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第2巻第4章 バニスター反攻作戦
妖精の杖の影響
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(噂には聞いていましたが、まさかこれほどとは……)
妖精の杖の材料にされ、光のない目で中空を見つめている少女を見て、エメリンは言葉を失っていた。
(ここまで酷いなら、もっと早くバニスターを滅ぼしておくべきでしたね)
魔王は人間世界に干渉しない、という原初の魔王の取り決めを守るルーシェに従って、エルフを含めた亜人を平然と奴隷とするバニスターの所業を見逃していたわけだが、流石にこれは看過できるものではない。
(それにしても、これは普通に治癒魔法で治るんでしょうか?)
少女たちの状態は、エメリンが知る中ではエルフの秘薬によって心を閉ざされた状態に近い。
とりあえず、エメリンは自分が使える一番強力な治癒魔法を少女にかけてみた。
(……やはりだめですか。手足の拘束具でできた傷は治りましたが……それだけ、ですね)
エメリンの治癒魔法は傷を治すことはできたが、精神の方は治せないようだ。
(さて、困りましたね……クロエを呼んでみましょうか?)
秘薬の効果を唯一打ち消せるクロエの治癒魔法、妖精姫の御手なら、この少女たちの精神を開放できるかもしれない。
「……これは、いったい……」
クロエを呼ぼうかどうしようか考えていたエメリンは、少女たちの体にところどころおかしなところがあることに気がついた。
(目の色が……これは金が混じり始めている……のでしょうか? ということは……)
エメリンは少女たちの上着を捲くってその裸身を観察する。
(あざだと思っていましたが、私の治癒魔法でも治っていない………………なるほど、そういうことですか……)
エメリンは、自分の推測を補強するために、マッシュを呼んできた。
「どうしたのだ、エメリン」
「突然すみません。ちょっとマッシュさんに見てほしいことがありまして」
エメリンはエルフの少女の瞳を、その次に体のあざを指さした。
「魔人化しかかっているのか? いやエルフだからダークエルフ化か」
マッシュはエメリンの言葉と、エメリンが指さして少女の身体を見て、状況を理解したようだ。
「やっぱりそう思いますか?」
「ああ、不完全というか中途半端というか、明らかに私がジョンに行った見様見真似の魔人化よりもっとレベルが低いが、ほんの少しだがダークエルフ化しているのは間違いないだろうな」
「そうですか……魔石を取り込まないでダークエルフ化できるとは……私も聞いたことがない技術です」
「エメリンが聞いたことがないとなると、相当に珍しい技術なのだろうな。まあそもそも、魔人化の技術自体がベルフェゴールの独占技術だが」
「ということは、ベルフェゴールから技術が提供されたか漏れたか、そんなところでしょうか」
「そうだろうな。だが、何にせよこの少女たちは魔石から引き離せば直に治るのではないか?」
「魔人化は基本的に魔石の影響を受けた結果だから、ですか?」
「そうだ。だからこの少女たちはとりあえず問題ないだろう」
マッシュは裸身をさらしている少女に、近くにあった布を被せると、エメリンに向かい合った。
「それより、多少なりとも魔人化の技術を持った連中のところに、オリガやレオノルが向かっていることが心配だ」
「……オリガやレオノルを操る技術を持っているかもしれないと?」
魔人化の技術は秘匿技術であるがゆえに、まだわからないことが多い。
オリガは生まれ持ってのダークエルフ、つまり魔人であるため、魔人化技術による影響を受けないだろうが、ベルフェゴールによって魔人化されたレオノルは影響を受けてしまうかもしれない。
「操る、というのは難しいだろうが、一時的に魔法を使えなくする、くらいのことはできるかもしれない」
「それは少し心配ですね……」
「どうする? 娘が心配なら助けに行っても構わんぞ?」
「それは……」
エメリンはしばらく考える。
おそらくだがオリガが影響を受けることはないだろう。
だが、昔オリガがいなくなった時、他の子どもたちのこともあって探しに行くことができなかったことをエメリンはずっと後悔していたのだ。
「うちの子どもたちをお願いできますか?」
「任せろ。私とジョセフでお前の子供たちも、この国も、必ず守る」
マッシュやジョセフが子どもたちのことを見てくれるのであれば、エメリンの選択は1つしかなかった。
「マッシュさん、私はこれからオリガたちを追いかけます。おそらくその少女たちはクロエの治癒魔法なら治せるはずですから、クロエに連絡して治療に来てもらって下さい」
エメリンは早口で要点だけ伝えると、後ろを振り返りそのまま姿を消した。
「了解だ――もう聞こえていないか」
魔法による高速移動まで使って姿を消したエメリンに、マッシュは思わず苦笑する。
「かつて魔王を滅ぼしてまわった伝説の副官でも、ああなるとただの心配性な母親でしかないな。もう少し冷静になったほうがいいと思うが……」
マヤやオリガがいれば「お前がそれをいうか」とツッコミが入りそうだが、あいにく今マッシュの周りにいるのは心が閉ざされたエルフの少女たちだけだ。
「さて、それでは私もクロエに連絡するとしよう」
マッシュは摩耶から預かっている魔物にエルフの少女たちの見張りを任せ、伝令用の魔物を用意するべく監視所へと戻っていったのだった。
妖精の杖の材料にされ、光のない目で中空を見つめている少女を見て、エメリンは言葉を失っていた。
(ここまで酷いなら、もっと早くバニスターを滅ぼしておくべきでしたね)
魔王は人間世界に干渉しない、という原初の魔王の取り決めを守るルーシェに従って、エルフを含めた亜人を平然と奴隷とするバニスターの所業を見逃していたわけだが、流石にこれは看過できるものではない。
(それにしても、これは普通に治癒魔法で治るんでしょうか?)
少女たちの状態は、エメリンが知る中ではエルフの秘薬によって心を閉ざされた状態に近い。
とりあえず、エメリンは自分が使える一番強力な治癒魔法を少女にかけてみた。
(……やはりだめですか。手足の拘束具でできた傷は治りましたが……それだけ、ですね)
エメリンの治癒魔法は傷を治すことはできたが、精神の方は治せないようだ。
(さて、困りましたね……クロエを呼んでみましょうか?)
秘薬の効果を唯一打ち消せるクロエの治癒魔法、妖精姫の御手なら、この少女たちの精神を開放できるかもしれない。
「……これは、いったい……」
クロエを呼ぼうかどうしようか考えていたエメリンは、少女たちの体にところどころおかしなところがあることに気がついた。
(目の色が……これは金が混じり始めている……のでしょうか? ということは……)
エメリンは少女たちの上着を捲くってその裸身を観察する。
(あざだと思っていましたが、私の治癒魔法でも治っていない………………なるほど、そういうことですか……)
エメリンは、自分の推測を補強するために、マッシュを呼んできた。
「どうしたのだ、エメリン」
「突然すみません。ちょっとマッシュさんに見てほしいことがありまして」
エメリンはエルフの少女の瞳を、その次に体のあざを指さした。
「魔人化しかかっているのか? いやエルフだからダークエルフ化か」
マッシュはエメリンの言葉と、エメリンが指さして少女の身体を見て、状況を理解したようだ。
「やっぱりそう思いますか?」
「ああ、不完全というか中途半端というか、明らかに私がジョンに行った見様見真似の魔人化よりもっとレベルが低いが、ほんの少しだがダークエルフ化しているのは間違いないだろうな」
「そうですか……魔石を取り込まないでダークエルフ化できるとは……私も聞いたことがない技術です」
「エメリンが聞いたことがないとなると、相当に珍しい技術なのだろうな。まあそもそも、魔人化の技術自体がベルフェゴールの独占技術だが」
「ということは、ベルフェゴールから技術が提供されたか漏れたか、そんなところでしょうか」
「そうだろうな。だが、何にせよこの少女たちは魔石から引き離せば直に治るのではないか?」
「魔人化は基本的に魔石の影響を受けた結果だから、ですか?」
「そうだ。だからこの少女たちはとりあえず問題ないだろう」
マッシュは裸身をさらしている少女に、近くにあった布を被せると、エメリンに向かい合った。
「それより、多少なりとも魔人化の技術を持った連中のところに、オリガやレオノルが向かっていることが心配だ」
「……オリガやレオノルを操る技術を持っているかもしれないと?」
魔人化の技術は秘匿技術であるがゆえに、まだわからないことが多い。
オリガは生まれ持ってのダークエルフ、つまり魔人であるため、魔人化技術による影響を受けないだろうが、ベルフェゴールによって魔人化されたレオノルは影響を受けてしまうかもしれない。
「操る、というのは難しいだろうが、一時的に魔法を使えなくする、くらいのことはできるかもしれない」
「それは少し心配ですね……」
「どうする? 娘が心配なら助けに行っても構わんぞ?」
「それは……」
エメリンはしばらく考える。
おそらくだがオリガが影響を受けることはないだろう。
だが、昔オリガがいなくなった時、他の子どもたちのこともあって探しに行くことができなかったことをエメリンはずっと後悔していたのだ。
「うちの子どもたちをお願いできますか?」
「任せろ。私とジョセフでお前の子供たちも、この国も、必ず守る」
マッシュやジョセフが子どもたちのことを見てくれるのであれば、エメリンの選択は1つしかなかった。
「マッシュさん、私はこれからオリガたちを追いかけます。おそらくその少女たちはクロエの治癒魔法なら治せるはずですから、クロエに連絡して治療に来てもらって下さい」
エメリンは早口で要点だけ伝えると、後ろを振り返りそのまま姿を消した。
「了解だ――もう聞こえていないか」
魔法による高速移動まで使って姿を消したエメリンに、マッシュは思わず苦笑する。
「かつて魔王を滅ぼしてまわった伝説の副官でも、ああなるとただの心配性な母親でしかないな。もう少し冷静になったほうがいいと思うが……」
マヤやオリガがいれば「お前がそれをいうか」とツッコミが入りそうだが、あいにく今マッシュの周りにいるのは心が閉ざされたエルフの少女たちだけだ。
「さて、それでは私もクロエに連絡するとしよう」
マッシュは摩耶から預かっている魔物にエルフの少女たちの見張りを任せ、伝令用の魔物を用意するべく監視所へと戻っていったのだった。
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