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第2巻第4章 バニスター反攻作戦
決着
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「わ、たし、は……」
マヤの強化魔法がその体を包み込んでから、攻撃を止めていたオリガがゆっくりと声を発した。
「良かった、もとに戻ったみたいだね」
「そうでした、確かにマノロ将軍が謎の装置を私とレオノルさんに向けてきて……」
オリガは徐々に状況を理解していく。
「もしかして、私操られてました?」
「うん、少しの間だけね。でももう大丈夫でしょ?」
「はい、今はなんともありません……マヤさんの強化魔法が効きすぎていて少し力が有り余ってる感じですが……」
「そっかそっか、それなら良かった。それじゃあ、さっさとマノロ将軍を倒しちゃって終わりにしようか」
マヤは魔人制御装置を手に固まっているマノロ将軍を睨みつける。
「本当は穏便に対話で済ませたかったんだけどねー」
口調は相変わらず軽いマヤだが、その目は全く笑っていなかった。
ゆらりゆらりと近づいてくるマヤに、マノロ将軍は思わず後退りする。
「別にさ、私の国に喧嘩を売るのはいいんだよ? まだ誰も死んだりしてないしさ?」
後退りするマノロ将軍との距離を、一歩また一歩と詰めてくるマヤに、マノロ将軍は振り返って逃げ出そうとするが……。
「くそっ!」
「今回は俺も頭にきてるからよ? 逃げられると困るんだわ」
先んじて入り口を抑えていたファムランドによって、行く手を阻まれてしまう。
焦ったマノロ将軍が振り返った時には、マヤの顔が目と鼻の先に近づいていた。
「……っ! こうなっては仕方がないっ!」
最後の手段として用意していた剣を抜こうとしたマノロ将軍の右手を、マヤが上から押さえつける。
「させると思うのかな?」
そのまま力を込めたマヤに、マノロ将軍の表情が苦痛に歪む。
「ぐっ……、なんだ? 何だというのだ! この力は!?」
マノロ将軍が驚くのも無理はない。
マヤは本来非力な魔物使いなのだ。
だが今は、怒りのあまり無意識に自身へ強化魔法をかけているため、その力が大幅に強化されているのだ。
「とりあえず、これは壊さないとね」
マヤはマノロ将軍が持っていた魔神制御装置を手刀を叩き込む。
「ひぃっ!」
マヤの手刀を受けた魔神制御装置は、鋭利な刃物に切り裂かれたかのように真っ二つになっていた。
激しすぎる怒りに、マヤの可愛らしい顔はもはや微笑みを浮かべているようにすら見える。
そんな表情と暗い光を浮かべる瞳のせいで、今のマヤは余計に凄みを増していた。
「こっちも壊しとこうか? どうせオリガが治してくれるだろうし」
マヤはマノロ将軍の右手を抑えていた手に力を込める。
そしてそのまま、力任せに握りつぶした。
マノロ将軍の右手が、地面に真っ赤な華を描いて飛び散る。
「ぎゃああああああああ!」
爆散した右手を押さえつけながら転げ回るマノロ将軍に、マヤは冷ややかな視線を向ける。
「うるさいなあ……もう殺しちゃおうか」
人を殺さないことを信条としていたマヤだったが、自分の大切な仲間を操り人形にして弄ばれたことによる怒りで、完全に我を忘れているようだ。
容赦なく、先ほど魔人制御装置を両断した手刀をマノロ将軍の首へと振り下ろそうとしたマヤだったが、マノロ将軍の首に手刀が届く寸前で、マヤの手はピタリと止まった。
「やめて下さいマヤさん! そんなことをしたら絶対後悔しますよ!」
「マヤさん、やめて」
マノロ将軍にとどめを刺そうとしたマヤを、オリガとカーサが後ろから羽交い締めにして止めたのだ。
「2人とも……」
2人に止められたことで、マヤはようやく少し冷静さを取り戻した。
「落ち着きましたか?」
「ちょっとはね。まだこいつを許す気にはならないけど」
マヤが相変わらず冷たい視線を向けた先にでは、潰された右手を抑えてマノロ将軍がうめいていた。
「ううぅ……」
「それでも、マヤさんは、人を、殺したく、ないん、だよね?」
ゆっくりとしたカーサの言葉にマヤは落ち着きを取り戻していく。
「そう、だね…………ありがとね2人とも、勢い余って殺しちゃうところだった」
「気にしないで下さい。マヤさんが私のために怒ってくれて、私は嬉しかったですよ」
「うん、マヤさんは、仲間の、ために、怒った、だけ。仲間の、ために、怒るのは、いいと、思う、よ?」
「あははは、2人は優しいね。それじゃあオリガ、マノロ将軍を回復させてあげてくれる? カーサはその間にマノロ将軍から剣を取り上げといて」
「わかりました」
「わかった」
オリガが回復魔法をかけている間に、カーサが剣を取り上げ、マノロ将軍の右手が元通りになった時点でマノロ将軍を後ろ手に拘束する。
「さて、マノロ将軍、今更だけど交渉する気があるなら私としては応じてあげてもいいけど?」
マヤの言葉に、マノロ将軍は屈辱をその顔ににじませる。
「なぜ私はお前のようなぽっと出の小国の王と交渉せねばならんのだ……っ!」
「ふーん、そういう事言うんだ? いいんだよ、私は別に。あなたとあなたの支持者をまとめて牢屋にぶち込んで、バニスター将国を丸々支配下に入れても、さ」
冷たく言い放つマヤに、マノロ将軍はしばらくうつむいて黙り込んでしまう。
しばらくして、数度頭を大きく横に振ったかと思うと、マノロ将軍は顔を上げマヤを正面から見据えた。
「マヤ国王陛下、私はバニスター将国国家元首として、陛下に終戦交渉をお願いさせていただきたい」
「うん、いいよ。交渉してあげる」
こうして、キサラギ亜人王国とバニスター将国の戦争は終わりを告げた。
その後は、驚くほど早くことが進んでいった。
まず今回の戦争はすべてバニスター将国に否があるということで話が決着する。
その結果、キサラギ亜人王国はバニスター将国から多額の賠償金を得ることとなった。
加えて、キサラギ亜人王国で保護している捕虜兵とその家族について、正式にキサラギ亜人王国の国民としてよい、ということになった。
次に、エメリンの強い要望により、バニスター将国内のすべての奴隷が開放されることとなり、亜人奴隷についてはすべてキサラギ亜人王国への引き渡しされることになった。
亜人奴隷のキサラギ亜人王国への引き渡しに伴い、妖精の杖の部品にされていた奴隷も全てキサラギ亜人王国の引き渡され、後日到着したクロエの妖精姫の御手によって無事回復を果たした。
他にもマヤの代理となったエメリンが主体となり様々な交渉が行われたが、あまりにも多くのことが起きたので、ここでは割愛することとする。
兎にも角にも、キサラギ亜人王国とバニスター将国の戦争は、キサラギ亜人王国の圧勝で幕を閉じたのだった。
マヤの強化魔法がその体を包み込んでから、攻撃を止めていたオリガがゆっくりと声を発した。
「良かった、もとに戻ったみたいだね」
「そうでした、確かにマノロ将軍が謎の装置を私とレオノルさんに向けてきて……」
オリガは徐々に状況を理解していく。
「もしかして、私操られてました?」
「うん、少しの間だけね。でももう大丈夫でしょ?」
「はい、今はなんともありません……マヤさんの強化魔法が効きすぎていて少し力が有り余ってる感じですが……」
「そっかそっか、それなら良かった。それじゃあ、さっさとマノロ将軍を倒しちゃって終わりにしようか」
マヤは魔人制御装置を手に固まっているマノロ将軍を睨みつける。
「本当は穏便に対話で済ませたかったんだけどねー」
口調は相変わらず軽いマヤだが、その目は全く笑っていなかった。
ゆらりゆらりと近づいてくるマヤに、マノロ将軍は思わず後退りする。
「別にさ、私の国に喧嘩を売るのはいいんだよ? まだ誰も死んだりしてないしさ?」
後退りするマノロ将軍との距離を、一歩また一歩と詰めてくるマヤに、マノロ将軍は振り返って逃げ出そうとするが……。
「くそっ!」
「今回は俺も頭にきてるからよ? 逃げられると困るんだわ」
先んじて入り口を抑えていたファムランドによって、行く手を阻まれてしまう。
焦ったマノロ将軍が振り返った時には、マヤの顔が目と鼻の先に近づいていた。
「……っ! こうなっては仕方がないっ!」
最後の手段として用意していた剣を抜こうとしたマノロ将軍の右手を、マヤが上から押さえつける。
「させると思うのかな?」
そのまま力を込めたマヤに、マノロ将軍の表情が苦痛に歪む。
「ぐっ……、なんだ? 何だというのだ! この力は!?」
マノロ将軍が驚くのも無理はない。
マヤは本来非力な魔物使いなのだ。
だが今は、怒りのあまり無意識に自身へ強化魔法をかけているため、その力が大幅に強化されているのだ。
「とりあえず、これは壊さないとね」
マヤはマノロ将軍が持っていた魔神制御装置を手刀を叩き込む。
「ひぃっ!」
マヤの手刀を受けた魔神制御装置は、鋭利な刃物に切り裂かれたかのように真っ二つになっていた。
激しすぎる怒りに、マヤの可愛らしい顔はもはや微笑みを浮かべているようにすら見える。
そんな表情と暗い光を浮かべる瞳のせいで、今のマヤは余計に凄みを増していた。
「こっちも壊しとこうか? どうせオリガが治してくれるだろうし」
マヤはマノロ将軍の右手を抑えていた手に力を込める。
そしてそのまま、力任せに握りつぶした。
マノロ将軍の右手が、地面に真っ赤な華を描いて飛び散る。
「ぎゃああああああああ!」
爆散した右手を押さえつけながら転げ回るマノロ将軍に、マヤは冷ややかな視線を向ける。
「うるさいなあ……もう殺しちゃおうか」
人を殺さないことを信条としていたマヤだったが、自分の大切な仲間を操り人形にして弄ばれたことによる怒りで、完全に我を忘れているようだ。
容赦なく、先ほど魔人制御装置を両断した手刀をマノロ将軍の首へと振り下ろそうとしたマヤだったが、マノロ将軍の首に手刀が届く寸前で、マヤの手はピタリと止まった。
「やめて下さいマヤさん! そんなことをしたら絶対後悔しますよ!」
「マヤさん、やめて」
マノロ将軍にとどめを刺そうとしたマヤを、オリガとカーサが後ろから羽交い締めにして止めたのだ。
「2人とも……」
2人に止められたことで、マヤはようやく少し冷静さを取り戻した。
「落ち着きましたか?」
「ちょっとはね。まだこいつを許す気にはならないけど」
マヤが相変わらず冷たい視線を向けた先にでは、潰された右手を抑えてマノロ将軍がうめいていた。
「ううぅ……」
「それでも、マヤさんは、人を、殺したく、ないん、だよね?」
ゆっくりとしたカーサの言葉にマヤは落ち着きを取り戻していく。
「そう、だね…………ありがとね2人とも、勢い余って殺しちゃうところだった」
「気にしないで下さい。マヤさんが私のために怒ってくれて、私は嬉しかったですよ」
「うん、マヤさんは、仲間の、ために、怒った、だけ。仲間の、ために、怒るのは、いいと、思う、よ?」
「あははは、2人は優しいね。それじゃあオリガ、マノロ将軍を回復させてあげてくれる? カーサはその間にマノロ将軍から剣を取り上げといて」
「わかりました」
「わかった」
オリガが回復魔法をかけている間に、カーサが剣を取り上げ、マノロ将軍の右手が元通りになった時点でマノロ将軍を後ろ手に拘束する。
「さて、マノロ将軍、今更だけど交渉する気があるなら私としては応じてあげてもいいけど?」
マヤの言葉に、マノロ将軍は屈辱をその顔ににじませる。
「なぜ私はお前のようなぽっと出の小国の王と交渉せねばならんのだ……っ!」
「ふーん、そういう事言うんだ? いいんだよ、私は別に。あなたとあなたの支持者をまとめて牢屋にぶち込んで、バニスター将国を丸々支配下に入れても、さ」
冷たく言い放つマヤに、マノロ将軍はしばらくうつむいて黙り込んでしまう。
しばらくして、数度頭を大きく横に振ったかと思うと、マノロ将軍は顔を上げマヤを正面から見据えた。
「マヤ国王陛下、私はバニスター将国国家元首として、陛下に終戦交渉をお願いさせていただきたい」
「うん、いいよ。交渉してあげる」
こうして、キサラギ亜人王国とバニスター将国の戦争は終わりを告げた。
その後は、驚くほど早くことが進んでいった。
まず今回の戦争はすべてバニスター将国に否があるということで話が決着する。
その結果、キサラギ亜人王国はバニスター将国から多額の賠償金を得ることとなった。
加えて、キサラギ亜人王国で保護している捕虜兵とその家族について、正式にキサラギ亜人王国の国民としてよい、ということになった。
次に、エメリンの強い要望により、バニスター将国内のすべての奴隷が開放されることとなり、亜人奴隷についてはすべてキサラギ亜人王国への引き渡しされることになった。
亜人奴隷のキサラギ亜人王国への引き渡しに伴い、妖精の杖の部品にされていた奴隷も全てキサラギ亜人王国の引き渡され、後日到着したクロエの妖精姫の御手によって無事回復を果たした。
他にもマヤの代理となったエメリンが主体となり様々な交渉が行われたが、あまりにも多くのことが起きたので、ここでは割愛することとする。
兎にも角にも、キサラギ亜人王国とバニスター将国の戦争は、キサラギ亜人王国の圧勝で幕を閉じたのだった。
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