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第2巻第2章 バニスターの宣戦布告
罠
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「ゴーレム?」
「いかにも」
明らかに岩でできているゴーレムが、あまりにも流暢に話すので、マヤは驚いてしまった。
「しゃべるんだ、ゴーレムなのに……」
「しゃべってはいけないのか?」
いけないのか、と聞かれると、確かにゴーレムがしゃべってはいけないということはないだろう。
とはいえ、しゃべるゴーレムといえばもっと人間っぽい形をしているものだが、マヤの目の前にいるのは人形は人形だが3メートルはあろうかという見るからに岩製のゴーレムだ。
そのゴーレムがしゃべるというのは、なんとも違和感だった。
「いやそんなことないけど……あんまりにも岩っぽいから不思議な感じ」
「そうか、違和感か……」
「もしかして落ち込んでる?」
「まさか。生来私はこうなのだ。他人に少しなにか言われたくらいで落ち込みはせん」
「なんだ、メンタル強いじゃん。さすが岩製」
「体に強度と心の強度は関係ないと思うが……それで、侵入者よ、お前の目的はなんだ?」
「ありゃ、話しそらして見逃してもらおうと思ったんだけど、失敗?」
「当たり前だ。そんな作戦が我に通じると思ったのか?」
「割と? 襲いかかってくる前に話しかけてくるようなゴーレムだし」
余裕ぶってみてはいるが、マヤの頭はパニック寸前だった。
(やばいやばいやばいやばいやばいやばいっ! どうすんの? ねえどうすんのこれ? どうすればいい? やばいやばいやばいやばいやばいって!)
「ふむ、一理ある。このような状況にも関わらず冷静だな。強者の余裕というやつか」
「あはは、それはそうだろうねー」
(そんなわけないじゃんっ! 雑魚も雑魚だよっ! オリガもカーサもシロちゃんもいない私なんてただの女の子なんだけど!?)
「仕方ない、お前のような強者と真っ向からぶつかるのは怖くもあるが、やるしかないか」
「ちょっ、ちょっと待っ――」
「問答無用!」
マヤの静止も虚しく、ゴーレムが一気に距離を詰めると、その大きな拳をマヤに向かって叩きつけた。
「わわっ!」
マヤは間一髪でゴーレムの攻撃をかわす。
「やはり強者か」
「勘違いだと思うなー!」
マヤは言いながら全力疾走する。
「逃がすか!」
逃げるマヤに、ゴーレムはその巨体からは想像できないほどの速度で追いかけてくる。
3メートル近くある身長にふさわしい大きな歩幅で走るゴーレムが、そもそも走るのが遅いマヤに追いつけないわけもなく……。
「はあはあはあはあ……うわっ!」
体力が体力がつき足が絡まったマヤが転んだことで、マヤは一瞬で追い抜かれ、前に回り込まれていた。
「観念するんだな、侵入者よ」
「これは、本格的におしまいかも……ん? あれは……」
地面に倒れているマヤの少し前、マヤとその前に立ちはだかるゴーレムの間に、きれいに磨かれた闇色の石が落ちていた。
(魔石? なんでこんなところに……それにどこかで見たような……)
マヤはその魔石が気になってしまい、必死に思い出そうとする。
それは、絶体絶命の状態ゆえの現実逃避かもしれなかった。
(えーっとえーっと、何だっけ……確かマッシュが……)
『いいかマヤ、魔石と一口に言っても、それぞれ個性があるのだ。そして個性があれば当然相性もある。それは人と魔石にも当てはまるのだ』
マヤはマッシュが魔石を整理している時に話してくれたことを思い出した。
(そうだ! 確かあの時マッシュから貰ったんだ)
『魔石と人の相性などと言われても、力でゴリ押すマヤのような魔物使いにはピンとこないだろうな。ものは試しだ、私がひとつお前と相性の良い魔石を選んでやるとしよう』
(思い出した! あれは私と相性がいいらしい魔石だ! なんやかんやでずっと持ってたんだった)
最近はペンダントにしてつけていたので、持っていることをすっかり忘れていたが、さっき転んだ拍子に外れて魔石だけ落ちてしまったのだろう。
(いやー、すっきりしたー…………じゃなくて! 結局なんの解決策にもなってないじゃん! いやあれで解決できるとも思ってなかったけどさ!)
「侵入者よ、万策尽きたのか?」
「へ? え、あ、うん、たぶんね。どうしたの? そんなこと聞かずに殺しちゃえばいいじゃん」
「それはそうなのだがな……お前、さては弱いだろう?」
「今頃気がついたの?」
「ああ、お前の態度に騙されていたようだ」
「だろうと思ったよ。でも、逃してくれるわけじゃないんでしょう?」
「当然だ。だが、私に弱者をいたぶる趣味はない。好きなだけ抵抗すると良い。お前が諦めた時、苦しむ間もなく殺してやる」
「優しいんだか優しくないんだかわからないゴーレムだね、あなた」
「許せ、お前を逃がすことができない以上これが私にできる精一杯だ」
「まあいいけど、じゃあもうちょっと考えさせてもらおうかな」
「好きにするとよい」
ゴーレムはそれだけ言うと、マヤから少し離れたところに移動して、そこで立ったまま動かなくなった。
本当に攻撃してくる気配のないゴーレムに、マヤは一旦落ち着いて打開策を考えることにする。
(今手元にあるのは、ここでは機能しない腕輪と私と相性がいいらしい魔石、それとハンカチとかちり紙とかの日用品が少し、か)
正直、もう素手で殴るくらいしかできることがない気がするが、それをしたところで手が痛くなって終わりだろう。
(せめてどこかに動物がいれば、一か八かこの魔石で魔物化してみてもいいんだけど……)
立ち上がってあたりを見渡し、ついでに歩き回ってみるが、動物など影も形もなかった。
(いるのは私とあのゴーレムだけ、か)
マヤは律儀に待ってくれているゴーレムの近くに戻ってくると、唯一なにかに使えそうな魔石を見て考える。
(魔石があっても魔物がいなくちゃ意味がない、でも動物はいなくて、いるのは私とゴーレムだけ……………………ん? いるのは私…………私はいるのか……)
なにか閃きかけたマヤは、その引っかかりを手放さないように落ち着いて考えを深めていく。
(私、はいる、それは当たり前だよね…………で、私は人間、なわけで……人間は、動物とも言える、よね…………動物さえいれば、魔石はあるから、魔物が作れる…………あっ! うーんでも、あの時はマッシュが色々準備してたし……いや、このまま何もしなかったらあのゴーレムに殺されるだけだし、一か八かやってみますか!)
マヤは覚悟を決めると、両手で自分の頬をパンパンッと叩き、魔石を持って立ち上がる。
「準備はできたか、侵入者よ」
「できたよ! それから私はマヤ。最後かもしれないし良ければ覚えといてよ」
「いいだろう。私も名乗らせてもらおう。我が名はルース。それではマヤ、好きなだけ最後の抵抗をするが良い」
「言われなくても……ええい、ままよ」
マヤはやや躊躇したが、しらたまくらいの大きさのマヤと相性がいいらしい魔石を飲み込んだ。
「よし! 一か八か! 強化!!!」
マヤがいつもの如く魔物の強化魔法を唱えると、マヤの手から大量の光の粒子が発生する。
いつもなら強化対象の魔物に向かっていくはずの光の粒子が、今は対象がいないからか真上に向かって伸びていた。
「どうした、失敗か?」
「……かもね」
マヤも諦めかけたその時、真上に向かっていた光の粒子が、マヤへと降り注ぐ。
マヤは、体中に力がみなぎるのを感じた。
「なんだ、その力は?」
ゴーレムゆえにその表情は読めないが、その声には驚きの色が混じっていた。
「わかんないけど、上手くいったっぽい。それじゃあ、いっくよー!」
「いかにも」
明らかに岩でできているゴーレムが、あまりにも流暢に話すので、マヤは驚いてしまった。
「しゃべるんだ、ゴーレムなのに……」
「しゃべってはいけないのか?」
いけないのか、と聞かれると、確かにゴーレムがしゃべってはいけないということはないだろう。
とはいえ、しゃべるゴーレムといえばもっと人間っぽい形をしているものだが、マヤの目の前にいるのは人形は人形だが3メートルはあろうかという見るからに岩製のゴーレムだ。
そのゴーレムがしゃべるというのは、なんとも違和感だった。
「いやそんなことないけど……あんまりにも岩っぽいから不思議な感じ」
「そうか、違和感か……」
「もしかして落ち込んでる?」
「まさか。生来私はこうなのだ。他人に少しなにか言われたくらいで落ち込みはせん」
「なんだ、メンタル強いじゃん。さすが岩製」
「体に強度と心の強度は関係ないと思うが……それで、侵入者よ、お前の目的はなんだ?」
「ありゃ、話しそらして見逃してもらおうと思ったんだけど、失敗?」
「当たり前だ。そんな作戦が我に通じると思ったのか?」
「割と? 襲いかかってくる前に話しかけてくるようなゴーレムだし」
余裕ぶってみてはいるが、マヤの頭はパニック寸前だった。
(やばいやばいやばいやばいやばいやばいっ! どうすんの? ねえどうすんのこれ? どうすればいい? やばいやばいやばいやばいやばいって!)
「ふむ、一理ある。このような状況にも関わらず冷静だな。強者の余裕というやつか」
「あはは、それはそうだろうねー」
(そんなわけないじゃんっ! 雑魚も雑魚だよっ! オリガもカーサもシロちゃんもいない私なんてただの女の子なんだけど!?)
「仕方ない、お前のような強者と真っ向からぶつかるのは怖くもあるが、やるしかないか」
「ちょっ、ちょっと待っ――」
「問答無用!」
マヤの静止も虚しく、ゴーレムが一気に距離を詰めると、その大きな拳をマヤに向かって叩きつけた。
「わわっ!」
マヤは間一髪でゴーレムの攻撃をかわす。
「やはり強者か」
「勘違いだと思うなー!」
マヤは言いながら全力疾走する。
「逃がすか!」
逃げるマヤに、ゴーレムはその巨体からは想像できないほどの速度で追いかけてくる。
3メートル近くある身長にふさわしい大きな歩幅で走るゴーレムが、そもそも走るのが遅いマヤに追いつけないわけもなく……。
「はあはあはあはあ……うわっ!」
体力が体力がつき足が絡まったマヤが転んだことで、マヤは一瞬で追い抜かれ、前に回り込まれていた。
「観念するんだな、侵入者よ」
「これは、本格的におしまいかも……ん? あれは……」
地面に倒れているマヤの少し前、マヤとその前に立ちはだかるゴーレムの間に、きれいに磨かれた闇色の石が落ちていた。
(魔石? なんでこんなところに……それにどこかで見たような……)
マヤはその魔石が気になってしまい、必死に思い出そうとする。
それは、絶体絶命の状態ゆえの現実逃避かもしれなかった。
(えーっとえーっと、何だっけ……確かマッシュが……)
『いいかマヤ、魔石と一口に言っても、それぞれ個性があるのだ。そして個性があれば当然相性もある。それは人と魔石にも当てはまるのだ』
マヤはマッシュが魔石を整理している時に話してくれたことを思い出した。
(そうだ! 確かあの時マッシュから貰ったんだ)
『魔石と人の相性などと言われても、力でゴリ押すマヤのような魔物使いにはピンとこないだろうな。ものは試しだ、私がひとつお前と相性の良い魔石を選んでやるとしよう』
(思い出した! あれは私と相性がいいらしい魔石だ! なんやかんやでずっと持ってたんだった)
最近はペンダントにしてつけていたので、持っていることをすっかり忘れていたが、さっき転んだ拍子に外れて魔石だけ落ちてしまったのだろう。
(いやー、すっきりしたー…………じゃなくて! 結局なんの解決策にもなってないじゃん! いやあれで解決できるとも思ってなかったけどさ!)
「侵入者よ、万策尽きたのか?」
「へ? え、あ、うん、たぶんね。どうしたの? そんなこと聞かずに殺しちゃえばいいじゃん」
「それはそうなのだがな……お前、さては弱いだろう?」
「今頃気がついたの?」
「ああ、お前の態度に騙されていたようだ」
「だろうと思ったよ。でも、逃してくれるわけじゃないんでしょう?」
「当然だ。だが、私に弱者をいたぶる趣味はない。好きなだけ抵抗すると良い。お前が諦めた時、苦しむ間もなく殺してやる」
「優しいんだか優しくないんだかわからないゴーレムだね、あなた」
「許せ、お前を逃がすことができない以上これが私にできる精一杯だ」
「まあいいけど、じゃあもうちょっと考えさせてもらおうかな」
「好きにするとよい」
ゴーレムはそれだけ言うと、マヤから少し離れたところに移動して、そこで立ったまま動かなくなった。
本当に攻撃してくる気配のないゴーレムに、マヤは一旦落ち着いて打開策を考えることにする。
(今手元にあるのは、ここでは機能しない腕輪と私と相性がいいらしい魔石、それとハンカチとかちり紙とかの日用品が少し、か)
正直、もう素手で殴るくらいしかできることがない気がするが、それをしたところで手が痛くなって終わりだろう。
(せめてどこかに動物がいれば、一か八かこの魔石で魔物化してみてもいいんだけど……)
立ち上がってあたりを見渡し、ついでに歩き回ってみるが、動物など影も形もなかった。
(いるのは私とあのゴーレムだけ、か)
マヤは律儀に待ってくれているゴーレムの近くに戻ってくると、唯一なにかに使えそうな魔石を見て考える。
(魔石があっても魔物がいなくちゃ意味がない、でも動物はいなくて、いるのは私とゴーレムだけ……………………ん? いるのは私…………私はいるのか……)
なにか閃きかけたマヤは、その引っかかりを手放さないように落ち着いて考えを深めていく。
(私、はいる、それは当たり前だよね…………で、私は人間、なわけで……人間は、動物とも言える、よね…………動物さえいれば、魔石はあるから、魔物が作れる…………あっ! うーんでも、あの時はマッシュが色々準備してたし……いや、このまま何もしなかったらあのゴーレムに殺されるだけだし、一か八かやってみますか!)
マヤは覚悟を決めると、両手で自分の頬をパンパンッと叩き、魔石を持って立ち上がる。
「準備はできたか、侵入者よ」
「できたよ! それから私はマヤ。最後かもしれないし良ければ覚えといてよ」
「いいだろう。私も名乗らせてもらおう。我が名はルース。それではマヤ、好きなだけ最後の抵抗をするが良い」
「言われなくても……ええい、ままよ」
マヤはやや躊躇したが、しらたまくらいの大きさのマヤと相性がいいらしい魔石を飲み込んだ。
「よし! 一か八か! 強化!!!」
マヤがいつもの如く魔物の強化魔法を唱えると、マヤの手から大量の光の粒子が発生する。
いつもなら強化対象の魔物に向かっていくはずの光の粒子が、今は対象がいないからか真上に向かって伸びていた。
「どうした、失敗か?」
「……かもね」
マヤも諦めかけたその時、真上に向かっていた光の粒子が、マヤへと降り注ぐ。
マヤは、体中に力がみなぎるのを感じた。
「なんだ、その力は?」
ゴーレムゆえにその表情は読めないが、その声には驚きの色が混じっていた。
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