69 / 324
第2巻第3章 キサラギ亜人王国戦争
レオノルとマヤ
しおりを挟む
「それっ!」
マヤは魔物たちの攻撃で誘導したレオノルに、自らが騎乗するシロちゃんの前足を叩きつける。
「決まっ――てないか……」
完全にレオノルを捉えたかに見えた一撃だったが、どういうわけかシロちゃんの前足がレオノルを捉えることはなかった。
次の瞬間には、先ほどまでレオノルを包囲していた魔物たちの後方に移動していたレオノルによって、マヤは魔法の集中砲火を浴びる。
「わわっ!? あっぶな~。危うく蜂の巣になるところだった」
すんでのところで回避したマヤは、レオノルから距離を取った場所にシロちゃんを着地させる。
「やはり、魔物がいる限り陛下を殺すのは無理そうですね」
(陛下が魔物を呼び出しているのは、どうやらあの腕輪の効果のようですね)
レオノルは戦いを続けながら、マヤの能力を一つ一つ冷静に分析していた。
(あれだけの魔力を持っていながら、陛下は一度たりとも攻撃魔法はおろか防御魔法すら使っていない……つまり、強化魔法以外は使えない、と見ていいでしょう)
当たれば致命傷になりうる攻撃ですら、騎乗するシロちゃんの機動力で回避しているマヤを見て、レオノルはマヤのおおよその能力に見当をつける。
「私を殺せっていうのがベルフェゴールからの命令?」
「…………」
「だんまり、か。いいけどさ。それで、魔物がいると難しいならどうするつもりかな?」
「こうさせてもらいます。通絶」
レオノルが呪文を唱えると、その体を中心に薄黒い膜のようものが広がり、それに触れた魔物たちが次々と姿を消していく。
「これをやると、ベルフェゴール様の視覚共有まで無効化されるので、できるだけ使わないように言われているのですが、この際仕方ありません」
「何をしたの?」
一見落ち着いているように見えるマヤだが、実際は平静を装うのに必死だった。
頼みの綱の魔物たちがいなくなってしまったのだから当然である。
「別に大した魔法じゃないですよ。普通の魔法使いにとっては特に意味のない魔法です」
「じゃあどうしてシロちゃんたちが……」
「安心してください、死んだわけではありませんから」
「どういうこと?」
「陛下の魔物たちには、オリガさんの魔法空間に戻って貰っただけです」
「戻ってもらったって、どういう……そうか! そういうことか! ここは今外とは繋がってないんだね?」
マヤは先ほどレオノルが言っていたベルフェゴールとの視覚共有が無効化されるという言葉と、今のシロちゃんたちには戻ってもらったという言葉で、先ほどレオノルが発動した魔法の効果を理解した。
「なかなか察しがいいですね。その通りです。今ここは外部からの魔法的接続をすべて断ち切った状態です」
「つまり、私は魔物を呼び出せなくてレオノルさんにはなんの影響もないってことね」
「そういうことです」
もうマヤには脅威がないと判断したためか、レオノルはゆっくりと歩いてマヤへと近づいてくる。
「これで陛下はただの女の子。先ほどまで同様魔法が使える私の敵ではありません」
「そう、かもね」
マヤはレオノルが油断しているすきに、目を凝らして周囲を見渡した。
(レオノルさん以外に、魔石の魔力は無いっぽいね)
マヤはレオノルに視線を戻す。
数歩先まで近づいて来たレオノルにマヤは不敵な笑みを浮かべる。
「どうしたんです? まだ何かあるっていうんですか?」
「あるって言ったら?」
余裕を崩さないマヤに、レオノルもやや警戒を強めたようだが、だからといって何もできないことを確信しているからか、レオノルが歩みを止めることはなかった。
「ハッタリです」
「ハッタリじゃ、ないんだよね! 強化!」
マヤの大声に思わず足を止めたレオノルから目をそらさず、マヤは自分の胸に自分の右手を叩きつける。
「何を!?」
驚愕するレオノルの前で、マヤの体が淡く発光したかと思うと、マヤの白銀の髪が根本から黒く染まり、透き通った白い肌は小麦色へと変わっていく。
「まだまだ! 強化!!」
マヤが今度は空いていた左手を勢いよく自らの胸に叩きつける。
すると、一度は黒く染まった髪は白銀の輝きを取り戻し、小麦色の肌は白磁のごとき透き通った肌へと戻っていった。
「何を、したんですか?」
「ダークエルフのレオノルさんならわかるんじゃない?」
マヤが行ったのは、自分へ強化魔法をかけるというだけのことであり、原理としてはレオノルが、ベルフェゴールから強化魔法をかけてもらっていたのと何ら変わりはない。
だからこそ、レオノルにも何をしたかの見当はついており、本当に聞きたいのはそこではないのだ。
「自分へ強化魔法をかけたことはわかります――でも、陛下が使ったのは魔物を強化する魔法のはずです。それでどうして人間の陛下が……」
「さあ? でも、最近できるようになったんだよね」
実際はマッシュからもらったマヤと相性がいいという魔石を飲み込んだからなのだが、素直に教える義理もないので、マヤはすっとぼけることにした。
「計画が狂いました。こうなったらベルフェゴール様をお呼びして――」
「させると思う?」
「んんーっ!?」
通絶を解除してベルフェゴールに連絡を取る素振りを見せたレオノルの口を、一瞬のうちにその背後に移動したマヤの手が塞いでしまう。
「我ながらめちゃめちゃ速いな……。自分で走って壁とかにぶつかったらたぶん死ぬ気がする……」
レオノルを圧倒しながら、マヤはそんなのんきなことを言っている。
それくらいには、今の一瞬で彼我の戦力差が歴然であることがわかり、結果としてマヤの心には余裕が生まれていた。
「それでさ、もう一度質問させてほしいんだけど、レオノルさんは一体どうしたいのかな?」
「んんん、んんんんっ、んんんんんんんんんっ!」
「手をどけてくれないと何も話せないって? 大丈夫大丈夫、レオノルさんの魔石経由で何考えてるかはわかるからさ? だからこのまま教えてほしいな、レオノルさん自身はどうしたいかってことを、ね?」
マヤはレオノルを目を覗き込んで、改めて問いかけたのだった。
マヤは魔物たちの攻撃で誘導したレオノルに、自らが騎乗するシロちゃんの前足を叩きつける。
「決まっ――てないか……」
完全にレオノルを捉えたかに見えた一撃だったが、どういうわけかシロちゃんの前足がレオノルを捉えることはなかった。
次の瞬間には、先ほどまでレオノルを包囲していた魔物たちの後方に移動していたレオノルによって、マヤは魔法の集中砲火を浴びる。
「わわっ!? あっぶな~。危うく蜂の巣になるところだった」
すんでのところで回避したマヤは、レオノルから距離を取った場所にシロちゃんを着地させる。
「やはり、魔物がいる限り陛下を殺すのは無理そうですね」
(陛下が魔物を呼び出しているのは、どうやらあの腕輪の効果のようですね)
レオノルは戦いを続けながら、マヤの能力を一つ一つ冷静に分析していた。
(あれだけの魔力を持っていながら、陛下は一度たりとも攻撃魔法はおろか防御魔法すら使っていない……つまり、強化魔法以外は使えない、と見ていいでしょう)
当たれば致命傷になりうる攻撃ですら、騎乗するシロちゃんの機動力で回避しているマヤを見て、レオノルはマヤのおおよその能力に見当をつける。
「私を殺せっていうのがベルフェゴールからの命令?」
「…………」
「だんまり、か。いいけどさ。それで、魔物がいると難しいならどうするつもりかな?」
「こうさせてもらいます。通絶」
レオノルが呪文を唱えると、その体を中心に薄黒い膜のようものが広がり、それに触れた魔物たちが次々と姿を消していく。
「これをやると、ベルフェゴール様の視覚共有まで無効化されるので、できるだけ使わないように言われているのですが、この際仕方ありません」
「何をしたの?」
一見落ち着いているように見えるマヤだが、実際は平静を装うのに必死だった。
頼みの綱の魔物たちがいなくなってしまったのだから当然である。
「別に大した魔法じゃないですよ。普通の魔法使いにとっては特に意味のない魔法です」
「じゃあどうしてシロちゃんたちが……」
「安心してください、死んだわけではありませんから」
「どういうこと?」
「陛下の魔物たちには、オリガさんの魔法空間に戻って貰っただけです」
「戻ってもらったって、どういう……そうか! そういうことか! ここは今外とは繋がってないんだね?」
マヤは先ほどレオノルが言っていたベルフェゴールとの視覚共有が無効化されるという言葉と、今のシロちゃんたちには戻ってもらったという言葉で、先ほどレオノルが発動した魔法の効果を理解した。
「なかなか察しがいいですね。その通りです。今ここは外部からの魔法的接続をすべて断ち切った状態です」
「つまり、私は魔物を呼び出せなくてレオノルさんにはなんの影響もないってことね」
「そういうことです」
もうマヤには脅威がないと判断したためか、レオノルはゆっくりと歩いてマヤへと近づいてくる。
「これで陛下はただの女の子。先ほどまで同様魔法が使える私の敵ではありません」
「そう、かもね」
マヤはレオノルが油断しているすきに、目を凝らして周囲を見渡した。
(レオノルさん以外に、魔石の魔力は無いっぽいね)
マヤはレオノルに視線を戻す。
数歩先まで近づいて来たレオノルにマヤは不敵な笑みを浮かべる。
「どうしたんです? まだ何かあるっていうんですか?」
「あるって言ったら?」
余裕を崩さないマヤに、レオノルもやや警戒を強めたようだが、だからといって何もできないことを確信しているからか、レオノルが歩みを止めることはなかった。
「ハッタリです」
「ハッタリじゃ、ないんだよね! 強化!」
マヤの大声に思わず足を止めたレオノルから目をそらさず、マヤは自分の胸に自分の右手を叩きつける。
「何を!?」
驚愕するレオノルの前で、マヤの体が淡く発光したかと思うと、マヤの白銀の髪が根本から黒く染まり、透き通った白い肌は小麦色へと変わっていく。
「まだまだ! 強化!!」
マヤが今度は空いていた左手を勢いよく自らの胸に叩きつける。
すると、一度は黒く染まった髪は白銀の輝きを取り戻し、小麦色の肌は白磁のごとき透き通った肌へと戻っていった。
「何を、したんですか?」
「ダークエルフのレオノルさんならわかるんじゃない?」
マヤが行ったのは、自分へ強化魔法をかけるというだけのことであり、原理としてはレオノルが、ベルフェゴールから強化魔法をかけてもらっていたのと何ら変わりはない。
だからこそ、レオノルにも何をしたかの見当はついており、本当に聞きたいのはそこではないのだ。
「自分へ強化魔法をかけたことはわかります――でも、陛下が使ったのは魔物を強化する魔法のはずです。それでどうして人間の陛下が……」
「さあ? でも、最近できるようになったんだよね」
実際はマッシュからもらったマヤと相性がいいという魔石を飲み込んだからなのだが、素直に教える義理もないので、マヤはすっとぼけることにした。
「計画が狂いました。こうなったらベルフェゴール様をお呼びして――」
「させると思う?」
「んんーっ!?」
通絶を解除してベルフェゴールに連絡を取る素振りを見せたレオノルの口を、一瞬のうちにその背後に移動したマヤの手が塞いでしまう。
「我ながらめちゃめちゃ速いな……。自分で走って壁とかにぶつかったらたぶん死ぬ気がする……」
レオノルを圧倒しながら、マヤはそんなのんきなことを言っている。
それくらいには、今の一瞬で彼我の戦力差が歴然であることがわかり、結果としてマヤの心には余裕が生まれていた。
「それでさ、もう一度質問させてほしいんだけど、レオノルさんは一体どうしたいのかな?」
「んんん、んんんんっ、んんんんんんんんんっ!」
「手をどけてくれないと何も話せないって? 大丈夫大丈夫、レオノルさんの魔石経由で何考えてるかはわかるからさ? だからこのまま教えてほしいな、レオノルさん自身はどうしたいかってことを、ね?」
マヤはレオノルを目を覗き込んで、改めて問いかけたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
552
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる