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第1巻第3章 ハーフエルフを探せ

オークの村の凱旋

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「聖女さまー!」

 マヤが村に入ると、オークたちが熱烈にマヤを歓迎した。

 エルフの村での諸々が落ちいたころ、マヤとマッシュ、それにオリガの3人は、以前訪れたオークの村を訪れていた。

「いやー、照れるね」

「魔物使いを聖女扱いとは、オークもおかしなことをするものだ」

「まあ確かに。どちらかと言えば悪者なイメージだよね魔物使いって」

「そこまでではないと思うが、聖女でないだろうな」

「だよねー」

「まあいいんじゃないですか、マヤさん結果としてオークたちを助けたわけですし」

「まあそれもそうか」

 マヤたちがそんなたわいもないことをはなしていると、マヤたちを取り囲んでいたオークたちが左右に分かれた。

 オークたちが空けた道を1人の年老いたオークがゆっくりと歩いてくる。

「聖女様、このたびは本当にありがとうございました」

「いいよお礼なんて、たまたま上手くいっただけだし」

「いえいえ、そうはまいりません。是非我々に何かさせてください」

「そういわれてもなあ」

 そもそもマヤたちが今日ここにきたのは、以前に強制労働から解放させて村に帰られた若いオークたちが無事元気にやっているか確認しにきただけで、お礼をいわれに来たわけではない。

「マヤ、何か適当なものでももらっておいた方がよいぞ? オークたちは本当に義理堅い連中だからな。ここで断ってもいつまでもお礼をさせてくれといわれ続けるだけだ」

「えー、そんなこといわれもなあ……」

 マヤは少し考えた後、あることを思いついた。

「そうだ、それじゃあさ、2つお願いしたいことがあるんだけど」

「なんでしょう」

「まず1つ目、この村で一番強い子を私の仲間にしたいんだけど、だめかな?」

「仲間に、ですか?」

「うん」

 それは今回の戦いを通してマヤが実感した、マヤたちの戦力の偏りを修正する為の策だった。

 今回、マヤたち、具体的にはマヤとマヤの魔物たちは、ジョン王子に手こずらされてしまい、ほかの戦いに参加することができなかったのだが、これをマヤは対人戦闘特に剣技や武術に優れた仲間がいないためだと思ったのだ。

「聖女様のお仲間は十分にお強いかと思いますが、まだ必要なのですか?」

「確かにオリガもマッシュもシロちゃんも強いんだけど、剣とか格闘で強い子はいないからさ」

「なるほど、確かにそうかもしれません」

 マヤの説明に、長老は少し思案した後、近くにいたオークに声をかけて、1人のオークを呼んで来させた。

「聖女様、こちらはカーサ、剣の達人です」

「…………よ、よろしく、です」
 
 長老が紹介したのは、オークにしては線の細い印象の、少女だった。

 緑の髪をそのまま腰あたりまでのばし、その背には見た目に似合わない大剣を背負っている。

「これカーサもっと大きな声であいさつせんか」

「うぅ……」

 小柄なマヤより頭2つ分は大きいが、どうやら気は小さいらしい。

「長老、この子を私の仲間にしてもいいの?」

「ええ、ぜひ連れて行ってやってください」

「じゃあ遠慮なく、と言いたいところだけど、やっぱりご両親にはあいさつくらいしときたいな」

 そう言うと、マヤはきょろきょろとあたりを見渡すが、カーサの両親らしき人物は出てくるようすがなかった。

「申し訳ないのですが、カーサの両親はカーサが幼い頃に亡くなっておりまして、今は私が親代わりなのです」

「あれ、そうなんだ。なんかごめん」

「いえ、聖女様が謝ることではありません」

「ううん、知らなかったとはいえ無神経だったよ、ごめんねカーサ。それと、これからよろしくね」

 マヤがカーサに手を差し出すと、カーサはおずおずとその手を握った。

「よろしくお願いします、聖女様」

「マヤでいいよ」

「じゃあ、マヤ、さん」

「うん、これからよろしくね、カーサ」

 こうして、カーサが新たにマヤたちの仲間となった。

***

 朝食を終えたマヤは、特になにもやることがなかったので、バルコニーに出て街を眺めていた。

「街もだいぶ元通りになってきたね」

 マヤたちがオークの村から帰ってきて1ヶ月、マヤはほとんど元通りになった町並みを見ながら感慨深げにつぶやいた。

「オークのみなさんが色々手伝ってくれているおかげですね」

「あ、エメリンさん、おはようございます」

「はいおはようございます。それにしてもマヤさん、どうやってオークたちにエルフの街の復興を手伝わせたんですか?」

「うーん? そんなに大したことはしてないって言うか、なんか私はそうした方がオークのためになると思うよ、って言っただけなんだよね」

「それだけですか?」

「うん。カーリを仲間にさせてもらった時に合わせてお願いして、その時にそう言ったら、なんかみんなちゃんと働いてくれてるって感じ」

「はあ、まったくマヤさんにはかないませんね」

「ははは、それをエメリンさんに言われちゃうとなあ」

 エメリンは今やこの村の副村長として、村の実務のほとんどを取り仕切っている。

 幻覚の結界が無くなったことで生じた近くの人間の村との交渉や、村の復興に合わせた都市計画など、ありとあらゆる実務をほとんど1人でこなしている。

 マヤがもといた世界にいれば、バリバリのキャリアウーマンとして出世コースを突き進んでいたことだろう。

「私なんて大したことないですよ。こういうのはなれているだけです」

「そういえば、エルフの魔王様のところで働いてたんだっけ?」

「ええ、ルーシェ様のところで300年ほど」

「300年! やっぱりエルフの時間感覚ってすごいなあ」

 以前教えて貰った話だと、エルフは人間の10倍以上は生きるらしいので、300年と言ってもだいたい30年くらいの感覚なのだろう。

「そうでした、つい先日、そのルーシェ様から連絡があったんですよ」

「へえ、魔王様から直接連絡がもらえるなんて、やっぱりエメリンさんってすごいね」

「ルーシェ様は気さくな方ですからね。お仕えしていたときは、よくおしゃべりしたものです」

 エメリンは懐かしむように目を細める。

 そういう仕草を見ると、まだ20代後半くらいにしか見えないエメリンもやはり見た目以上に年をとっているのだろうと思うのだが、それを言うとまたあの恐ろしい笑顔を向けられてしまいそうなので、黙っておくことにした。

「それで、その手紙にはなんて書いてあったの?」

「マヤさん、乙女の秘密のお手紙の内容を詮索するなんて無粋ですよ?」

「えー、エメリンさんが手紙の話してきたんじゃーん」

 それに乙女って、さすがにそこまで若いってことはないだろ、エメリンさんもルーシェ様とやらも、と思ったが、やはりエメリンに怖い笑顔を向けられてしまいそうなので黙っておくことにした。

「うふふふ、冗談ですよ。今回ルーシェ様から来た手紙は、実はマヤさん宛なんです」

 マヤはエメリンが差し出した手紙を受け取る。

『ごきげんようエメリン、元気にしていたかしら?

この前あなたが教えてくれたお肌を若返らせる魔法! あれとってもよかったわ!

侍女たちも「ルーシェ様のお肌赤ちゃんみたいにすべすべでうらやましいです~」なんて言われちゃった。

さすがエメリンの作った魔法ね。

それにしてもあなた、こんな魔法まで作って若い姿でいようとするなんて、旦那さんとまだまだ熱々なのね~

------』

 そこまで読んでしまってマヤは、ゆっくりと天を仰いだ。

 これは絶対に読んではいけなかったものだ。

 まだエメリンは気がついていないが、気がつくのは時間の問題だろう。

 頭をフル回転させたマヤは、結局なにも思いつかず、なにもかもあきらめることにした。

「ルーシェ様って本当に気さくな人なんだね。それと、エメリンさんやっぱり魔法で若い姿保ってたんだ」

 マヤがそういって手紙をエメリンに見せると、エメリンはその場で凍り付いた。

 この後マヤは、お日様が真上に来るまでたっぷり4時間以上かけて、エメリンの若い姿を保っていたことの理由の説明と、その事実を誰にも話さないようにという口封じをお願いを、延々と聞かされることになったのだった。
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