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第2巻第3章 キサラギ亜人王国戦争

ファムランドという男

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「ファムランドさん!? こ、これはその!」

 ファムランドの突然の登場に、スカートを持ち上げさせられたままのレオノルは狼狽する。

 いつも冷静沈着なレオノルにしては珍しい反応だが、それも当然だろう。

 なにせ、好きな男性の前で下着をさらしているのである。

 慌てるなという方が無理な話だ。

「やあファムランド、もうそっち側のバニスター兵は無力化できたんだ?」

「ああ、お嬢とカーサのおかげでな。そんなことより、レオノルはどうしてマヤにその……下着を見せてるんだ?」

「あー、えーっとね、話すと長くなるんだけど……」

 マヤは顔を真っ赤にして固まってしまったレオノルに変わって、レオノルがベルフェゴール配下のダークエルフだったこと、レオノルの意志でマヤが支配を上書きし、今はマヤの支配下になったことを1から説明した。

「なるほど、レオノルはベルフェゴールとか言う魔王の配下だったのか」

「気づかなかった?」

「どうやって気づけってんだ? おっそろしく美人なエルフもいたもんだな、とは思ったがそれだけだ」

 ファムランドの言葉に、固まっていたレオノルが復活する。

「…………っ!? …………嬉しい、です…………えっ? 私は何を……」

「さっそく効果あり、だね」

 思わず本音を吐露してしまったレオノルに、マヤは力強く親指を立てる。

「何がですか! 陛下っ、これ今すぐ治して下さい!」

「えー、治し方はわかりませーん」

「なんですって!?」

「それに、ファムランドもこっちのほうがいいよね?」

「どういうことだ?」

 なんのことかわかっていないファムランドは、首を傾げている。

 それを見たマヤは、嬉しそうな笑みを浮かべると、ファムランドの耳に顔を近づける。

「いやー、実はね?」

 ファムランドに自分の状態を伝えようとするマヤに、レオノルは慌てて止めようとするが……

「ちょ、ちょっと陛下!」

「はーいストーップ」

「んぐっ!」

 今のマヤがレオノル操ろうとすれば本人意思を無視して下着をさらさせることもできるのだ。

 その場に静止させることくらい造作もなかった。

 泣きそうな表情でこちらを見るレオノルを尻目に、マヤはファムランドへと耳打ちしようとする。

「実は今のレオノルさんはね――」

 マヤが今のレオノルの状態をファムランドにバラそうとしたその時。

「マヤ、ちょっと待ってくれ」

「どうしたの、ファムランド?」

 突然マヤの言葉を遮ったファムランドに、マヤはファムランドの耳元から顔を離すと、ファムランドと向き合った。

「レオノルが俺に知られたくないと思ってるみたいだが、それでもお前さんは俺に伝えるのか?」

「え? うん、そのほうが面白そうだし」

「そんな理由でレオノルを泣かせるのか?」

「泣かせるってそんな大げさな」

 ファムランドはマヤの後ろを指差す。

 そこには、もはや両目に涙を浮かべてこちらを見ているレオノルの姿があった。

「あー、その……」

 本当に泣きそうになっているレオノルを見て、マヤは自分がやりすぎたことに気がついた。

 マヤとしては、レオノルのことをバラしてしまったほうが面白いと思ったし、その方がレオノルのためにもなると思ったのだ。

 だが、レオノルにとってはファムランドに今の自分の状態をバラされることは相当に嫌なことだったらしい。

「マヤ、なにか言うことがあるよな?」

「うん、ごめんねレオノルさん」

「よしっ! 流石はマヤだ、偉くなっても謝れるやつってはいい大将の証だぜ?」

「そうかな? そう言ってくれると嬉しいね」

「そうさ。それができねえ大将ってのは指摘したやつを粛清したりするからな」

「たしかにそうかも。もし私がそうなっちゃったらファムランドが止めてね」

「ははははっ! そうなったら俺でも止められねえからそうならないでくれよ? それはそうと、いい加減レオノルを動けるようにしてやってくれ」

「そうだった、すっかり忘れてたよ」

 ここで、ファムランドもマヤも、特に何も考えずにレオノルを動けるようにしようとしたわけだが、当のレオノルはむしろ、もう少し今のまま動きを止めておいてほしいと願っていた。

(今じゃべれるようになってしまったら、私はファムランドさんに何を言ってしまうんでしょうか!?)

 自分のために君主であるマヤに意見してくれたファムランドに、レオノルは絶賛ときめき中なのだ。

 このまま動けるようになってしまえば、何を言い出すかレオノルにもわからない、いや、何を言ってしまうかはだいたいわかっているのだが、それを言ってしまうのが怖いというのが正しいかもしれない。

「レオノルさん、もう喋っていいよ――――って、レオノルさん!? おーい、どこ行くのー!」

「ちょっと一人にさせて下さーいっ!」

 最終的にレオノルは、逃亡を選択した。

 マヤがレオノルを動けるようにした時点で、全速力で逃げ出したのである。

「どうしたんだ、レオノルのやつ?」

「あー、なるほど。あはははは……まあ、あんなこと言われちゃったら、たしかにもうね、うん」

 マヤはファムランドに冷ややかな視線を向ける。

「何だよその目は?」

「いやー、ファムランドってもしかして女たらしなのかなって思ってさ?」

「俺が女たらしだあ? そんなわけねーだろ。俺は未だに独り身だぜ?」

「あー、じゃあ無自覚なのか、さっきのは」

「どういうことだよ?」

「いやいや、なんでもないよ、気にしないで」

「何だよ気になるじゃねーか」

「レオノルさんのためにも教えられないかな」

「何だよそりゃ…………まあいいわ、それでバニスター兵どもはだいたい片付けたが、これからどうすんだ?」

「そうだねえ、もうめんどくさいし、マノロ将軍のところに乗り込んじゃおうかな」

「はっ、そりゃまた大胆な作戦だな、おい」

「でも、オリガがいればできそうじゃない?」

「あー、まあお嬢がいればできるだろうな」

「それに、ファムランドもレオノルさんも手伝ってくれるでしょ?」

「そりゃもちろん構わねえが、そんなことして国の守りは大丈夫か?」

「大丈夫じゃない? 私の魔物もおいていくし、マッシュもいるしね」

「それもそうか。そういうことなら、いっちょ乗り込むか!」

「うん! 乗り込もう!」

 こうして、マヤたちはバニスター将国に乗り込み、マノロ将軍と直接話をつけることにしたのだった。
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