転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第2巻第2章 バニスターの宣戦布告

バニスターの戦略

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「キサラギの奴らの動きはどうだ」

「はっ、報告によれば、捕虜部隊の新兵共を次々を無力化していっているとのことです」

「まずは予想通り、といったところか」

 初日の戦闘結果が書かれた報告書を読みながら、バニスター将国の国家元首にしてバニスター軍の最高司令官でもあるマノロは参謀から報告を受けていた。

「しかし、奴らはこちらの兵を殺さず拘束しているとのことですが、一体どういうつもりなのでしょう」

「さあな。突然現れたガキの王のお考えることなどわかるものか。殺さずにいてくれるなら、キサラギを落とした後、再び捕虜兵として使えるから助かるが」

「それはそうですが、キサラギの目的がわからない以上、今は警戒するべきでしょう」

「だろうな。様子見に使える捨て駒は後どのくらいいる?」

 奴隷同然の扱いを受けている敗戦国の捕虜とはいえ、一応バニスターの正規兵である捕虜兵たちを捨て駒と言い切るマノロに、参謀は平然と対応する。

 上が上なら下も下、ということなのだろう。

「1万と少しです」

「ふむ……それであればあえて拘束させてしまうのもあり、か」

「と、言いますと?」

「明日以降のキサラギの対応次第ではあるが、拘束した我々の兵をキサラギが養うのであれば、それを逆に利用することができる」

「拘束させた兵を養わせることでキサラギの国力を落とす、ということでしょうか」

 つまりマノロは、マヤたちがバニスター兵を殺さないことを利用して、養うべき大量の捕虜を押し付けることで、キサラギ亜人王国の物資を使い切らせてしまおうというのだ。
 
「そうだ。キサラギは新興国な上、国土の大半は森林だ。大規模な農業などができない以上、食料生産力はそこまで高くないだろう」

「なるほど、しかし将軍、流石に不自然に弱い兵ばかり送り込んではキサラギも不審に思うのではないですか?」

「たしかにそうかもしれん。だが、敵対国の兵士が完全武装でやってきて、そのまま放置などできるか?」

 マノロの質問に、参謀はうなずくほかなかった。

 キサラギの精鋭部隊に比べれば相対的に弱いとはいえ兵士は兵士なのだ。

 武装しているだけでも非武装の一般人にとっては十分に脅威だろう。

「たしかに、キサラギの軍人が民を守る気があるなら放置はできないでしょうね」

「そしてキサラギの連中はうちの兵を殺さない。うまく行けばそれだけでキサラギの国力は削げるはずだ」

「そんなにうまくいくでしょうか」

「失敗した時はその時だ。捕虜兵どもがどうなろうが我が国には大した影響はないのだからな」

「わかりました。それでは明日以降も捕虜兵を派遣し続けましょう」

「頼んだぞ」

「はっ!」

 こうして、バニスター将国は当面の間、キサラギ亜人王国に拘束される前提で捨て駒の捕虜兵を進軍させ続けることとなった。

 この作戦が後々キサラギ亜人王国に大きく利することになってしまうのだが、この時のマノロは知る由もなかった。

***

「ねえオリガ、流石におかしくない?」

「そうですね、最初はバニスター兵が弱いだけかと思いましたが……」

「うん、これは、なにか、おかしい」

 バニスター将国との戦争が始まって数日、マヤたちはというかSAMASサマスたちが連日勝利を重ねており、キサラギ亜人王国は終始優勢を保っていた。

 そう、キサラギ亜人王国が終始優勢を保っているのだ。

 年中戦争していると言われるほどの軍事国家相手に、つい先日建国したばかりのキサラギ亜人王国が、である。

「確かにファムランドたちは強いけどさ、でもファムランドたちが強いというより…………」

「ええ、バニスターの兵が弱すぎるだけ、でしょうね」

「だよね。しかも簡単に降伏するしさ、うちの臨時の収容所でも誰も反抗しないよね」

「ですね。こちらは戦争の用意なんてできませんでしたらから、特段厳重な警備というわけでもないのですが、誰も逃げようとしませんし」

「うーん、バニスターは何を考えてるんだろう?」
 
 明らかに弱い兵、次々と自国の兵が拘束されても連日行われる同じような進軍、指揮の低い兵士たち、これが意味するところは何なのだろうか?
 
「考えてもわからない、か。ねえオリガ、ちょっとさ、捕まったバニスター兵と話がしてみたいんだけど、大丈夫かな」

「大丈夫だと思いますよ。何せマヤさんは国王なんですから」

「うん、国王が、捕虜に会っちゃダメ、なんてことは、ないはず」

「そうだった、私国王だったんだね。最近二人と一緒に森の中を駆け回ってるからすっかり忘れてたよ」

 最近の日々は国王になる前の冒険者としての日々とよく似ていたため、マヤはすっかり自分が国王であるということを忘れてしまっていた。

「もう、しっかりしてくださいよ、陛下?」

「うん、陛下、しっかり」

「二人とも……お願いだから私たちだけの時は陛下やめてよ……」

 わざとらしくいつもはマヤさんと呼んでいるオリガとカーサが、マヤのことを陛下と呼んできたので、マヤは渋面を浮かべる。

 気を許し合っているオリガやカーサに陛下と呼ばれると壁があるようで寂しい感じがして嫌なのだ。

「陛下が国王だってことを忘れなければいいんですよ」

「うん、忘れちゃダメ」

「カーサまで……わかったよ、忘れないように頑張るから、だから陛下はやめて、ね」

「ふふふっ、わかりましたよ、マヤさん。それじゃあ、バニスター兵の収容所に行きましょうか」

 マヤたちはシロちゃんに乗ると、バニスター兵の収容所に向かったのだった。
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