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第2巻第4章 バニスター反攻作戦

正面から!?

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「バニスターに乗り込む、ですか?」

 妖精の杖を持った部隊が攻めてきた日の夜、マヤはマッシュとオリガとカーサ、それにエメリンとジョセフに今後の方針を相談していた。

「正気か? 確かに今日出てきた妖精の杖とやらがあちらの最高戦力ならそれも可能かもしれんが、そうとは限らんだろう?」

 マヤのバニスターへ乗り込むという提案に、マッシュは難色を示す。

『それに、妖精の杖に遣われていた子どもたちの治療も行う必要があります。私は参加できませんよ?』

 今日の戦闘で助け出してきたエルフの少女たちの治療のために、今も魔法による遠隔通話のみで会議に参加しているレオノルもまた、マッシュと同じくバニスターへ攻め込むことにはどちらかといえば反対のようだ。

「私は別に構いませんよ? バニスターの連中は一度地獄に落ちるべきだと思いますし」

「私も、大丈夫、だよ。マヤさんが、行くなら、ついて、いく」

「ありがとう、オリガ、カーサ。でもオリガ、もしバニスターに乗り込むことになってもやりすぎないでね?」

 生きたエルフの少女を兵器に加工する妖精の杖を見てからというもの、オリガはバニスターへの怒りが収まっていないようだ。

 もしこのままバニスターに連れて行ったらバニスター軍を一人で皆殺しにしてしまいそうである。

「しかし、オリガ殿とカーサ殿がついていってしまうとなると、この国は誰が守るのですか? もちろん私も戦えることは戦えますが、私一人で十分ということはないと思いますけど……」

 不安そうなジョセフに答えたのは、マヤではなくエメリンだった。

『そこは心配しないでいいんじゃないのジョセフ。一応私もいるし、マッシュさんとマヤさんの魔物の大半もこの国に残るみたいだし? そうでしょう? マヤさん?』

「そうなんですか、マヤさん?」

「相変わらずエメリンさんには私の考えてることなんてお見通しなんだね」

「今ある戦力を最も効率的に配置した結果ですよ。それがマヤさんの考えと一致しただけです」

「そういうことだから、この国の守りは大丈夫だと思うんだけど、どうだろジョセフ?」

「それならまあ、大丈夫だろうとは思います」

「よし、それじゃあ私のいない間の国の守りは任せたよ」

「承りました。最善を尽くさせていただきましょう」

 ジョセフはマヤの前に歩み出ると、胸を張って宣言する。

 相変わらず真面目な男だった。

 ともかく、これで国の守りは問題ないだろう。

「それじゃあ、次はどうやってバニスターに攻め込むかってことだけど……」

「正面からいって叩き潰すべきだと思います!」

「ちょっ!? オリガ? 怒ってるのはわかるけどちょっと落ち着――――」

 基本的に冷静なオリガらしからぬ意見に、マヤは慌てて止めようとするが、その言葉思わぬ賛同者の声によって遮られる。

「私も、正面から、叩き潰す、方が、いい、と思う」

 どうやら妖精の杖が許せなかったのはオリガだけではなかったようだ。 

「えー!? カーサまで!? 流石に真正面から突っ込むのは無理じゃないかなあ……一応相手は軍が強いことで有名な国なんだよ?」

 今まで出てきた兵は、たしかにSAMASサマスの隊員たちや、オリガやカーサに比べれば弱かったが、それがバニスターの最高戦力とは限らないのだ。

 よく戦争する国だからこそ、国の守りに最も戦力を割いている可能性だってあるかもしれない。

「だからこそです! 正面から叩き潰して私達の実力をわからせれば、さっさと降伏してくるかもしれないじゃないですか!」

「いやー、たしかにそうかもしれないけど……」

「私、負けない、から、大丈夫」

「カーサまで……そういうことじゃなくてさあ……」

 さてどうしたものか、とマヤが頭を抱えていると、レオノルとファムランドが遅れて部屋に入ってきた。

「あっ! ファムランド、レオノルさん、ちょうどいいところに!」

「おう、遅れてすまねえな。レオノルのやつが全然見つからなくてよ」

「…………あんな状態で会えるわけないじゃないですか」

「なんだ? 声が小さくてなんにも聞こえなかったぞ?」

「何でもありません! 陛下、ご迷惑をおかけしました」

「いいっていいって。…………元はと言えば私のせいだし…………それでさ、ちょっと2人に聞きたいことがあるんだけどさ」

「なんだ?」

「なんですか?」

「あのね、ファムランドにはさっき話したんだけど、今バニスターに攻め込もうってことになってるんだけどさ」

「そうらしいですね、ファムランドさんからさっき聞きました」

「それなら話が早い。2人はどうやって攻め込めばいいと思う?」

「そりゃあもちろん正面突破だろう!」

 あまりにも予想通りなファムランドの発言に、マヤは思わず頭を抱えそうになる。

 だが幸運なことに、頭を抱えそうになっているのはマヤだけではなかった。

 ファムランドの隣でレオノルもため息を付きながらこめかみを押さえていたのだ。

「ファムランドさん、たしかに私やファムランドさんはそこらのバニスター兵よりは強いですし、オリガさんやカーサさんがいるならバニスター兵がいくら束になってかかってきても問題にはならないでしょう」

「だろ? それならやっぱり――」

「話は最後まで聞いてください。いいですか? バニスター兵を片っ端から殺していいなら、たしかに今説明した通りで問題ありません。ですが、殺さずに無力化していくとなると話は別です」

「…………向こうで縛って置いとたりすれば、すぐに仲間が助けに来ちまってまたこっちに襲いかかってくるってわけか」

「そういうことです。マヤさん、私は正面突破ではなく、密かに侵入してマノロ将軍を狙うべきだと思います」

「だよね! 良かったー、みんな正面突破派だったらどうしようかと思ったよ」

「でもレオノルさん、密かに侵入するって言っても、そんなことできるんですか?」

 以前バニスターの捕虜兵の家族を助けに行った際に、密かにバニスターへ侵入したことはある。

 しかしあの時は比較的警備の手薄な収容所を狙ったから上手く行ったが、今回はそうはいかないだろう。

 普通に考えて、国家のトップの警備が適当なわけがないからだ。

「任せて下さい。実はその……マノロ将軍とは少々面識がありまして」

 レオノルは言葉の途中でファムランドの様子を伺って言葉を濁した。

 つまり想い人には聞かれたくない関係だったのだろう。

「じゃあ道案内はレオノルさんに任せようかな」

「了解です」

「よーしっ! そうと決まれば善は急げってことで、早速明日の朝出発しよう!」

 マヤの元気な声で、会議は終わった。

 正面突破案が却下されたオリガとカーサは、どこか不服そうだった。
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