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第2巻第1章 バニスターとキサラギ亜人王国
商人の利益
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ドワーフの里を散策していたところ、探していた里長のセルヒオの方から声をかけられたマヤたちは、そのままセルヒオの案内で近くの飲食店に来ていた。
どうやらセルヒオが要人と会うのに使っている店らしく、セルヒオが入店するとそのまま奥の個室に案内される。
「それで、キサラギ亜人王国のマヤ陛下自ら我が里に来た理由は何でしょうか?」
「だいたい察しはついてるんじゃない?」
「まあそうですね。ですが、用件があるのはそちらなのですから、そちらから話していただくのが礼儀ではないでしょうか?」
「それもそうだね。じゃあ単刀直入に。セルヒオさん、あなたの里に、キサラギ亜人王国へ加入してほしい」
「やはりその話でしたか……」
「やっぱり察しがついてたんだね。そっちから話しかけて来るくらいだから当然か」
事前になんの連絡もせずにやってきたマヤたちに、セルヒオの方から気がついて話しかけて来たのだ。
どう考えても、マヤたちが遅かれ早かれやってくることがわかっていたのだろう。
まあセルヒオの方も、まさか国王であるマヤが直々にやってくるとは思っていなかったかもしれないが。
「ええまあ。それでその話ですが、1つマヤ陛下に確認したいことがございます」
「なにかな」
「あなたの国に加入したとして、私たちドワーフになんのメリットがあるのでしょうか」
「メリット、か」
マヤは改めて聞かれると、亜人王国の加入することのメリットがわからなかった。
「我々ドワーフは商人が多いのはご存知ですか?」
「いや知らないけど、さっきちょっと見てそうなんじゃないかな、とは思ったよ」
さっき少し見ただけだが、エルフやオークの村に比べて、ドワーフの里には商店が多かったので、なんとなくわかってはいた。
「ドワーフは商人、というか職人が多いんです。それを自分で売る人が多いので、結果として商人が多い、と母が言っていました」
「その通りです。あなたは確か、エメリン様の娘さん、でしたか」
「母をご存知なんですか?」
「ええ、私の曽祖父がエルフの男性と曾祖母をめぐって揉めたときにエメリン様に仲裁していただいたと昔聞いたことがあります」
「それで、ドワーフに商人が多いのと今回の話はなにか関係あるの?」
「ええ。商人というのは、基本的に利益を重視します。もちろん義理人情も大切ですが、それと同じくらい利益も大切です」
マヤはセルヒオの言葉で、ようやくセルヒオが突然ドワーフに商人が多いという話をし始めたの理由を理解した。
「うちに加入することのメリットを示せっていうのはそういうことね」
「そういうことです。我々は商人ですから」
ちょうどそのタイミングで個室のドアがノックされる。
「食事も来たようですから、今日のところはここまでにしておきましょう。ごちそうしますよ」
こうして、マヤとセルヒオの、キサラギ亜人王国とドワーフの里との最初の交渉は幕を閉じた。
***
「ドワーフの利益かあ」
セルヒオとの交渉とその後の食事を終えたマヤたちは、そのままセルヒオが用意してくれた宿の部屋にいた。
「利益と言われても、私たちは商人じゃないですしね」
「利益、わからない。商人は、何、欲しい?」
セルヒオからの要求に、オリガとカーサも首をかしげている。
オリガは魔法使いでカーサは剣士だ。
魔物使いのマヤと同じで、商売などしたことがなかった。
「まあ、お金だろうね」
「そうでしょうね。お金を稼ぐのが商人の目的ですから」
「私は、お金だけ、あっても、楽しくない、けど」
質素な生活の中に幸せを見出すタイプの暮らしをしていたオークの村出身のカーサとしては、商人がお金を求める気持ちがよくわからないようだ。
「確かにカーサの言うことも一理あるね」
「それに、お金だとすると、私達の国がドワーフの里全員に満足してもらうメリットを示すのは難しいかもしれませんしね」
「じゃあ、どうすればいい?」
「うーん、どうすればいいかなあ。カーサはさ、何があると嬉しいかな?」
「私? 私は、剣が上手くなると、嬉しい。強い剣が、もらえても、嬉しい、かも」
なんとなくカーサに話を振ってみただけだったマヤは、その回答を聞いて「職人っぽいなあ」となんとなくそう思った。
(うん? 職人?)
マヤは先程のオリガの説明を思い出す。
「なるほど。ねえオリガ、ドワーフは商人が多いけど、その人たちって職人であり商人である、みたいな感じなんだよね?」
「そうですね。母から聞いた話だとそうらしいですよ」
「じゃあさ、もしかして、お金以外でも、ドワーフの商人に利益があったりするんじゃないかな?」
「どういうことです?」
「いやさ? みんな職人なわけじゃない? ってことはさ、自分が作った物が、一流の人に使ってもらえるのって嬉しい気がするんだよね」
「まあそれは確かに、そうかもしれませんね」
「だよね。それじゃあファムランドに鍛えてもらってる精鋭部隊にさ――――」
マヤは思いついたアイデアを、オリガとカーサの2人に説明し始めた。
***
「セルヒオ殿、お久し振りです」
「これはこれはレオノル殿。今日も一段とお美しい」
セルヒオは事前の連絡はおろかドアを開ける前のノックすらなくやってきたレオノルを、咎めることなく受け入れる。
「ふふっ、ありがとうございます。」
セルヒオの評価に、レオノルは否定も謙遜もしなかった。
事実、セルヒオの発言通りレオニルは、結い上げた緑の黒髪にシミ一つない美しい肌、日常的に着れる限界まできらびやかな闇色のローブに包まれた身体は服で隠しきれない起伏が扇情的で、男なら誰もが振り返る魔性の魅力を持っていた。
「それで、今日はどういった?」
セルヒオはレオノルに近づくと、自然な動作でその細い腰に腕を回した。
「いえ、大した用ではないのですが……そうですね、セルヒオ殿に会いに来たと言うことでいかがでしょうか?」
レオノルは背の低いセルヒオに合わせて膝をつく。
セルヒオはレオノルのその美しい顔の、尖った耳に口を近づける。
レオノルに近づくセルヒオは、レオノルを放つ妖しい魅力に引き寄せられているようだ。
「そんなこと言われては、襲ってしまいますよ」
「ふふっ、いつでも押し倒せばいいんですよ?」
「そういうわけにはいきませんよ。レオノル殿は魅力的ですが」
「あらあら、ふられてしまいました」
セルヒオがレオノルから離れると同時に、レオノルの全身から放たれていた蠱惑的な空気が霧散する。
「レオノル殿、毎度毎度私を試すのは辞めて下さい」
「私ごときに誘惑されているようでは、信用できませんから」
レオノルがクスクスと笑うと、セルヒオはまたその笑顔に魅了されそうになる。
「相変わらず用心深いですね。それで、本題は?」
「キサラギ亜人王国の国王がこちらに来たようですね」
「耳が早いですね」
「どうするつもりなのです?」
「どうもしませんよ。あちらが相応のメリットを提示すればあちらの提案を受け入れる、それができなければ受け入れない、それだけです」
「そうですか」
「なにか問題でも?」
「いいえ、こちらについては動向を伺っておくだけにしますよ。そうですね、あなたにお願いすることがあるとすれば――」
レオノルはスッとセルヒオまでの距離を詰めると、
「せいぜい交渉を長引かせて下さいね」
と耳元で囁き、その頬に軽く1つ口づけをしてパッと身体を離した。
セルヒオが思わず陶然としている間に、レオノルの姿は部屋の中から消えていた。
「…………そんなことされても、私はあなたの言いなりにはなりませんよ」
名残惜しそうにレオノルが口づけした頬を手でおさえているセルヒオの言葉は、どこか説得力にかけていた。
どうやらセルヒオが要人と会うのに使っている店らしく、セルヒオが入店するとそのまま奥の個室に案内される。
「それで、キサラギ亜人王国のマヤ陛下自ら我が里に来た理由は何でしょうか?」
「だいたい察しはついてるんじゃない?」
「まあそうですね。ですが、用件があるのはそちらなのですから、そちらから話していただくのが礼儀ではないでしょうか?」
「それもそうだね。じゃあ単刀直入に。セルヒオさん、あなたの里に、キサラギ亜人王国へ加入してほしい」
「やはりその話でしたか……」
「やっぱり察しがついてたんだね。そっちから話しかけて来るくらいだから当然か」
事前になんの連絡もせずにやってきたマヤたちに、セルヒオの方から気がついて話しかけて来たのだ。
どう考えても、マヤたちが遅かれ早かれやってくることがわかっていたのだろう。
まあセルヒオの方も、まさか国王であるマヤが直々にやってくるとは思っていなかったかもしれないが。
「ええまあ。それでその話ですが、1つマヤ陛下に確認したいことがございます」
「なにかな」
「あなたの国に加入したとして、私たちドワーフになんのメリットがあるのでしょうか」
「メリット、か」
マヤは改めて聞かれると、亜人王国の加入することのメリットがわからなかった。
「我々ドワーフは商人が多いのはご存知ですか?」
「いや知らないけど、さっきちょっと見てそうなんじゃないかな、とは思ったよ」
さっき少し見ただけだが、エルフやオークの村に比べて、ドワーフの里には商店が多かったので、なんとなくわかってはいた。
「ドワーフは商人、というか職人が多いんです。それを自分で売る人が多いので、結果として商人が多い、と母が言っていました」
「その通りです。あなたは確か、エメリン様の娘さん、でしたか」
「母をご存知なんですか?」
「ええ、私の曽祖父がエルフの男性と曾祖母をめぐって揉めたときにエメリン様に仲裁していただいたと昔聞いたことがあります」
「それで、ドワーフに商人が多いのと今回の話はなにか関係あるの?」
「ええ。商人というのは、基本的に利益を重視します。もちろん義理人情も大切ですが、それと同じくらい利益も大切です」
マヤはセルヒオの言葉で、ようやくセルヒオが突然ドワーフに商人が多いという話をし始めたの理由を理解した。
「うちに加入することのメリットを示せっていうのはそういうことね」
「そういうことです。我々は商人ですから」
ちょうどそのタイミングで個室のドアがノックされる。
「食事も来たようですから、今日のところはここまでにしておきましょう。ごちそうしますよ」
こうして、マヤとセルヒオの、キサラギ亜人王国とドワーフの里との最初の交渉は幕を閉じた。
***
「ドワーフの利益かあ」
セルヒオとの交渉とその後の食事を終えたマヤたちは、そのままセルヒオが用意してくれた宿の部屋にいた。
「利益と言われても、私たちは商人じゃないですしね」
「利益、わからない。商人は、何、欲しい?」
セルヒオからの要求に、オリガとカーサも首をかしげている。
オリガは魔法使いでカーサは剣士だ。
魔物使いのマヤと同じで、商売などしたことがなかった。
「まあ、お金だろうね」
「そうでしょうね。お金を稼ぐのが商人の目的ですから」
「私は、お金だけ、あっても、楽しくない、けど」
質素な生活の中に幸せを見出すタイプの暮らしをしていたオークの村出身のカーサとしては、商人がお金を求める気持ちがよくわからないようだ。
「確かにカーサの言うことも一理あるね」
「それに、お金だとすると、私達の国がドワーフの里全員に満足してもらうメリットを示すのは難しいかもしれませんしね」
「じゃあ、どうすればいい?」
「うーん、どうすればいいかなあ。カーサはさ、何があると嬉しいかな?」
「私? 私は、剣が上手くなると、嬉しい。強い剣が、もらえても、嬉しい、かも」
なんとなくカーサに話を振ってみただけだったマヤは、その回答を聞いて「職人っぽいなあ」となんとなくそう思った。
(うん? 職人?)
マヤは先程のオリガの説明を思い出す。
「なるほど。ねえオリガ、ドワーフは商人が多いけど、その人たちって職人であり商人である、みたいな感じなんだよね?」
「そうですね。母から聞いた話だとそうらしいですよ」
「じゃあさ、もしかして、お金以外でも、ドワーフの商人に利益があったりするんじゃないかな?」
「どういうことです?」
「いやさ? みんな職人なわけじゃない? ってことはさ、自分が作った物が、一流の人に使ってもらえるのって嬉しい気がするんだよね」
「まあそれは確かに、そうかもしれませんね」
「だよね。それじゃあファムランドに鍛えてもらってる精鋭部隊にさ――――」
マヤは思いついたアイデアを、オリガとカーサの2人に説明し始めた。
***
「セルヒオ殿、お久し振りです」
「これはこれはレオノル殿。今日も一段とお美しい」
セルヒオは事前の連絡はおろかドアを開ける前のノックすらなくやってきたレオノルを、咎めることなく受け入れる。
「ふふっ、ありがとうございます。」
セルヒオの評価に、レオノルは否定も謙遜もしなかった。
事実、セルヒオの発言通りレオニルは、結い上げた緑の黒髪にシミ一つない美しい肌、日常的に着れる限界まできらびやかな闇色のローブに包まれた身体は服で隠しきれない起伏が扇情的で、男なら誰もが振り返る魔性の魅力を持っていた。
「それで、今日はどういった?」
セルヒオはレオノルに近づくと、自然な動作でその細い腰に腕を回した。
「いえ、大した用ではないのですが……そうですね、セルヒオ殿に会いに来たと言うことでいかがでしょうか?」
レオノルは背の低いセルヒオに合わせて膝をつく。
セルヒオはレオノルのその美しい顔の、尖った耳に口を近づける。
レオノルに近づくセルヒオは、レオノルを放つ妖しい魅力に引き寄せられているようだ。
「そんなこと言われては、襲ってしまいますよ」
「ふふっ、いつでも押し倒せばいいんですよ?」
「そういうわけにはいきませんよ。レオノル殿は魅力的ですが」
「あらあら、ふられてしまいました」
セルヒオがレオノルから離れると同時に、レオノルの全身から放たれていた蠱惑的な空気が霧散する。
「レオノル殿、毎度毎度私を試すのは辞めて下さい」
「私ごときに誘惑されているようでは、信用できませんから」
レオノルがクスクスと笑うと、セルヒオはまたその笑顔に魅了されそうになる。
「相変わらず用心深いですね。それで、本題は?」
「キサラギ亜人王国の国王がこちらに来たようですね」
「耳が早いですね」
「どうするつもりなのです?」
「どうもしませんよ。あちらが相応のメリットを提示すればあちらの提案を受け入れる、それができなければ受け入れない、それだけです」
「そうですか」
「なにか問題でも?」
「いいえ、こちらについては動向を伺っておくだけにしますよ。そうですね、あなたにお願いすることがあるとすれば――」
レオノルはスッとセルヒオまでの距離を詰めると、
「せいぜい交渉を長引かせて下さいね」
と耳元で囁き、その頬に軽く1つ口づけをしてパッと身体を離した。
セルヒオが思わず陶然としている間に、レオノルの姿は部屋の中から消えていた。
「…………そんなことされても、私はあなたの言いなりにはなりませんよ」
名残惜しそうにレオノルが口づけした頬を手でおさえているセルヒオの言葉は、どこか説得力にかけていた。
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