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幕間 キサラギ亜人王国の日常
ファムランドとレオノルの初デート3
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「似合っているでしょうか?」
試着室から姿を表したレオノルに、ファムランドは思わず言葉を失った。
「どうしました?」
「――っと、すまねえ……似合ってると思うぞ?」
「本当ですか! じゃあとりあえずこれは買うと言うことで――」
レオノルは試着した服を着たまま、楽しそうに次の服を選び始める。
ファムランドはレオノルから目を離さないように気をつけながら、あたりをサッと見渡した。
(これがマヤの言ってたショッピングモールってやつか。なんでもそろうとか言ってたが、これなら確かに納得だな)
ファムランドたちが今いるフロアは2階の服屋がまとまっているエリアなので、あたりには服屋しかないが、それにしても子供服から老人用の服まで、ありとあらゆる服が売っていた。
「ファムランドさーん、これはどうですかー!」
レオノルの声にファムランドが振り向くと、なかなか際どい露出加減のニットワンピースを着たレオノルがこちらに向かって手を振っていた。
「――ばっ、さっさと隠せ!」
絶世の美女が際どい格好で大きな声を出せば、目立ってしまうに決まっている。
実際、ファムランドが確認できただけでも、数人の男がレオノルに目を奪われていた。
それが面白くなかったファムランドは、慌てて試着室の前に駆け込むと、そのカーテンを閉めた。
「どうしたんですか、ファムランドさん?」
カーテン越しに聞こえてくる少し弾んだ声に、ファムランドはため息をつく。
「さてはお前さん、わざと大きな声で俺のことを呼んだな?」
「えー、なんのことでしょうー」
わざとらしい棒読みに、ファムランドは再びため息をついてしまう。
どうやらレオノルに、隠す気は無いようだった。
「なるべく他の男には見られたくねーんだから、ああいうことはよしてくれ……」
「はーい。でもさっきのはファムランドさんが他の女の人を見てたからいけないんですよ?」
これで終わるかと思っていたファムランドは、レオノルから思わぬ反撃を食らってしまう。
「俺が? 別にそんなつもりじゃ……」
「見てましたもん。私以外の女の人を見てましたもん」
「もん、ってお前さんなあ……」
拗ねるレオノルに、ファムランドは困って頭をかく。
ここはファムランドが折れるしかないだろう。
「はあ、わかった、俺が悪かった。それで、どうしたら許してくれるんだ?」
「ふふふっ、わかればいいんです。それじゃあちょっとこっちに来てください」
ファムランドは言われるままにレオノルがいる試着室のカーテンに近づく。
次の瞬間、ファムランドは中から伸びてきた手によって、カーテンの中に引きずり込まれた。
「それっ!」
「おわっ!?」
カーテンの中はそれほど広くなく、2人で入ると立つのがやっとだ。
「何しやがるんだいきなり」
「何って、試着室に引き込んだだけですけど?」
「そんなこと聞いてんじゃねー!」
「もう、大きい声出すと私がいる試着室にファムランドさんが入ってるのがバレちゃいますよ」
「じゃあさっさと外に――」
「ちょっと待って下さい。せっかく私がファムランドさんの希望を聞いて、他の男性に見せないようにファムランドさんにだけこの服を見せてるんですから、しっかり見てから出てください」
「はあ、そういうことだったのかよ……。それなら他にもやり方があった気がするがな」
ようやっとレオノルの行動の意味を理解したファムランドは、やや呆れながらレオノルの姿を改めて見る。
「なんというかその、すごいな……」
レオノルを見下ろす形になっているファムランドからは、胸元が大きく開いたワンピースのせいで、レオノルの深い谷間がはっきりと見えていた。
「どこ見てるんですかー?」
レオノルのジト目に、ファムランドは慌てて顔を背ける。
「どっ、どこも見てねえよ!」
「うふふふっ、いいんですよ、ファムランドさんならいくら見ても」
「からかうんじゃねー! からかうなら出てくぞ!」
「ごめんなさい、つい。私もこんなことするのは初めて――ではないですが、それでも恥ずかしいので茶化してしまいました」
そう言ってうつむくレオノルをよく見てみると、その手は少し震えていた。
「程々にしてくれよ、本当に……」
ファムランドは震えるレオノルの手をそっと握ると、改めてレオノルの全身を見てから、レオノルを正面から見据える。
「レオノル、この服も似合ってるぞ。ただ、これを着るのは俺だけしか見てないところにしてくれ。こんな格好で他の男の前に出られちゃ、俺が安心できねえ。ちっちぇ男だと思うかもしれねえが、そうしてもらえると助かる」
「――っ! ズルいです、そういうの……」
正面からまっすぐに自分を見つめるファムランドに、レオノルは耐えきれずにうつむいてしまう。
「どういうことだ?」
なんのこっちゃわからない、という顔で首を傾げるファムランドに、レオノルは今後ファムランドに惚れる女が出てこないだろうかと心配になった。
(この無自覚な女たらしっぷり……どうして今まで恋人がいなかったのか本当に不思議です……)
「何でもありませんっ! でも、この服はファムランドさんの前だけで着ることにしますね」
「お、おう? そうしてくれるなら俺も嬉しいが……」
ファムランドはレオノルがやや呆れている理由がわからず、首を傾げることしかできないのだった。
***
「ありゃりゃ、試着室に2人で入っちゃったよ……」
恋人同士が一緒の試着室に入る、という状況に、エロの気配を感じ取ったマヤとカーサは、素早く目配せする。
「ちょ、ちょっと、2人とも突然どうしたんですか!?」
オリガが困惑の声を上げるのも無理はない。
カーサがオリガを素早く抱き上げ、マヤがその目を両手で塞いだのだ。
「何も見えないんですけど! ねえ、2人とも本当にどうし――」
オリガの言葉を無視し、マヤとカーサは再び目配せすると、ファムランドとレオノルから離れ、オリガを抱えたまま3階へ移動した。
3階の家具が売っているエリアにたどり着いたところで、カーサとマヤはオリガを開放する。
「……いったん何だったんですか、さっきのは」
「いやー、そのー、ね? オリガにはまだ早いかなあ、って、ねえ?」
「うん、オリガさん、まだ、知らない方が、いい」
「なっ!? まさか2人とも私を子ども扱いして!?」
「いやだって、ね?」
「ね。実際、子供、だし?」
「2人とも私が123歳だって忘れてませんか?」
「それって人間で言ったら12歳位だって聞いたけど?」
「うん、聞いた」
「それはそうですけど……」
納得できない様子のオリガにマヤは1つ確認することにした。
「わかった、それじゃあオリガ、1つ教えてほしいことがあるんだけどいいかな?」
「なんですか?」
「赤ちゃんってどうやったらできると思う?」
突然の質問に、オリガはボンッと音が聞こえそうなほど一気に顔を真っ赤にする。
「な、ななな、なんで突然そんなことを……」
「この質問にちゃんと答えられたら、オリガが大人だって認めてあげるから、答えてみて?」
少し恥ずかしそうにしながらも、真面目に話すマヤに、オリガは考え込む。
しばらくして、オリガは意を決してマヤを見た。
「その、愛し合う2人が、その……キス、を……すると、赤ちゃんが、でき……ます……」
顔を真っ赤にしてなんとか言い切ったオリガに、マヤとカーサは顔を見合わせると、穏やかな表情でオリガの頭をなで始めた。
「えーっと、これは一体……」
「オリガはもうしばらくそのままでいいんだよ?」
「うん、オリガさんは、そのままで、いて」
「ちょっと2人ともー! これはどういうことなんですかー!」
家具売り場に、何がなんだかわからないオリガの叫びが響き渡ったのだった。
試着室から姿を表したレオノルに、ファムランドは思わず言葉を失った。
「どうしました?」
「――っと、すまねえ……似合ってると思うぞ?」
「本当ですか! じゃあとりあえずこれは買うと言うことで――」
レオノルは試着した服を着たまま、楽しそうに次の服を選び始める。
ファムランドはレオノルから目を離さないように気をつけながら、あたりをサッと見渡した。
(これがマヤの言ってたショッピングモールってやつか。なんでもそろうとか言ってたが、これなら確かに納得だな)
ファムランドたちが今いるフロアは2階の服屋がまとまっているエリアなので、あたりには服屋しかないが、それにしても子供服から老人用の服まで、ありとあらゆる服が売っていた。
「ファムランドさーん、これはどうですかー!」
レオノルの声にファムランドが振り向くと、なかなか際どい露出加減のニットワンピースを着たレオノルがこちらに向かって手を振っていた。
「――ばっ、さっさと隠せ!」
絶世の美女が際どい格好で大きな声を出せば、目立ってしまうに決まっている。
実際、ファムランドが確認できただけでも、数人の男がレオノルに目を奪われていた。
それが面白くなかったファムランドは、慌てて試着室の前に駆け込むと、そのカーテンを閉めた。
「どうしたんですか、ファムランドさん?」
カーテン越しに聞こえてくる少し弾んだ声に、ファムランドはため息をつく。
「さてはお前さん、わざと大きな声で俺のことを呼んだな?」
「えー、なんのことでしょうー」
わざとらしい棒読みに、ファムランドは再びため息をついてしまう。
どうやらレオノルに、隠す気は無いようだった。
「なるべく他の男には見られたくねーんだから、ああいうことはよしてくれ……」
「はーい。でもさっきのはファムランドさんが他の女の人を見てたからいけないんですよ?」
これで終わるかと思っていたファムランドは、レオノルから思わぬ反撃を食らってしまう。
「俺が? 別にそんなつもりじゃ……」
「見てましたもん。私以外の女の人を見てましたもん」
「もん、ってお前さんなあ……」
拗ねるレオノルに、ファムランドは困って頭をかく。
ここはファムランドが折れるしかないだろう。
「はあ、わかった、俺が悪かった。それで、どうしたら許してくれるんだ?」
「ふふふっ、わかればいいんです。それじゃあちょっとこっちに来てください」
ファムランドは言われるままにレオノルがいる試着室のカーテンに近づく。
次の瞬間、ファムランドは中から伸びてきた手によって、カーテンの中に引きずり込まれた。
「それっ!」
「おわっ!?」
カーテンの中はそれほど広くなく、2人で入ると立つのがやっとだ。
「何しやがるんだいきなり」
「何って、試着室に引き込んだだけですけど?」
「そんなこと聞いてんじゃねー!」
「もう、大きい声出すと私がいる試着室にファムランドさんが入ってるのがバレちゃいますよ」
「じゃあさっさと外に――」
「ちょっと待って下さい。せっかく私がファムランドさんの希望を聞いて、他の男性に見せないようにファムランドさんにだけこの服を見せてるんですから、しっかり見てから出てください」
「はあ、そういうことだったのかよ……。それなら他にもやり方があった気がするがな」
ようやっとレオノルの行動の意味を理解したファムランドは、やや呆れながらレオノルの姿を改めて見る。
「なんというかその、すごいな……」
レオノルを見下ろす形になっているファムランドからは、胸元が大きく開いたワンピースのせいで、レオノルの深い谷間がはっきりと見えていた。
「どこ見てるんですかー?」
レオノルのジト目に、ファムランドは慌てて顔を背ける。
「どっ、どこも見てねえよ!」
「うふふふっ、いいんですよ、ファムランドさんならいくら見ても」
「からかうんじゃねー! からかうなら出てくぞ!」
「ごめんなさい、つい。私もこんなことするのは初めて――ではないですが、それでも恥ずかしいので茶化してしまいました」
そう言ってうつむくレオノルをよく見てみると、その手は少し震えていた。
「程々にしてくれよ、本当に……」
ファムランドは震えるレオノルの手をそっと握ると、改めてレオノルの全身を見てから、レオノルを正面から見据える。
「レオノル、この服も似合ってるぞ。ただ、これを着るのは俺だけしか見てないところにしてくれ。こんな格好で他の男の前に出られちゃ、俺が安心できねえ。ちっちぇ男だと思うかもしれねえが、そうしてもらえると助かる」
「――っ! ズルいです、そういうの……」
正面からまっすぐに自分を見つめるファムランドに、レオノルは耐えきれずにうつむいてしまう。
「どういうことだ?」
なんのこっちゃわからない、という顔で首を傾げるファムランドに、レオノルは今後ファムランドに惚れる女が出てこないだろうかと心配になった。
(この無自覚な女たらしっぷり……どうして今まで恋人がいなかったのか本当に不思議です……)
「何でもありませんっ! でも、この服はファムランドさんの前だけで着ることにしますね」
「お、おう? そうしてくれるなら俺も嬉しいが……」
ファムランドはレオノルがやや呆れている理由がわからず、首を傾げることしかできないのだった。
***
「ありゃりゃ、試着室に2人で入っちゃったよ……」
恋人同士が一緒の試着室に入る、という状況に、エロの気配を感じ取ったマヤとカーサは、素早く目配せする。
「ちょ、ちょっと、2人とも突然どうしたんですか!?」
オリガが困惑の声を上げるのも無理はない。
カーサがオリガを素早く抱き上げ、マヤがその目を両手で塞いだのだ。
「何も見えないんですけど! ねえ、2人とも本当にどうし――」
オリガの言葉を無視し、マヤとカーサは再び目配せすると、ファムランドとレオノルから離れ、オリガを抱えたまま3階へ移動した。
3階の家具が売っているエリアにたどり着いたところで、カーサとマヤはオリガを開放する。
「……いったん何だったんですか、さっきのは」
「いやー、そのー、ね? オリガにはまだ早いかなあ、って、ねえ?」
「うん、オリガさん、まだ、知らない方が、いい」
「なっ!? まさか2人とも私を子ども扱いして!?」
「いやだって、ね?」
「ね。実際、子供、だし?」
「2人とも私が123歳だって忘れてませんか?」
「それって人間で言ったら12歳位だって聞いたけど?」
「うん、聞いた」
「それはそうですけど……」
納得できない様子のオリガにマヤは1つ確認することにした。
「わかった、それじゃあオリガ、1つ教えてほしいことがあるんだけどいいかな?」
「なんですか?」
「赤ちゃんってどうやったらできると思う?」
突然の質問に、オリガはボンッと音が聞こえそうなほど一気に顔を真っ赤にする。
「な、ななな、なんで突然そんなことを……」
「この質問にちゃんと答えられたら、オリガが大人だって認めてあげるから、答えてみて?」
少し恥ずかしそうにしながらも、真面目に話すマヤに、オリガは考え込む。
しばらくして、オリガは意を決してマヤを見た。
「その、愛し合う2人が、その……キス、を……すると、赤ちゃんが、でき……ます……」
顔を真っ赤にしてなんとか言い切ったオリガに、マヤとカーサは顔を見合わせると、穏やかな表情でオリガの頭をなで始めた。
「えーっと、これは一体……」
「オリガはもうしばらくそのままでいいんだよ?」
「うん、オリガさんは、そのままで、いて」
「ちょっと2人ともー! これはどういうことなんですかー!」
家具売り場に、何がなんだかわからないオリガの叫びが響き渡ったのだった。
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