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第2巻第1章 バニスターとキサラギ亜人王国

ファムランドとレオノル

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「おーい、ファムランド殿ー」

「おう、ジョセフじゃねーか。どうしたんだ?」

 レオノルがキサラギ亜人王国にやってきた翌日、ジョセフはレオノルを連れてファムランドのところを訪れていた。

「一応私の方が上司なんですが?」

「細けえことはいいじゃねーか。俺は陛下だって呼び捨てだぜ?」

 堂々と言い放ったファムランドに、ジョセフは1つため息をつく。

 誰にでも同じ態度というのは、ある意味ファムランドの美徳とも言えるだろうが、後々身を滅ぼすことにならないか心配でもあった。

「そうでしたね、あなたはそういう人でした。っと、それは今はいいのです。レオノルさん」

「こんにちは、キサラギ亜人王国精鋭部隊候補生の皆さん」

 ジョセフに促され、ファムランドとその周りで荒い息を吐いて座り込んでいる精鋭部隊の候補生達の前に進み出ると、レオノルは微笑んで挨拶する。

 それだけで、男の候補生はもちろん、女の候補生までその笑顔に目を奪われていた。

 だた一人、ファムランドは何でもない様子でレオノルの全身を観察している。

「ジョセフ、このレオノルってのはナニモンだ? 相当なやり手の魔法使いなようだが」

(へえ、エルフにも一角の戦士はいるものね。私に全く魅了されないなんて)

 レオノルは心の中でファムランドへの警戒を強める。

 レオノルの見立てでは、エルフの中でレオノルの魅了に対抗できるのは、かつて魔王ルーシェの右腕として新参の魔王達を次々と滅ぼして回った伝説の副官であるエメリンくらいだと思っていたが、認識を改めないといけないらしい。

「流石ファムランド殿ですね。戦闘に関する嗅覚であなたに勝る人はいないかもしれません」

「そいつは褒めてんのか? ……まあいい、それでこのレオノルってのが俺たちに何の用だ?」

「ファムランド殿の見込み通り、レオノル殿は強力な魔法使いです。ですから、彼女をあなたの部隊の副長にしようかと思いまして」

 ジョセフは自分のアイデアのように言っているが当然違う。

 これはレオノルがファムランド達に近づくための、ジョセフを操ってそうさせているだけだ。

「そういうことか、いいぜ。それじゃあさっそく、どっちが強えか確かめるとすっか!」

 自分が背中を預けるに値する人物か否かは自分の目で確かめる、が信条のファムランドは完全に不意打ちでレオノルの顔面に拳を叩き込んだ。

 ファムランドが拳を放った衝撃で、あたりには土煙が上がり、ファムランドとレオノルの姿を隠してしまう。

「せっかくきれいな顔してんのに、いきなり殴っちまって悪ぃな」

 ファムランドはそう言いながら全く悪びれた様子はなく、むしろ口角を上げて好戦的な笑みを浮かべていた。

 ファムランドが心底嬉しそうに笑っている理由は、土煙が晴れると明らかになった。

「構いませんよ。あなたは私が対応できるとわかっていたのでしょう?」

 ファムランドが放った拳は、レオノルのたおやかな指2本で受け止められていた。

「まあな。まさかあの一瞬で身体強化と局所多重防御の同時発動して指2本で受け止められるとは思ってなかったが。あんた、本当にナニモンだ?」

 二人のやり取りに、周りのエルフやオークたちは開いた口が塞がらない。

 一人でエルフとオークの戦闘自慢合計20人を軽く相手していたファムランドの不意打ちを、当然現れた美女が難なく受け止めていたのだから当然だ。

「ただ少し魔法ができるだけのエルフですよ。それよりどうします? まだ続けますか?」

「当然。お前さんだって、まだ暴れ足りないだろう?」

「いえ、私は別にどちらでもいいのですが……まあいいでしょう。ファムランドさんが続けたいのであればお付き合いします」

「そういうことならもうしばらく付き合ってくれや」

「お手柔らかにお願いします」

「はっ、冗談!」

 それからファムランドとレオノルは、戦闘に自信があるはずだったエルフやオーク達にも、もはや何をやっているのかわからないほど高度な戦いを繰り広げていた。

 ファムランドが攻めればレオノルがそれを防ぎ、いなし、時にカウンターをファムランドに仕掛ける。

 その逆もまた然りだ。

 永遠感じられるほど長く、次々と攻守を交代しながら戦っていた2人だったが、その勝敗を分けたのはスタミナの差だった。
 
 常時身体強化を知覚強化を発動し、体格や筋力で勝るファムランドの攻撃に対応し続けていたレオノルの魔力が枯渇したのだ。

 最後には、身体強化しファムランドの胸への突き狙ったレオノルが途中で身体強化が解けてしまい、ファムランドが攻撃をかわしたために、そのまま倒れそうになってしまった。
 
「っと、大丈夫かレオノル」

 ファムランドは、レオノルが倒れる直前でその体を抱きとめていた。

「…………ありがとう、ございます」

 レオノルは一瞬ファムランドの意図がわからず呆然とした後、ファムランドにお礼を言うと、その腕の中から出てゆっくりと立ち上がった。

 レオノルが立ち上がると同時に、周囲から大きな歓声が上がった。

「うおおおおお! すげえええ!」

「え? 何? めちゃくちゃレベル高くないか今の?」

「てかレオノルさんってマジで何者? ファムランド隊長と1対1で普通に戦える人ってそうそういないよな?」

 2人の次元に違う戦いに興奮した精鋭部隊の候補生達は、口々にレオノルを褒めていた。

「ファムランドさん、私はこの部隊に入っていい、ということで良いのでしょうか?」

 候補生達の反応に戸惑っているレオノルに、ファムランドは少年のように屈託のない笑顔を浮かべると、

「あったりまえだ。これからよろしくな、レオノル副長」

そう言って、レオノルに手を差し出した。

「そう、ですか……こちらこそ、よろしくおねがいします、ファムランド隊長」

 レオノルが少し戸惑いがちに、差し出されたファムランドの手を取ると、その手が強く握られた。

 固く握手を交わす2人に、またも周りに候補生達のから歓声が上がった。

 レオノルは、ファムランドに握られている手から、長らく感じていなかった温かなものを感じてしまい、内心混乱していたのだった。   
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