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第2巻第3章 キサラギ亜人王国戦争

レオノルのしたいこと

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(私のしたいこと、ですか)

 マヤに口を塞がれたレオノルは、マヤに問われて初めての自分がしたいことについて考えていた。

(思えば、私は何がしたくてベルフェゴール様のところにいたのでしょうか?)

 ハーフエルフだということでエルフの村を追放されたレオノルは、路頭に迷っている時にベルフェゴールに拾われた。

 そしてベルフェゴールに魔法を教えてもらい、ベルフェゴールのスパイとして各国で軍の中に入り込み、情報をベルフェゴールに流してきた。

(別に、私は諜報活動が好きなわけでもやりたいわけでもありません。それがベルフェゴール様の命令だったから、そうするのが当然だと思って……痛っ)

 そこまで考えて、レオノルは軽い頭痛に襲われる。

(何だったんでしょうか、今のは? 何かの魔法が働いた?)

「もしかしたらベルフェゴールになにかされてるのかもね」

「んん!? んんんんんんん、んん!」

「心の声に返答するな、って? そんなこと言われてもなあ。だって口を自由にしたらこの魔法解除しちゃうでしょ? だったら心の中を読むしかないじゃん?」

(まさか私の考えていることが、全部わかっているんですか?)

「全部かはわからないけど、少なくともレオノルさんが心のなかで言葉にした事は聞こえてるかな、たぶんだけど」

(本当に、魔石が絡むと常識外れのことができますよね、陛下って……)

「まあね。その代わり、それ以外のことはなーんにもできないけど」

(それでも十分すごいですよ。それで私は追い詰められてるわけですし)

「別に追い詰めてるつもりはないんだけど……それより、レオノルさんがしたいことだよ。ちゃんと考えて?」

(そんなこと言われても、今までの命令に従って生きてきただけですし……)

「本当に~? 私実は、今の状態ならレオノルさんの最近の記憶の中で、インパクトがあったやつなら見えるっぽいんだけど、なんか命令と関係ない事してなかったかな?」

 マヤはニヤニヤと嬉しそうにレオノルの前で首をかしげてみせる。

(なんの、こと、でしょう……)

 レオノルは思い当たる節があるのか冷や汗をかきながらマヤへと視線を返す。

「とぼけるんだ? じゃあ言っちゃおうかなー。レオノルさんさ、ちょっとえっちな格好でファムランドと――――」


(あー! あー! あー! あー! あー! 聞こえません! 何も聞こえませんー!)

「うわっ……びっくりしたあ……もう突然頭の中で大声出さないでよ……鼓膜通ってないはずなのに鼓膜は破れるかと思った……」

 マヤは頭の中に響き渡った大音響に、目をギュッと閉じてしまう。

 レオノルを口を塞いでる手間で使って意味もなく耳を抑えそうになったが、それはなんとか我慢した。

(陛下が変なことを言うからです!)

 レオノルは耳の先まで真っ赤にしてマヤに避難の目を向けている。

「レオノルさんが素直じゃないからじゃん。もう言っちゃうけど、ファムランドと一緒に居たいんでしょう?」

(それは……)

 マヤの言葉に、レオノルは言葉に詰まる。

 確かにマヤの言う通り、レオノルはファムランドと一緒に居たいと思っている。

 レオノルにとって初めての感情なのでまだこれがそうなのか確信がないが、レオノルはファムランドのことが好きなのだと思う。

「どうなの? じゃあファムランドと離れ離れになってもいいの?」

(それは困ります!)

「なーんだ、やっぱりそうなんじゃん」

(私は一体何を言って……)

「それがレオノルさんの本心ってことでしょ? いいじゃんいいじゃん、それだけファムランドのことが好きなんでしょ?」

(まだ好きと決まったわけでは……それにファムランドさんは私のことなんてなんとも思ってないかもしれないですし……)

「相手がどう思ってるか気になってる時点でもう好きってことだと思うけどね。まあいいや、それはこれから確かめるとして……」

 マヤはレオノルの口を抑えつつ、両手に強化魔法の光を宿らせる。

「レオノルさんが自分の意志で私達に危害を加えようとしてるわけじゃないことはわかったし? どうやらファムランドにぞっこんで何がどうなってもファムランドには攻撃できないだろうし? 私が開放してあげるよ」

(開放するって、どういう………………っっっ!?)

 レオノルが見ている前で、マヤはレオノルの胸に収まってる魔石へと強化魔法をかけた。

 それはすなわち、レオノルに強化魔法をかけたということだ。

 今の状態でレオノルに強化魔法をかけたりすれば、レオノルがマヤの拘束から逃れて通絶ジャミングを解除し、ベルフェゴールと連絡をとることもできるはずだ。

 しかし、レオノルがそれをすることはなかった。

(温かい……これが、陛下の強化魔法ですか……)

 無味乾燥なベルフェゴールの強化魔法とこなり、マヤの強化魔法には、マヤの心が感じられた。

 マヤの本心からレオノルを救おうと言う思いに触れ、レオノルは抵抗の意志を失い、マヤの強化魔法を受け入れる。

「そうだ、ついでに……」

 温かなマヤの強化魔法を受け入れていたレオノルだったが、何か思いついて嬉しそうなマヤの言葉に、なんだか胸騒ぎがした。

 レオノルは口を塞いでいたマヤの手を退かすと、マヤへと振り返る。

「陛下、いったい何を――」

「え? いや、ついでにファムランドの前では絶対に嘘をつけないようにしとこうかなって」

「なっ!? やめて下さい! 絶対に! そんなことされたら一瞬で……」

「いやー、ごめんごめん、もうやっちゃった」

 悪びれる様子もなく笑っているマヤに、レオノルは絶望的な気持ちになる。

「なんてことを! 次ファムランドさんに会ったら私はどうすれば……」

「告白しちゃえば?」

「簡単に言わないでください! 私はまともに恋愛なんてしたことないんですよ!」

「今までは全員手玉に取ってたわけだもんね」

「……何か、アドバイスはないんですか?」

「アドバイスねえ……私も恋愛経験ないしなあ」

「はああ? さっきあれだけ偉そうに色々言ってたのにですか?」

「うん。さっき言ってたのも小説の受け売りだし」

「そんなので説得された私って……」

「まあまあいいじゃない。それよりどう? なんか変わってない?」

「ええっと、特には変わってないみたいですが……」

「まあそれもそうか。レオノルはジョセフと違って精神支配まで受けてたわけじゃないみたいだし。でもね、たぶんだけどもうベルフェゴールはレオノルさんを操ったり視覚共有したりはできないはずだよ」

「陛下が私の支配者になったからですか?」

「私は支配するつもりなんてないけど、まあそうだね。その証拠に」

 マヤはいたずらでレオノルに「スカートを持ち上げてパンツこっちに見せるように」という指示をする。

「な、何を、や、やめ、陛下! やめて下さい!」

 レオノルは自分の意志に反して動く両腕に必死で抵抗するが、それも虚しくスカートは完全にめくりあげられてしまう。

「なるほどー、いろんなところで男を惑わせてた割には、清純な感じなんだね」

 マヤはレオノルの純白の下着を見て、冷静にそんな感想を言う。

(改めて実感するけど、やっぱりもうほとんど女の子なんだね、私)

 昔の、真也だった頃のマヤなら、今目の前にある光景には大層興奮しただろうが、今のマヤには「意外と純情なのかな?」くらいの感想しかない。

 それはさておき、レオノルが無事ベルフェゴールの支配から開放されていることがわかったマヤは、レオノルに出している「スカートを持ち上げてパンツこっちに見せるように」と言う指示を終わりにしようとしたのだが……

「何やってんだ、マヤ? それにレオノルも」

 おおよそ最悪のタイミングで、ファムランドがやってきてしまったのだった。 
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