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第2巻 エピローグ

ドワーフの結論

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「セルヒオさーん」

 久しぶりにドワーフの里にやって来たマヤは、セルヒオの屋敷に直行すると、そのまま外から声をかけた。

 ちなみに、今回は急ぎだったのでシロちゃんにマヤ1人で乗ってドワーフの里まで来ていた。

 SAMASサマスの隊員から預かった剣もオークの少女に手伝ってもらって、シロちゃんの後ろに積んである。

 マヤが、キョロキョロしていると、にこやかな初老のドワーフが姿を表す。

「これはこれはマヤ陛下。ようこそお越しくださいました」

 いかに自分も国王であるとはいえ、連絡もなしに突然訪れては怒られるかもしれないと思ったマヤだったが、どうやら杞憂だった様だ。

 それにしても、以前会ったときと比べて、セルヒオの態度が何というかマヤに媚びているような気がするのだが、気のせいだろうか。

「久しぶりだねセルヒオさん。来るのが遅くなってごめんね」

 バニスターが戦争を仕掛けてきたせいであり、別にマヤのせいではないのだが、それはそれ、これはこれとして、ドワーフの里を再び訪ねるのが遅くなってしまったのは事実なので、マヤは素直に謝ることにした。

「気になさらないで下さい。それより、今回お越しいただいたのはやはり以前お話いただいた件でしょうか?」

「そうそう。それで、どうかな? 私の国に入ってくれるかな?」

「それはもちろんです! 陛下が貴国の特殊部隊、SAMASサマスといったでしょうか? に我々の武器を持たせて頂いたおかげで、武器の発注が大幅に増えました」

「そうなんだ? でも、私達そんなに目立つような戦い方してないけど……」

 喜色満面で語るセルヒオだが、正直マヤは素直に信じることができなかった。

 マヤの狙い通りの結果ではあるのだが、たかだか1国の特殊部隊が使っていたというだけで、果たしてそれほど有名になったりするものだろうか。

 ましてこの世界にはテレビもインターネットもないのである。

 そんなに早く情報が伝わるとは、少し考え辛かった。

「なるほど……失礼ながらマヤ陛下、陛下は戦争についてどれくらいの知識をお持ちですか?」

 セルヒオの問いかけに、マヤはその小さな顎に手を当てて考える。

「うーん……正直、所詮殺し合いでしかなくて、勝っても負けてもいいことがない、ってくらいの知識しかないかな」

 どうにかまともなことを言おうと頑張ったマヤだが、結局何も思いつかなかったので、取り繕うことなく、自身の戦争に対する認識をそのまま話すことにした。

 そもそも戦争が過去ものであり、それを繰り返さないためにその悲惨さに重点を置いて学んできた現代日本人のマヤに、戦争の詳しい知識などあるわけがない。

「素直なことはいいことですよ、陛下。それに、陛下の言うことも間違いではありませんしね。しかし、今後はもう少しお勉強されたほうが良いかもしれません」

 セルヒオは苦笑しながらもマヤを立ててくれる。

 なるほど確かにセルヒオは商人なのだな、と実感したマヤだった。

「ううっ、勉強します……。それで、どうしてそんなこと聞いたのか教えてくれる?」

「いいですか? 戦争とは情報が命であり、その情報は戦争が始まる前から集めておくべきものなのです」

「情報を制するものが戦争を制する、ってこと?」

「そういうことです。それに、自分の国を戦争に巻き込まないためにも情報が重要ですから、戦争をするしないに関わらず、情報を集めておく必要がありますからね」

 確かに、マヤの乏しい戦争に関する知識でも、情報を軽んじて負けた、という例はあったような気がする。

(確か太平洋戦争の時の日本がそうだったんだっけ? よく覚えてないけど……)

「じゃあなに? 私達がバニスターと戦っているのを遠くから見ていた人がいたってこと?」

 そんな気配は全く感じなかったなマヤだが、魔法で遠隔から観察されていたらマヤには気づきようもない。

 もしかしたらオリガあたりなら気がついていたかもしれないが、悪意なくこちらを見ているくらいなら、オリガも対処していないだろうから、はやりマヤには知りようもなかった。

「そういうことでしょうね。皆さんキサラギ亜人王国の特殊部隊が持っていた武器をくれ、とおっしゃっていましたので間違いなく見ていた人はいたのでしょう」

「なるほどね……」

 正直こちらの世界を甘く見ていたマヤだが、情報収集に各国がそれだけ力を入れているなら、キサラギ亜人王国も自衛のために諜報部隊くらいは持っておかなければいけないかもしれない。

 今回のバニスターの宣戦布告も、バニスターの情報を事前に集めておけば、予め宣戦布告などされないように立ち回れたかもしれないのだ。

(まあ、バニスターの場合は、調べて妖精の杖の存在を知った時点でこっちから仕掛けてたかもしれないけどね)

 マヤが考え事としていると、セルヒオが話をもとの流れに戻して話し始めた。

「そういうわけですから、陛下のおかげで我々は大変いい思いをさせて頂いた、というわけです」

「じゃあ、うちの国に加入してくれるかな?」

「もちろんです。我が里を代表して、キサラギ亜人王国への加入を希望させていただきます」

 セルヒオの言葉に、マヤはほっと胸をなでおろす。

 正直、農業するにも戦うにも必要な道具や武器を、自国で十分に製造できないと言うのは、今後のことも考えるとよろしくないと思っていたのだ。

「良かったー、これで武器や道具を自分の国で作れるよ」

 こうしてキサラギ亜人王国にドワーフの里が加入することになった。

 数日後、キサラギ亜人王国の中心街にドワーフの武器や道具を扱う店舗が建設されることが決定し、SAMASサマスの隊員の剣も無事修理された。

 この時マヤは全く気にしていなかったが、セルヒオはドワーフ全体の代表ではなく、あくまでマヤが訪れた里の代表である。

 その結果としてキサラギ亜人王国に加入しているセルヒオの里のドワーフと、キサラギ亜人王国に加入していないセルヒオの里以外のドワーフという構造が生まれてしまい、これが後々問題になってくるわけだが、この時のマヤはそんなことを知る由もないのだった。
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