転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第3巻第1章 ドワーフの内情

カーサとパコ

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「美味しそう!」

 マヤがこの里に来てから通っているレストランで、エマは出てきたごちそうに目を輝かせる。

 くきゅう……という可愛らしい音が聞こえてわずかに頬を染めたエマだったが、視線は料理から離れなかった。

「それじゃあ食べようか。いただきます」

「いただき、ますっ!」

 いただきますの最後で待ちきれなかったエマは、握りしめたフォークで大きなお肉を突き刺すと、勢いよくかぶりついた。

「あはは、もうエマったら、そんなに一度に食べたら……」

「んんんんーっ」

 案の定、頬張りすぎた肉が噛み切れず格闘し始めたエマを、マヤは苦笑しながら助けてあげることにした。

 少し行儀が悪いかもしれないが、骨付き肉を切り分けるためにおいてあったハサミを使って、エマの口元あたりで肉を切り分ける。

「んんんんんんっ! …………ぷはっ、美味しいー!」

 マヤのおかげで一口目の肉をようやく食べ終えたエマは、満面の笑みでそう言った。

 口の周りをお肉のソースまみれにして、夢中でご飯を食べるエマの微笑ましさに、周囲の客たちも優しく見守っている。

 下町のレストランなこともあり、エマのマナーもなにもない食べ方を咎めるものはいなかった。

 とはいえ、最近は食糧不足が深刻で値上げせざるを得ず、このままだと高級レストランに仲間入りかもな、などと以前店長がぼやいていたが。

「うんうん、好きなだけ食べるといいよ。それじゃ、私も食べようかな」

 マヤも、エマから目を離さないように気をつけつつ、食事を始めた。

「うん、やっぱり美味しいね、ここの料理は」

「お客さん、見たことない子供を連れてるが、親戚か何かか?」

「あっ、店長さん。ちょっと色々あってね。まあ親戚みたいなものだよ」

「なんだか不思議な言い回しだが……まあそれを詮索するのは俺の仕事じゃないな。美味しそうに食べて貰えればそれでいい。うまいか、嬢ちゃん?」

「うん! とっても美味しい!」

「そうかそうかっ! もっと食えよ!」

 店長が大きく笑ってエマの頭に手を伸ばした瞬間――

「っっ!」

 ガタンッ、という大きな音を立てて、エマは椅子から倒して床を転がるように逃げると、壁際までそのまま進んで震えだした。

「エ、エマ?」

「なんだあ? 急にどうしたんだ、嬢ちゃん?」

「さあ? ごめんね店長さん、うちの子が嫌な態度とっちゃって」

「なあに、気にしてねえさ。俺も無遠慮に頭なんて撫でようとしちまって悪かったな」

「そうだぞ店長! いい年したおっさんが女の子に勝手に触ったら犯罪なんだからなー!」

「そうだそうだー!」

「うるせえ酔っぱらいども!」

 常連のドワーフに野次られて店長はそっちに行ってしまう。

 どうやら他の客に気を使われてしまったらしい。

 マヤはエマの近くに歩いていくと、しゃがんでエマと同じ視線で話しかける。

「どうしたの? 店長さんが怖かったとか?」

 マヤの言葉に、エマはぷるぷると首を振る。

「わからない……わからないけど……、急に、体が勝手に……」

 エマは店長を怖がっているというよりも、店長から無意識に逃げてしまった自分の行動に恐怖しているようだった。

 マヤはどう慰めたものかわからず、そっとエマを抱きしめた。

「私からは逃げないんだね?」

「……そうみたい」

「そっか」

 マヤはそのままエマが落ち着くまでエマを抱きしめ続けた。

 しばらくそうしていると、エマがゆっくりと顔をあげる。

「マヤお姉さん、もう大丈夫……あっ……」

 再びくきゅう……という可愛らしい音が聞こえて、エマは顔を赤くする。

「それじゃ、ご飯に続きにしようか」

「うん!」

 その後、マヤとエマの2人は、店長が腕を振るった料理をお腹いっぱい食べたのだった。

***

「ただいまー……って、何やってるの、そこの2人は」

 マヤとエマが宿に戻ると、先に戻っていたパコと宿で留守番していたカーサがじゃれ合っていた。

 いや、正確には、圧倒的に小柄なパコがカーサのおもちゃにされているようで、最終的にパコがベッドに腰掛けるカーサの腕の中に抱きすくめられて一旦落ち着いた。

「おおっ! エマ! どうしたんだその服」

「えへへっ、いいでしょー。かわいい?」

「ああ、かわいいぞ!」

「やったあ、お兄ちゃんにほめられちゃったー」

「ねえマッシュ、なんだろう、この笑顔を守りたいと思うよね」

「同感だ。我々が守ってやられねばな!」

 マヤとマッシュは固い握手交わす(と言ってもマッシュはうさぎなので傍から見ればマヤがマッシュの前足を握っているだけなのだが)。

「それはそうとして、どうしてカーサとパコ君はそんなに仲よさげなの?」

「……本当に姉ちゃんがマヤさんたちに言って俺たちを助けてくれることになったんじゃないんだな……」

「最初、から、そう言って、る、でしょ? そもそも、パコたちが、この里に、いるって、私、知らな、かった、し」

「じゃあ本当に泥棒した俺を意味もなく助けてくれたってことか?」

「だからさっきからそう言っているだろうに……」

「そんなこと言われても信じられるわけないだろ! そんなやつ今までそんなやついなかったんだからよ」

「なに? カーサとパコ君はもともと知り合いだったってこと?」

「うん、昔、私の、村に、来てた、行商が、パコの、家族」

「へえ、世間は狭いねえ」

「そう、いえば、おじさん、たちは?」

 カーサの質問に、パコの表情が曇る。

「っ!? ……もう、いねえ」

「…………そっか。ごめん、なさい」

「姉ちゃんが謝ることじゃねーよ」

「でも……」

「……はあ、相変わらず姉ちゃん、体は大きいくせに気は小さいんだな。俺が気にすんなって言ってんだから気にしなくていいんだよ」

 パコはカーサの腕の中で立ち上がると、カーサの頭をワシャワシャと撫でた。

 年下の男子に慰められて、カーサは恥ずかしいのか少しもじもじしている。

「その……パコ、わかった、から、もう、やめて」

 思わずカーサが伸ばした手がパコの手を掴み、そのまま再びパコは、ベットに腰掛けるカーサの腕の中に座らされてしまう。

「わわっ……やっぱり姉ちゃんは力強えな」

「オーク、だから、ね」

「ふわああああ……マヤお姉さん、エマもうねむたい……」

「そうだね、もう遅いし今日はとりあえず寝よっか。カーサとパコ君はそっちのベッドで寝てね。じゃあエマちゃん、私達はこっちのベッドで寝ようねー」

「うん……マヤお姉さんと、いっしょ……」

 うつらうつらしているエマと一緒に、早々にベッドに入ってしまったマヤに、パコは開いた口が塞がらない。

「普通、兄妹の俺とエマが一緒のベッドなんじゃ……」

「パコは、お姉、ちゃんと、寝るの、いや?」

 カーサの言葉に振り返ったパコは、改めてカーサの服装を見て息を飲む。

 カーサは寝間着として体のラインがわかりにくいゆったりとした服を着ていたが、それでも胸の大きな膨らみははっきりとわかってしまう。

 さらに寝間着故に薄い生地のせいで、なんだか肌色が少し透けているような気さえした。

(俺だってもう子供じゃねーんだぞ!? こんな姿の姉ちゃんと同じベッドで寝るなんて……寝れるわけねえだろ!?)

 と、心のなかでそんなことを思っていたパコだったが……。

「あれれ、もう寝ちゃったんだ」

「マヤさん? 起き、てたの?」

「まあね。エマちゃんのためにカーサとパコ君を同じベッドにしたんだけど、もし間違いが起こったらいけないと思ってさ。まあ、杞憂だったみたいだけど」

 パコの穏やかな寝顔を見て、マヤはふっと息を吐く。

「間違い、って?」

「あはは……カーサは気にしないでいいよ。それじゃ私も寝るね。おやすみ」

「うん? おやすみ、なさい、マヤさん」

 こうして、市場で農作物を売ることから始まり、紆余曲折あってパコとエマを保護した、マヤの長い一日は幕を閉じたのだった。
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