転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

文字の大きさ
上 下
95 / 324
第3巻第1章 ドワーフの内情

今後の方針

しおりを挟む
「それで、マッシュはこれからどうしたらいいと思う?」

 宿に到着し、夕食などを済ませた後、マヤたち3人は部屋の中で今後の方針について話し合っていた。

「どうしたらいいと言われてもな……私は妻のブランよりは経済に詳しいつもりだが、それは魔物師として魔物を売買するために必要な程度に詳しいというだけだ。国家レベルのこととなると使える意見が出せるとは思えんぞ?」

「それを言ったら私だって多少知識があるだけで、実際に商売をしたこともないんだからマッシュ以下だよ。とりあえず、今はそういうの抜きにしてなんか思いついたら言っていこう?」

 というかマヤの知識はあくまで向こうの世界のものであり、この世界の経済事情にそこまで詳しいわけではない。

 もちろん国王となってから色々勉強してはいるが、それだってあくまで学んだだけの知識にすぎないのだ。

 実際にマヤ自身が使いこなせるかはわからなかった。

「ふむ……とりあえずだが、里長に会ってみるしかないのではないか?」

「というと?」

「簡単な話だ。里長に会って、なぜうちの国からの農作物を市場に下ろさないようにしているのか尋ねてみればいい」

「それができてたら一番いいんだろうけど……実際できると思う?」

「難しいだろうな。それに、下ろさない理由だけならなんとなく想像がつくところだしな」

「そうなんだよねぇ……カーサは何かない?」

「私? 私は、2人の、言ってる、こと、よく、わから、ない、し……」

「まあまあ、今はとりあえず思ったことを言ってみてくれればいいから、さ」

「うん、それじゃ……うちと、しては、ブランさん、が、作ってる、野菜とか、を、この国で、売って、貰えれば、いいん、だよ、ね? それ、なら、売っちゃえば、いいん、じゃ、ない、の?」

「あはは……売っちゃえばいい、か……確かにそうなんだけどね。それができないから困って……ん?」

 マヤはカーサのストレートすぎる解決策を苦笑とともに否定しようとして、少し引っかかりを覚えた。

 カーサの案は、普通に考えれば現実的ではなく、一笑に付すような内容だ。

 しかしながら、ここは魔法がある世界であり、マヤたちの国であるキサラギ亜人王国には魔法に長けたエルフが多数暮らしている。

(もし、魔法を使って大量の農作物を一気に輸送して売ることができれば、全部の問題は解決するんじゃないの?)

 魔法で大量の物資を輸送する、というのは、この世界の魔法を知るすべての人が思いつくことなのだが、実際にそれを行っているものは多くはない。

 単純な話、オリガが使用している持物インベントリや、マヤが特注の収納袋で使っているような魔法で作った空間というのは生成と維持に魔力を消費するためだ。

 そして、空間の広さと魔力の量は比例する。

 結果として、大量の物資を移動するには大量の魔力が必要となり、そんなことができる魔法使いを雇うと膨大なお金がかかるため、コストパフォーマンスの面から実際にはめったに行われないのだ。

「どう、したの? マヤさん?」

「もしかしたら、カーサの言った方法でうまくいくかもしれない、と思ってね」

 マヤはいそいそと部屋に備え付けの机へと向かい、収納袋から紙とペンを取り出す。

 最近やっと覚えたこの世界の文字で、何とか手紙を書き上げると、腕輪からカラスの魔物を呼び出し、その足についている筒に丸めた手紙を入れて、宿の窓から空へと飛び立たせる。

「おいマヤ、一体どうしたのだ? そろそろ私達にも説明してほしいんだが……」

 急に手紙を書き始めカラスの魔物でどこかに送ったマヤに、マッシュは戸惑い半分呆れ半分と言った様子だ。

 マッシュの質問に、同じく状況がわからないカーサも、うんうんとうなずいている。

「カーサのおかげで、どうにか解決できそうな方法が思いついてさ」

「カーサのおかげで、か? 何だお前、まさか密輸入して売りさばくつもりか?」

 冗談のつもりで言ったマッシュの言葉に、マヤは少しいたずらっぽい笑みを浮かべながらも、はっきりと頷いた。

 頷いたマヤにしばらく目を丸くしていたマッシュだったが、しばらくして1つため息をつくと、やれやれといった様子で話し始める。
 
「……私としては冗談のつもりだったんだがな? まあ、今更お前のやることに驚きもしないが」

「でも、マヤさん、それって、大丈夫、なの?」

 密輸入すると認めたマヤに、カーサは至極真っ当な質問をする。

「大丈夫じゃないだろうね」

「えっ? 大丈夫、じゃ、ない、の?」

「うん、大丈夫じゃないと思うよ。少なくともこの里の里長とかの上層部とはもめると思うよ」

「また、戦争に、なる、の?」

「もしかしたらね。でも、そのほうがいいんじゃないかな?」

「戦争が、いいこと、なの?」

「まさか。何があっても戦争なんてしないほうがいいと思うよ。でも、このまま行くと、この里は里の中で、同じドワーフ同士で戦争が始まっちゃうと思うんだよね」

 今はまだ、市場に食料が不足している期間が短いため、大事にはなっていないが、この状況が長く続けばいつかこの里では争いが起き始めるだろう。

 そうなってしまってからでは、何をどうしようがこの里は元通りにはなるまい。

 同じ里の住民同士で殺し合うということは、分断を生み、それは争いが収まっても解消されるものではないからだ。

「ドワーフ同士で殺しあうくらいなら、うちと戦争してもらったほうが良い、ということか」

「そういうこと。そうすれば、この里の上層部とうちの国との間に軋轢を生むだけで済むでしょう?」

「確かにな。これから我々が密輸入した農作物をこの里の一般市民に安値で売ることを考えれば、一般市民は我々の味方になってくれるだろう。ただそうなると……」

「この里の、農民は、どう、なるの?」

「おっ、カーサもだんだんわかってきたねー。そう、そうなるとこの里の農民をどうするか、が問題になってくるわけだけど、それについてもいい方法があるんだよねー」

 マヤは自分の考えを2人に説明した。

 マヤの言ういい方法とは、キサラギ亜人王国でやっている効率化された農業のやり方をこの里の農家に教える、ただそれだけだ。

「あくまでもうちの国にこの里を加入させる前提の話だが、悪くはないだろうな」

「うん、それなら、みんな、幸せ」

「でしょう? まあでも、今のところこれは後回しかな。とりあえず私達が農作物を売り始めれば、ここの農家さんたちも売り渋ってられないはずだから、まずは溜め込んだ農作物を売ってもらうところからだね」

 3人の話し合いはここで終了し、この後はマヤがブランに手紙で頼んだ大量の農作物を、SAMASサマスの隊員が持物インベントリに詰め込んで持ってきてくれるのを待ってから次の行動に移ることになったのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

異世界ワンルーム生活! ◆バス・トイレ別 勇者・魔王付き!?◆

八神 凪
ファンタジー
「どこだ……ここ……?」 「私が知る訳ないでしょ……」 魔王退治のため魔王城へ訪れた勇者ジン。魔王フリージアとの激戦の中、突如現れた謎の穴に、勇者と魔王が吸い込まれてしまう。 ――目覚めた先は現代日本。 かくして、元の世界に戻るため、不愛想な勇者と、頼まれるとすぐ安請け合いをする能天気な魔王がワンルームで同居生活を始めるのだった――

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...