転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

文字の大きさ
上 下
81 / 324
第2巻 エピローグ

忘れていた交渉

しおりを挟む
「マヤお姉ちゃんマヤお姉ちゃん」

 エメリンが整備した保育園の建物ができるまでの間、マヤが子どもたちと遊んでいると、1人のオークの少女がマヤのところに走ってきた。

「こらこら、そんなに走ったら危ないよ」

「ごめんなさいっ!」

 マヤの言葉に、走ってきたオークの少女は素直に謝ると元気よくペコリと頭を下げる。

「うんうん、よく謝れました」

 マヤが頭を撫でてあげると、オークの少女は気持ちよさそうに目を細める。

「えへへー」

「それで、私になにか言いたいことがあったのかな?」

「はっ! そうだった! あのねあのね、さます? っていうところのお兄ちゃんがマヤお姉ちゃんのこと探してたよ」

SAMASサマスの隊員が? なんだろう、何かあったのかな?」

「なんかねー、けんがねー、えっとねー、なんだっけー?」

「けん? ああ、剣か! ありがとね、教えてくれて。じゃあちょっと行ってくるよ」

 マヤは遊んでいた子どもたちに手を振ると、マヤを呼んでいるという隊員のところに向かうことにした。

「「「いってらっしゃーい!」」」

「いってきま~す。それじゃあそのお兄さんのところに案内してくれるかな?」

「うん!」

 マヤを呼びに来た少女に連れられて、SAMASサマスの隊員のところにやってくると、隊員は手にした剣をいろいろな方向から見ていた。

 何をやっているのかわからずしばらく観察していると、隊員の方がマヤに気がついて駆け寄ってきた。

「陛下! まさか陛下の方から来てくださるとは! 申し訳ございません」

「いいよいいよ、私が勝手に来ただけだから。それでどうしたの? 剣がどうとかってこの子から聞いたけど」

 マヤがぽんっと頭に手を置くと、オーク少女は自慢げに胸を張る。

「ええ、実は、陛下から頂いたこのドワーフの里で作られた武器なんですが……」

「ああ、私がドワーフの里で買ってきたやつね」

 マヤはそう言いながら、なにか忘れていることはあったようななかったような気がしたのだが、それを思い出すまもなく、隊員は続きを話し始めてしまう。

「そうです、その武器です。それでですね、この武器なんですが、先日までの戦争で少々傷んでしまったようで……」

「そうなの? 見た感じ刃こぼれとかはしてなさそうだけど」

「はい、陛下のご命令で敵は斬っていませんから、切れ味はまだまだ問題ない状態です。ただ、斬らない代わりに剣の腹で殴っていたので、少し歪んでしまったみたいなんです」

 マヤは隊員がこちらに見せてきた剣を、全体的に眺めてみる。

「なるほど、確かに言われてみるとちょっと曲がってる感じだね」

「簡単な刃こぼれならオークの職人でも直せるんですが、こういう微妙な歪みを直すとなると難しいと言われてしまって」

「つまり、買い替えるか、ドワーフに頼んで直してもらうしかないってことか」

 さてどうしたものか、と考え始めたところで、ようやくマヤは先ほど思い出せなかったことを思い出した。

「ああ! そうだよ! ドワーフをうちの国に加入させるって話だったじゃん!」

 バニスターが宣戦布告してきたことで、すっかり忘れていたが、バニスターが宣戦布告して来る前、マヤはドワーフをキサラギ亜人王国に勧誘していたのだ。

「突然どうしたんですか、陛下」

「え? ああ、ごめんごめん。ちょっとすっかり忘れていたいたことがあってさ。ちょうどドワーフの里に行かないといけないことになったから、ついでにその武器直してもらってこようか?」

「そんな! 陛下にそんな小間使いみたいなことさせられませんよ!」

「気にしないでいいって、私一応国王ってことになってるけど、特にすることもないしさ。それについでに持っていくだけだし」

「陛下がそうおっしゃるなら……」

 隊員はまだ申し訳無さそうにしながら、剣をマヤに差し出した。

 隊員が軽々持っていたので、たいして重くないだろうと思い片手で受け取ったマヤだったが……。

「おっっっっもいね、これ」

 マヤはあまりの重さに思わず剣を落としそうになる。

「だ、大丈夫ですか、陛下!」

「大丈夫っだよっ、うんしょ、っと。これっ、くらいっ、持ってっ、いけるっ、からっ」

 マヤは半ば意地になって剣を両腕で抱える。

 なんとか抱えることはできているマヤだが、その両手足はぷるぷると震えている。

(強化魔法使えば軽々持てるんだろうけど、流石にこんなことに使うのはちょっとね……)

「ねえねえマヤお姉ちゃん」

「ど、どうしたのかな?」

「それもってあげよっかー?」

「ええ!? いや、やめたほうがいいと思うよ、重いし」

「だいじょうぶ! わたしちからもちだもん!」

 オークの少女は、マヤが抱えていた剣をマヤの腕の間からひょいっと引き抜くと、軽々と肩に担いだ。

「…………本当に力持ちなんだね」

「えへへ、すごいでしょー」

「ははははっ……………はあ。すごいすごい、それじゃあカーサのところまで運ぶの手伝ってくれるかな?」

 マヤは何に意地を張ってたのかわからなくなってしまって、剣の輸送は少女に任せることにした。

「うんっ! わかった!」
  
「それじゃ、私達は行ってくるよ。剣のことは任せて」

「はいっ! ありがとうございます!」

 深々と頭を下げると隊員に、マヤはひらひらと手を振って去っていく。

 マヤが見えなくなったあと、一人になった隊員はしばらく呆然としていた。

「陛下、いい人だな……それに、近くで見るとめちゃくちゃ可愛いし……って、いかんいかん、俺は何を」

 隊員は、大きく頭を振ると、訓練へと戻っていったのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...