はパコ君とエマちゃんのお母さんが働いてたお店のこととかって知ってたりするの?」

 昨日同様農作物を売った帰り道、マヤは気になっていたがなかなか聞けていなかったことをパコに聞いてみた。

「どうしたんだよ突然?」

「いや、なんとなく気になってさ。知らないならいいんだよ?」

 話を聞く限り、パコの母親が働いていたのは十中八九、というか確実に夜の商売だろう。

 着飾って男性と一緒にお酒を飲むだけなのか、それ以上のことをする店なのかはわからないが、どちらにせよ子供のパコやエマに何も知らせていない可能性は大いにある。

「よく分かんねえ。母さんも何も教えてくれなかったしな」

「やっぱりそうだよね」

「やっぱりってどういうことだ? 何か心当たりでもあるのか?」

「へっ? いやいやいや、ないないない! そ、それで、他になにか覚えてることってあるかな?」
 
「どうしたんだよそんなに慌てて……まあいいや、そうだな……一回だけ母さんが持ってた小さい紙を見たことがあるんだ。その時は読めなかったんだけど、最近マッシュさんに読み書きを教えてもらってるから今ならわかる。その紙には「ノットリミッド アレシア」って書いてあった」

「なるほど……」

 おそらくノットリミッドというのが店の名前、アレシアというのがパコの母親のいわゆる源氏名というやつだろう。

 どこまでできるかわからないが、とりあえず最低限の情報は手に入ったので、時間がある時にそのノットリミッドなる店について調べてみることにしよう、とマヤは心のなかで決意する。

「それ以上は何も知らないけど……これでいいか?」

「うん、ありがとう。私もちょっと気になっただけだから、これだけわかれば十分だよ」

「うん、パコ、よく、覚えてた。えらい」

 いつの間にかパコの後ろに立っていたカーサが、ガバッと後ろからパコに抱きついた。

 あまりの身長差に、パコは持ち上げられてしまい、カーサに抱っこされている形になってしまう。

「や、やめろよカーサ姉ちゃん!」

「? どうして? 褒めて、あげてる、のに」

「いや、どうしてじゃなくてだな……」

 パコがしどろもどろになっていると、それを見ていたエマがパコの顔を指差して、

「ねえねえマヤさん、何でお兄ちゃんのお顔は真っ赤なのー?」

 と、無邪気にそんな質問をする。

「うーん、なんでだろうねー? エマちゃんはどう思う?」

「うーんとね…………わかんないっ!」

「そっかそっか。実はお姉さんもわからないんだー。ねえエマちゃん、私達はちょっとあっちに行ってよっか」

「うーん? わかったー」

 なぜマヤがそんなことを言ったのかわからない様子のエマだったが、マヤに懐いているエマは素直に言うことを聞いて少し離れたところに移動する。

「あの無自覚ラッキースケベ娘をどうにかしといて」

 マヤが去り際、マッシュにだけ聞こえる小さな声でそう言うと、マッシュもやや呆れた様子ながらうなずいてくれた。
 
「なあカーサ、そろそろパコを降ろしてやったらどうだ?」

「どう、して? パコは、偉い。もっと、褒めて、あげない、と」

「そうかもしれんが……その、抱きしめる必要はあるまい?」

「そう? ハグは、良い、愛情表現、だと、思う、けど?」

「しかしだな……あーもうめんどくさいっ! いいかカーサ! そうやってお前がパコを抱きしめているとだな、お前の大きな胸がパコに当たって、パコが発情してしてしまうのだ! そうなれば、最終的には子――」

「ストーップ! なーに口走ってるのかな!? ねえ、マッシュはバカなの!? いやバカなんだね!?」

 それとなく伝えるのが面倒くさくなったマッシュが暴走し始めたので、マヤは慌ててマッシュを抱き上げてその口を塞ぐ。

「んぐ、んぐぐぐぐぐぐ、んぐぐ……っ! ふはっ! おいマヤ! いきなり何をするのだ」

「何するんだ、はこっちのセリフだよ! 駄目でしょ、あんな直接伝えたら! パコ君やエマちゃんはまだ子供なんだよ?」

「ぐっ……いや、しかしだな……」

「しかしもかかしもないんだよ! マッシュは大人なんだからもっとそれとなく伝えないと!」

「……うむ。確かにマヤの言うとおりだ。悪かった」

「わかればいいんだよ。まあ、今回は結果としてあの2人は離れたからいいけど……」

 マヤは、2人して恥ずかしそうにうつむいているパコとカーサに視線をやる。

 完全に無自覚だったカーサも、マッシュがあまりにもストレートに指摘したことで、自分が何をしていたか気がついたのだろう。

「その、ごめん、ね? 私、その、そういうの、わから、ない、から……」

「いや、姉ちゃんは悪くないよ。ただ、俺も昔ほど子供じゃないし、その、これからはもうちょっとスキンシップは控えめにしてもらえると助かる、かな」

「うん、そう、する。気を、つける、ね」

 なんだか幼なじみを初めて異性として意識した時のような甘酸っぱい会話をしている2人に、マヤは背中がむずかゆくなってくる。

 幸いなことに、そんな甘酸っぱい空気は、エマのくきゅうという可愛らしいお腹の音によって一瞬で霧散した。

「マヤおねえさーん、お兄ちゃーん、エマおなかすいたー」

 マヤがマッシュの口を塞ぐために飛び出していったせいで、念の為護衛として出しておいたシロちゃんと一緒に少し離れたところで放置されていたエマが、マヤたちに向けて大きな声でそう言った。

 それを聞いたマヤとパコは、慌ててエマに駆け寄ると、マヤたちは行きつけのレストランに向かったのだった。

***

「やっぱりそういうお店だよねえ」

 パコやエマ、カーサにマッシュも寝静まった宿に部屋で、マヤは小さくそう呟いてゆっくりと目を開けた。

 目を開けた瞬間、マヤの視界は煌々と魔法による灯りが輝いている歓楽街から、薄暗い室内へと切り替わる。

 マヤは一人、烏の魔物を使って夜の街を偵察していたのだ。

「パコ君の話からして、結構やばいお店なのはわかってたけど、あれは流石に……」

 結論から言ってしまえば、パコの母親が働いていたというノットリミッドという店は、着飾った女性従業員がお客の男性と一緒にお酒を飲む以上のことをするお店だったわけだが、実態はそんな生易しいものでは無いようだった。

 女性従業員はすべて奴隷のような扱いを受けており、客が金さえ積めば禁止行為は一切なし。

 殺したいならそれ相応の額は必要だが、それすら容認する、そんな店だった。

「特にあのデブのオーナー、あの人は生理的に受け付けないね」

 マヤが魔物で覗いていた間だけでも、職権濫用で女性従業員に手を出し、ミスをした男性従業員に暴力ふるい、また女性従業員に手を出して……とやりたい放題だった。

 それに、そのオーナーには、人間として無理な以外にも1つ気になることがあった。

「あのもやは、魔石だよね。もしかして、またあいつが関わってるのかな?」

 とはいえ、魔石は魔道具にもよく使われている。

 魔道具で溢れているこの里では、例のもやも別段珍しいものでもないのだ。

 ともかくノットリミッドとあのクズオーナーは早いうちにどうにかして潰さないとな、と心に決めて、マヤもようやくベッドに潜り込んだのだった。
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