58 / 324
第2巻第2章 バニスターの宣戦布告
バニスターの戦略
しおりを挟む
「キサラギの奴らの動きはどうだ」
「はっ、報告によれば、捕虜部隊の新兵共を次々を無力化していっているとのことです」
「まずは予想通り、といったところか」
初日の戦闘結果が書かれた報告書を読みながら、バニスター将国の国家元首にしてバニスター軍の最高司令官でもあるマノロは参謀から報告を受けていた。
「しかし、奴らはこちらの兵を殺さず拘束しているとのことですが、一体どういうつもりなのでしょう」
「さあな。突然現れたガキの王のお考えることなどわかるものか。殺さずにいてくれるなら、キサラギを落とした後、再び捕虜兵として使えるから助かるが」
「それはそうですが、キサラギの目的がわからない以上、今は警戒するべきでしょう」
「だろうな。様子見に使える捨て駒は後どのくらいいる?」
奴隷同然の扱いを受けている敗戦国の捕虜とはいえ、一応バニスターの正規兵である捕虜兵たちを捨て駒と言い切るマノロに、参謀は平然と対応する。
上が上なら下も下、ということなのだろう。
「1万と少しです」
「ふむ……それであればあえて拘束させてしまうのもあり、か」
「と、言いますと?」
「明日以降のキサラギの対応次第ではあるが、拘束した我々の兵をキサラギが養うのであれば、それを逆に利用することができる」
「拘束させた兵を養わせることでキサラギの国力を落とす、ということでしょうか」
つまりマノロは、マヤたちがバニスター兵を殺さないことを利用して、養うべき大量の捕虜を押し付けることで、キサラギ亜人王国の物資を使い切らせてしまおうというのだ。
「そうだ。キサラギは新興国な上、国土の大半は森林だ。大規模な農業などができない以上、食料生産力はそこまで高くないだろう」
「なるほど、しかし将軍、流石に不自然に弱い兵ばかり送り込んではキサラギも不審に思うのではないですか?」
「たしかにそうかもしれん。だが、敵対国の兵士が完全武装でやってきて、そのまま放置などできるか?」
マノロの質問に、参謀はうなずくほかなかった。
キサラギの精鋭部隊に比べれば相対的に弱いとはいえ兵士は兵士なのだ。
武装しているだけでも非武装の一般人にとっては十分に脅威だろう。
「たしかに、キサラギの軍人が民を守る気があるなら放置はできないでしょうね」
「そしてキサラギの連中はうちの兵を殺さない。うまく行けばそれだけでキサラギの国力は削げるはずだ」
「そんなにうまくいくでしょうか」
「失敗した時はその時だ。捕虜兵どもがどうなろうが我が国には大した影響はないのだからな」
「わかりました。それでは明日以降も捕虜兵を派遣し続けましょう」
「頼んだぞ」
「はっ!」
こうして、バニスター将国は当面の間、キサラギ亜人王国に拘束される前提で捨て駒の捕虜兵を進軍させ続けることとなった。
この作戦が後々キサラギ亜人王国に大きく利することになってしまうのだが、この時のマノロは知る由もなかった。
***
「ねえオリガ、流石におかしくない?」
「そうですね、最初はバニスター兵が弱いだけかと思いましたが……」
「うん、これは、なにか、おかしい」
バニスター将国との戦争が始まって数日、マヤたちはというかSAMASたちが連日勝利を重ねており、キサラギ亜人王国は終始優勢を保っていた。
そう、キサラギ亜人王国が終始優勢を保っているのだ。
年中戦争していると言われるほどの軍事国家相手に、つい先日建国したばかりのキサラギ亜人王国が、である。
「確かにファムランドたちは強いけどさ、でもファムランドたちが強いというより…………」
「ええ、バニスターの兵が弱すぎるだけ、でしょうね」
「だよね。しかも簡単に降伏するしさ、うちの臨時の収容所でも誰も反抗しないよね」
「ですね。こちらは戦争の用意なんてできませんでしたらから、特段厳重な警備というわけでもないのですが、誰も逃げようとしませんし」
「うーん、バニスターは何を考えてるんだろう?」
明らかに弱い兵、次々と自国の兵が拘束されても連日行われる同じような進軍、指揮の低い兵士たち、これが意味するところは何なのだろうか?
「考えてもわからない、か。ねえオリガ、ちょっとさ、捕まったバニスター兵と話がしてみたいんだけど、大丈夫かな」
「大丈夫だと思いますよ。何せマヤさんは国王なんですから」
「うん、国王が、捕虜に会っちゃダメ、なんてことは、ないはず」
「そうだった、私国王だったんだね。最近二人と一緒に森の中を駆け回ってるからすっかり忘れてたよ」
最近の日々は国王になる前の冒険者としての日々とよく似ていたため、マヤはすっかり自分が国王であるということを忘れてしまっていた。
「もう、しっかりしてくださいよ、陛下?」
「うん、陛下、しっかり」
「二人とも……お願いだから私たちだけの時は陛下やめてよ……」
わざとらしくいつもはマヤさんと呼んでいるオリガとカーサが、マヤのことを陛下と呼んできたので、マヤは渋面を浮かべる。
気を許し合っているオリガやカーサに陛下と呼ばれると壁があるようで寂しい感じがして嫌なのだ。
「陛下が国王だってことを忘れなければいいんですよ」
「うん、忘れちゃダメ」
「カーサまで……わかったよ、忘れないように頑張るから、だから陛下はやめて、ね」
「ふふふっ、わかりましたよ、マヤさん。それじゃあ、バニスター兵の収容所に行きましょうか」
マヤたちはシロちゃんに乗ると、バニスター兵の収容所に向かったのだった。
「はっ、報告によれば、捕虜部隊の新兵共を次々を無力化していっているとのことです」
「まずは予想通り、といったところか」
初日の戦闘結果が書かれた報告書を読みながら、バニスター将国の国家元首にしてバニスター軍の最高司令官でもあるマノロは参謀から報告を受けていた。
「しかし、奴らはこちらの兵を殺さず拘束しているとのことですが、一体どういうつもりなのでしょう」
「さあな。突然現れたガキの王のお考えることなどわかるものか。殺さずにいてくれるなら、キサラギを落とした後、再び捕虜兵として使えるから助かるが」
「それはそうですが、キサラギの目的がわからない以上、今は警戒するべきでしょう」
「だろうな。様子見に使える捨て駒は後どのくらいいる?」
奴隷同然の扱いを受けている敗戦国の捕虜とはいえ、一応バニスターの正規兵である捕虜兵たちを捨て駒と言い切るマノロに、参謀は平然と対応する。
上が上なら下も下、ということなのだろう。
「1万と少しです」
「ふむ……それであればあえて拘束させてしまうのもあり、か」
「と、言いますと?」
「明日以降のキサラギの対応次第ではあるが、拘束した我々の兵をキサラギが養うのであれば、それを逆に利用することができる」
「拘束させた兵を養わせることでキサラギの国力を落とす、ということでしょうか」
つまりマノロは、マヤたちがバニスター兵を殺さないことを利用して、養うべき大量の捕虜を押し付けることで、キサラギ亜人王国の物資を使い切らせてしまおうというのだ。
「そうだ。キサラギは新興国な上、国土の大半は森林だ。大規模な農業などができない以上、食料生産力はそこまで高くないだろう」
「なるほど、しかし将軍、流石に不自然に弱い兵ばかり送り込んではキサラギも不審に思うのではないですか?」
「たしかにそうかもしれん。だが、敵対国の兵士が完全武装でやってきて、そのまま放置などできるか?」
マノロの質問に、参謀はうなずくほかなかった。
キサラギの精鋭部隊に比べれば相対的に弱いとはいえ兵士は兵士なのだ。
武装しているだけでも非武装の一般人にとっては十分に脅威だろう。
「たしかに、キサラギの軍人が民を守る気があるなら放置はできないでしょうね」
「そしてキサラギの連中はうちの兵を殺さない。うまく行けばそれだけでキサラギの国力は削げるはずだ」
「そんなにうまくいくでしょうか」
「失敗した時はその時だ。捕虜兵どもがどうなろうが我が国には大した影響はないのだからな」
「わかりました。それでは明日以降も捕虜兵を派遣し続けましょう」
「頼んだぞ」
「はっ!」
こうして、バニスター将国は当面の間、キサラギ亜人王国に拘束される前提で捨て駒の捕虜兵を進軍させ続けることとなった。
この作戦が後々キサラギ亜人王国に大きく利することになってしまうのだが、この時のマノロは知る由もなかった。
***
「ねえオリガ、流石におかしくない?」
「そうですね、最初はバニスター兵が弱いだけかと思いましたが……」
「うん、これは、なにか、おかしい」
バニスター将国との戦争が始まって数日、マヤたちはというかSAMASたちが連日勝利を重ねており、キサラギ亜人王国は終始優勢を保っていた。
そう、キサラギ亜人王国が終始優勢を保っているのだ。
年中戦争していると言われるほどの軍事国家相手に、つい先日建国したばかりのキサラギ亜人王国が、である。
「確かにファムランドたちは強いけどさ、でもファムランドたちが強いというより…………」
「ええ、バニスターの兵が弱すぎるだけ、でしょうね」
「だよね。しかも簡単に降伏するしさ、うちの臨時の収容所でも誰も反抗しないよね」
「ですね。こちらは戦争の用意なんてできませんでしたらから、特段厳重な警備というわけでもないのですが、誰も逃げようとしませんし」
「うーん、バニスターは何を考えてるんだろう?」
明らかに弱い兵、次々と自国の兵が拘束されても連日行われる同じような進軍、指揮の低い兵士たち、これが意味するところは何なのだろうか?
「考えてもわからない、か。ねえオリガ、ちょっとさ、捕まったバニスター兵と話がしてみたいんだけど、大丈夫かな」
「大丈夫だと思いますよ。何せマヤさんは国王なんですから」
「うん、国王が、捕虜に会っちゃダメ、なんてことは、ないはず」
「そうだった、私国王だったんだね。最近二人と一緒に森の中を駆け回ってるからすっかり忘れてたよ」
最近の日々は国王になる前の冒険者としての日々とよく似ていたため、マヤはすっかり自分が国王であるということを忘れてしまっていた。
「もう、しっかりしてくださいよ、陛下?」
「うん、陛下、しっかり」
「二人とも……お願いだから私たちだけの時は陛下やめてよ……」
わざとらしくいつもはマヤさんと呼んでいるオリガとカーサが、マヤのことを陛下と呼んできたので、マヤは渋面を浮かべる。
気を許し合っているオリガやカーサに陛下と呼ばれると壁があるようで寂しい感じがして嫌なのだ。
「陛下が国王だってことを忘れなければいいんですよ」
「うん、忘れちゃダメ」
「カーサまで……わかったよ、忘れないように頑張るから、だから陛下はやめて、ね」
「ふふふっ、わかりましたよ、マヤさん。それじゃあ、バニスター兵の収容所に行きましょうか」
マヤたちはシロちゃんに乗ると、バニスター兵の収容所に向かったのだった。
0
お気に入りに追加
561
あなたにおすすめの小説

異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。

目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる