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第2巻第1章 バニスターとキサラギ亜人王国

ドワーフの里

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「ねえオリガ、オリガはドワーフの里に行ったことはあるの?」

 ドワーフの里へ向かう道中、マヤはオリガにドワーフのことを聞いてみることにした。

 出発前に実際にドワーフと会ったことがあるエメリンやファムランドに確認しておけば良かったのだが、2人とも忙しいらしく、聞いている余裕がなかったのだ。

「私ですか? 私自身は行ったことないですね。母からよく話は聞いてましたが」

「ふうん。私ドワーフってよく知らないんだけど、どんな人たちなの?」

 マヤが持っているドワーフのイメージといえば、小柄でガッシリとした体躯の力持ちで、手先が器用、というファンタジーの情報だけだ。

 エルフはマヤのイメージ通りのだったが、オークはマヤたちの仲間になったカーサを筆頭に、美男美女も多くいた。

「そうですね。見た目はエルフや人間と大差ないですが、全体的に小柄ですね。エルフの中ではまだ子供の私でも、ドワーフの中では大きい方らしいですよ」

「私より小柄なオリガでも大きい方ってことは、私なんて大女だね」

「たしかにそうかもしれませんね。実際、お母さんが行ったときは色々なものが小さくて困ったらしいです」

「ああー、たしかにエメリンさんってエルフの中でも身長高いほうだよね」

 エメリンは美男美女揃いのエルフの中でも、スラリと背が高くスタイル抜群なのだ。

「まあでも、それなら小柄な私たちは大丈夫だけど……」

「私、もしかして、大変?」

「あはは、たしかにカーサさんは大変かもしれませんね……」

「カーサおっきいもんね」

 マヤはいつものようにカーサを見上げる。

 大きな2つに膨らみの向こう側に、困り顔のカーサが見えた。

 相変わらず大きな胸をマヤがまじまじと見上げていると、オリガが三白眼でマヤを見ていた。

「マヤさんいやらしいですよ。いくら女の子同士だからって」

「え? 私は身長のことを言ってたんだけど?」

 マヤは明らかに胸を見ていたのだが、すっとぼけてそんなことを言う。

「へ?」

「いやらしいのはオリガなんじゃないの?」

「ええっ!?」

「オリガさん、えっち」

「ちょ、ちょっとカーサさんまで!」

 マヤに乗っかってオリガをからかうカーサに、オリガは顔を真っ赤にして食って掛かる。

「やーいやーい、オリガのえっちー」

「えっちー、えっちー」

 マヤとカーサの2人は、オリガをからかいながら走って逃げていく。

「もう! 待ちなさーい! 2人ともー!」

 マヤとカーサ、オリガの3人は賑やかにドワーフの村へ旅路を楽しんでいるのだった。

***

 「へえ、これがドワーフの里かあ」

 オリガの故郷の村とカーサの故郷の村の中間に設置したキサラギ亜人王国の首都、オオエドを出発して1週間、途中シロちゃんたちに乗ったりしながら、ようやくマヤたちはドワーフの里にたどり着いていた。

「ていうかさ、思いの外遠くない?」

「でしたね。ファムランドさんがドワーフの女性に一目惚れして乗り込んだって聞いていたので、もっと気軽に行ける距離かと思ってたんですが」

「ファムランドさん、が、おかしいだけ、だと思う」

「ははは、たしかにそれはあるかもねー」

 オオエドからヘンダーソン王国よりは近いかもしれないが、決して近いというような距離ではない気がする。

「あんまり遠すぎると、うちの国に入ってもらうにしても、色々整備しないといけないかもね」

 もしオオエドから、このドワーフの里まで街道でもあれば、ずっとシロちゃんに乗ったままで移動できるはずだ。

 ずっとシロちゃんに乗れるなら、おそらく所要時間は大幅に短縮できるだろう。

「まあそのあたりは追々考えるとして、早速入ってみようか。オリガ、カーサ、もしもの時はよろしくね」

「了解です」

「わかった」

「あ、でも、襲ってきても反撃しちゃだめだよ? どうしてもの時も殺しちゃわないようにね」

 マヤは2人に念押ししてから、ドワーフの里の門をくぐった。

「おおっ! これはすごいね」

 マヤは門をくぐった途端、歓声を上げた。

 マヤの目の前に広がっていたのは、色とりどりの建物たちだった。

 所々にステンドグラスにような物がはめ込まれており、太陽光を反射してキラキラと輝いている。

「ええ、本当ですね。これはまた、きれいな街ですね」

「きれい、なだけじゃなくて、実用的なものも、ある、みたい」

 カーサの指差す先には、刃物を取り扱っている商店があった。

 店頭で、こちらの世界に来てからは見たこともない、ターバンのようなものを頭に巻いた人間が、その人物の腰ほどまでの身長しかない男のドワーフと話している。

 包丁から大剣まで幅広く扱っているらしい。

「本当だね。後でちょっと見てみようか」

 マヤたちはきょろきょろしながら里の中を進んでいく。

 よく見ると、街道沿いでもないのに色々なデザインの服を着ている人たちがいた。

「ねえオリガ、何だか色んな国の人がいるみたいだけど、なんでかな?」

「私も噂でしか聞いたことがないんですが、どうやらドワーフが作る包丁が素晴らしいらしいですよ」

「包丁って、あの包丁? 料理に使う」

「そうです。料理に使うその包丁です。なんでも、ドワーフが作る包丁を使うとそれだけで料理が美味しくなるとか」

「ええ? そんなことあり得るのかなあ?」

 たしかに良い包丁は食材の細胞を傷つけないとかどうとかで、食材の味を損なわない、みたいな話は聞いたことがあるが、わかるほど料理が美味しくなったりするのだろうか。

「あり得る、かも。ドワーフの、得物なら」

「カーサもなにか知ってるの?」

「昔、私の村に、ドワーフが作った、業物が、あったんだけど、切れ味良すぎて、斬られても、すぐにはわからない、って言われてた」

「なにそれ怖っ。どんだけ切れ味いいのその剣」

 流石にそこまで切れ味のいい剣は、運動音痴のマヤにとっては、もはや持ってるだけで危ない代物だ。

 しかし、ファムランドを始め、戦闘を得意とする者たちにとっては、大いに役立つだろう。
 
 キサラギ亜人王国で製造できるようになれば、軍部の増強というマヤの当面の目標を達成できるはずだ。

「まあ何にせよ、この里の里長とあって話がしたいんだけど―――」

 マヤたちがそんなことを話していると、まるでその会話が聞こえていたかのように、1人のドワーフが近づいてきた。

「こんにちは、マヤ閣下。ようこそお越しくださいました」

 話しかけてきたドワーフは、豪華な服装に身を包んでいる。

「あなたは?」

「申し遅れました、私はセルヒオ。この村の長をしております」

 これが、マヤとドワーフの里長、セルヒオとの出会いだった。
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