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第2巻第4章 バニスター反攻作戦

魔人制御技術

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「このドアの向こうがマノロ将軍の部屋?」

 マヤはたどり着いたドアの前で、レオノルを振り返って確認する。
 
「そのはずです」

「それじゃあ行くよ?」

 マヤはみんなに確認すると、ゆっくりとドアを開けた。

「やあ、キサラギ亜人王国の国王殿」

「や、やあ、マノロ将軍、久しぶりだね」

 ドアを開けた瞬間待ち構えていたマノロ将軍に、マヤは一瞬驚いたものの、努めて平静を装い、マノロ将軍に挨拶を返す。

 落ち着いた対応をしたマヤとは対照的な対応をしたのがオリガとカーサだった。

「下がってくださいマヤさん!」

「こいつの、首、いつでも、取れる、よ」

 マヤに保険としてかけていた最低限の防御魔法を強くするともにマヤに腕を引っ張って後ろに下げようとしたオリガと、マヤの前に出てマノロ将軍を剣の間合いに捉えたカーサ。

 マヤは、自分の護衛としてマノロ将軍に対応する二人をなだめる。

「落ち着きなって2人とも。とりあえずまずは対話から始めるつもりだからさ」

「マヤさんがそう言うなら……」

「うん、マヤさんが、そう言うなら、最初は、何も、しない」

 マヤの言葉にオリガとカーサは渋々といった様子で従う。

 とはいえ、脅威が去ったわけではないので、オリガは防御魔法を解除することはなく、カーサが剣から手を離すこともなかったのだが。

「それにしてもまさか、レオノル、お前がキサラギ側に付くとはな」

「お久しぶりです、将軍」

「お前は相変わらずいい体をしている。今からでもキサラギを裏切るなら、今すぐ抱いてやるぞ?」

「結構です将軍。私にはファムランドさんがいますので」

「ほう? 散々人間の男を食ってきたお前が、ようやく同族の男を見つけたということか。しかしファムランドとやら、いいのかそんな女で。それは数多の男を破滅させてきた女だぞ?」

「構わねえよ。レオノルが俺を好きで、俺もレオノルが好きなんだからそれだけで十分だろ?」

 レオノルをかばうようにマノロ将軍とレオノルの間に体を滑り込ませるファムランドに、マノロ将軍は冷ややかな視線を向ける。

「哀れな男だ。それで何人の男が破滅し――」

「ファムランドさんやっぱりかっこいい……好き……もう結婚して……っ!」

 自分をかばうファムランドに、レオノルはすっかり舞い上がってしまい、勢いでファムランドにプロポーズしてしまう。

「…………なんだと?」

 レオノルのプロポーズに反応したのは、意外な人物だった。

「どうしたのマノロ将軍?」

「あれだけ私の求婚を拒んだあいつが、まさか自分から結婚を申し出るとは……」

「あー、あれはちょっと事情があってね……」

 マヤがレオノルの支配者になり、レオノルに対してファムランドの前では素直になってしまう、という状態にしたためなのだが、そんなことをわざわざ説明してやる義理もない。

「まあ別に構わん。私はあれの力が欲しかっただけだしな」

「うわー、絵に書いたような利益史上主義のクズ発言だね」

「なんとでも言うといい。どうせお前はここで死ぬのだからな」

「おー、怖い怖い。でも、本当にそんなことできるのかな?」

「できるさ、できなければお前がこちらに近づいて来ていることに気がついていながら、放置したりなどしない」

「大した自信だね」

「それだけ時間をかけて開発した技術だからな」

 マノロ将軍はなにかの装置を取り出すと、オリガとレオノルに向けてからボタンを押し込んだ。

「一体何を……」

 マヤがマノロ将軍の行動の意味がわからないでいると、後ろからうめき声が聞こえた。

「うっ……っ!」

「くっ……っ!」

 振り返った先ではカーサとレオノルがそれぞれ左目と胸の中央を押さえてうずくまっていた。

「どうしたの、オリガ、レオノルさん!」

「これが、私がお前に勝てる理由だ」

 もはや対話は不要と考えたカーサは、マノロ将軍の首を跳ね飛ばすべく、その首元に向けて剣閃を走らせる。

「どう、して……」

 確実にマノロ将軍の首を捉えたと思っていたカーサは、予想もしない人物によって阻まれていた。

「オリガ? どうしてマノロ将軍をかばったり――」

 そう、マノロ将軍の首をめがけて狙い過たず迫っていたカーサの剣は、瞬時にマノロ将軍とカーサの間に移動したオリガの防御魔法によって阻まれていたのだ。

「危ないっ!」

 カーサはマヤに迫っていたレオノルを手刀からマヤを逃がすべく、マヤを素早く抱きかかえると、そのままジャンプしてマノロ将軍と大きく距離をとった。

「マヤさん、大丈夫?」

「う、うん。でも、まさかレオノルさんまで」

 マヤへの攻撃を外したレオノルは、マノロ将軍を背にして、マヤとカーサと対峙している。

 同様に、オリガもまたマノロ将軍の背にしてマヤとカーサと対峙していたが、ときおり頭痛を感じるのか、表情を歪めてこめかみを抑えている。

「あれは、操られてる、ってこと、なのかな?」

「そう、だと思う。たぶん、マノロ将軍の、あの、よくわからない、道具、のせい」

「だろうね。マノロ将軍を倒せば止められるだろうけど……」

「オリガと、レオノルさんを、一緒に、相手にして、倒して、マノロ将軍を、倒すのは、確実に、無理」

「やっぱりそうだよねえ。そうなっちゃうよねえ」

 マヤが頭を悩ませていると、マヤ同様レオノルに攻撃されたファムランドが近くにやって来る。

「突然どうしちまったんだ、レオノルのやつ」

「きっとあの装置のせいで、マノロ将軍に操られてるんだと思うんだよね」

「さっきのワケのわからねえ機械か」

「たぶんその機械だよ」

 オリガとレオノルに向けて使用していたところからして、まず間違いなくあの装置がオリガとレオノルを操っている装置で間違い無いだろう。

「そうだな…………俺がレオノルの相手をする、カーサとマヤでお嬢を相手してくれるか。それで先に片付いた方がマノロ将軍を叩く」

「了解、それじゃあそれで。カーサ、行くよ!」

「わかった」

 二手に分かれて対応しようとするマヤたちに、装置を手にしたマノロ将軍は嘲るように告げる。

「何をしようともう遅い! 私の魔人制御技術は完璧だ!」

「完璧だかなんだか知らないけど、私の強化魔法だって最強なんだから!」

 マヤは強化魔法の光の粒子をその身からほとばしらせながら、マノロ将軍の操るオリガとの戦闘を開始したのだった。
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