転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第3巻第1章 ドワーフの内情

今後の方針

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「それで、マッシュはこれからどうしたらいいと思う?」

 宿に到着し、夕食などを済ませた後、マヤたち3人は部屋の中で今後の方針について話し合っていた。

「どうしたらいいと言われてもな……私は妻のブランよりは経済に詳しいつもりだが、それは魔物師として魔物を売買するために必要な程度に詳しいというだけだ。国家レベルのこととなると使える意見が出せるとは思えんぞ?」

「それを言ったら私だって多少知識があるだけで、実際に商売をしたこともないんだからマッシュ以下だよ。とりあえず、今はそういうの抜きにしてなんか思いついたら言っていこう?」

 というかマヤの知識はあくまで向こうの世界のものであり、この世界の経済事情にそこまで詳しいわけではない。

 もちろん国王となってから色々勉強してはいるが、それだってあくまで学んだだけの知識にすぎないのだ。

 実際にマヤ自身が使いこなせるかはわからなかった。

「ふむ……とりあえずだが、里長に会ってみるしかないのではないか?」

「というと?」

「簡単な話だ。里長に会って、なぜうちの国からの農作物を市場に下ろさないようにしているのか尋ねてみればいい」

「それができてたら一番いいんだろうけど……実際できると思う?」

「難しいだろうな。それに、下ろさない理由だけならなんとなく想像がつくところだしな」

「そうなんだよねぇ……カーサは何かない?」

「私? 私は、2人の、言ってる、こと、よく、わから、ない、し……」

「まあまあ、今はとりあえず思ったことを言ってみてくれればいいから、さ」

「うん、それじゃ……うちと、しては、ブランさん、が、作ってる、野菜とか、を、この国で、売って、貰えれば、いいん、だよ、ね? それ、なら、売っちゃえば、いいん、じゃ、ない、の?」

「あはは……売っちゃえばいい、か……確かにそうなんだけどね。それができないから困って……ん?」

 マヤはカーサのストレートすぎる解決策を苦笑とともに否定しようとして、少し引っかかりを覚えた。

 カーサの案は、普通に考えれば現実的ではなく、一笑に付すような内容だ。

 しかしながら、ここは魔法がある世界であり、マヤたちの国であるキサラギ亜人王国には魔法に長けたエルフが多数暮らしている。

(もし、魔法を使って大量の農作物を一気に輸送して売ることができれば、全部の問題は解決するんじゃないの?)

 魔法で大量の物資を輸送する、というのは、この世界の魔法を知るすべての人が思いつくことなのだが、実際にそれを行っているものは多くはない。

 単純な話、オリガが使用している持物インベントリや、マヤが特注の収納袋で使っているような魔法で作った空間というのは生成と維持に魔力を消費するためだ。

 そして、空間の広さと魔力の量は比例する。

 結果として、大量の物資を移動するには大量の魔力が必要となり、そんなことができる魔法使いを雇うと膨大なお金がかかるため、コストパフォーマンスの面から実際にはめったに行われないのだ。

「どう、したの? マヤさん?」

「もしかしたら、カーサの言った方法でうまくいくかもしれない、と思ってね」

 マヤはいそいそと部屋に備え付けの机へと向かい、収納袋から紙とペンを取り出す。

 最近やっと覚えたこの世界の文字で、何とか手紙を書き上げると、腕輪からカラスの魔物を呼び出し、その足についている筒に丸めた手紙を入れて、宿の窓から空へと飛び立たせる。

「おいマヤ、一体どうしたのだ? そろそろ私達にも説明してほしいんだが……」

 急に手紙を書き始めカラスの魔物でどこかに送ったマヤに、マッシュは戸惑い半分呆れ半分と言った様子だ。

 マッシュの質問に、同じく状況がわからないカーサも、うんうんとうなずいている。

「カーサのおかげで、どうにか解決できそうな方法が思いついてさ」

「カーサのおかげで、か? 何だお前、まさか密輸入して売りさばくつもりか?」

 冗談のつもりで言ったマッシュの言葉に、マヤは少しいたずらっぽい笑みを浮かべながらも、はっきりと頷いた。

 頷いたマヤにしばらく目を丸くしていたマッシュだったが、しばらくして1つため息をつくと、やれやれといった様子で話し始める。
 
「……私としては冗談のつもりだったんだがな? まあ、今更お前のやることに驚きもしないが」

「でも、マヤさん、それって、大丈夫、なの?」

 密輸入すると認めたマヤに、カーサは至極真っ当な質問をする。

「大丈夫じゃないだろうね」

「えっ? 大丈夫、じゃ、ない、の?」

「うん、大丈夫じゃないと思うよ。少なくともこの里の里長とかの上層部とはもめると思うよ」

「また、戦争に、なる、の?」

「もしかしたらね。でも、そのほうがいいんじゃないかな?」

「戦争が、いいこと、なの?」

「まさか。何があっても戦争なんてしないほうがいいと思うよ。でも、このまま行くと、この里は里の中で、同じドワーフ同士で戦争が始まっちゃうと思うんだよね」

 今はまだ、市場に食料が不足している期間が短いため、大事にはなっていないが、この状況が長く続けばいつかこの里では争いが起き始めるだろう。

 そうなってしまってからでは、何をどうしようがこの里は元通りにはなるまい。

 同じ里の住民同士で殺し合うということは、分断を生み、それは争いが収まっても解消されるものではないからだ。

「ドワーフ同士で殺しあうくらいなら、うちと戦争してもらったほうが良い、ということか」

「そういうこと。そうすれば、この里の上層部とうちの国との間に軋轢を生むだけで済むでしょう?」

「確かにな。これから我々が密輸入した農作物をこの里の一般市民に安値で売ることを考えれば、一般市民は我々の味方になってくれるだろう。ただそうなると……」

「この里の、農民は、どう、なるの?」

「おっ、カーサもだんだんわかってきたねー。そう、そうなるとこの里の農民をどうするか、が問題になってくるわけだけど、それについてもいい方法があるんだよねー」

 マヤは自分の考えを2人に説明した。

 マヤの言ういい方法とは、キサラギ亜人王国でやっている効率化された農業のやり方をこの里の農家に教える、ただそれだけだ。

「あくまでもうちの国にこの里を加入させる前提の話だが、悪くはないだろうな」

「うん、それなら、みんな、幸せ」

「でしょう? まあでも、今のところこれは後回しかな。とりあえず私達が農作物を売り始めれば、ここの農家さんたちも売り渋ってられないはずだから、まずは溜め込んだ農作物を売ってもらうところからだね」

 3人の話し合いはここで終了し、この後はマヤがブランに手紙で頼んだ大量の農作物を、SAMASサマスの隊員が持物インベントリに詰め込んで持ってきてくれるのを待ってから次の行動に移ることになったのだった。
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