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第1巻第3章 ハーフエルフを探せ
襲撃の目的
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「クロエが防御魔法を無視できるなると、マヤさんにここにいてもらって私が1人で戦うっていうのも難しいですね」
「そうだね。だから私もシロちゃんと一緒に攻撃する側にまわるよ」
クロエの魔法による拘束をオリガに解いてもらったマヤは、シロちゃんの背中に跳び乗る。
突然のことだったので鞍も鐙もないが、シロちゃんの毛を掴んでしがみついていれば大丈夫だろう。
「大丈夫ですか?」
心配そうにしているオリガにマヤは、
「大丈夫じゃなかった時はその時ってことで」
と明るく返した。
「相変わらずですね」
「そうでしょ? それに今更ジタバタしたっていい結果にはならないだろうし」
マヤは、少し離れたところで様子を伺っているジョン王子とクロエに目を向ける。
マヤが自力で魔物を呼び出したことと、いつの間にか白い体毛の見たことのない姿になっている魔物を連れていることでマヤへの警戒を強めたのか、2人はまだ様子をうかがっているようだ。
「じゃあオリガ、もし私が死にかけたりしたら、回復してね」
マヤがそれだけ言い残すと、シロちゃんがジョン王子に向かって走り出す。
「わかりました。でも、そうならないようにさっさと決着をつけます」
マヤを乗せたシロちゃんが駆け出したのを見て、オリガもクロエに向かって走り出した。
***
「ふんっ!」
マッシュが後ろ足で繰り出した蹴りが地面をえぐり、数匹の魔物をまとめて塵に返す。
「あのうさぎすげーな」
「ああ、確かあいつってあのダークエルフが連れて来たやつだろう」
次々と魔物を倒していくマッシュの後ろで、若いエルフ2人が話していた。
戦闘中に思わず関係ないことを話してしまうほど、次々と魔物を倒していくマッシュの活躍は目を引いていた。
その時、マッシュの活躍に目が行ってしまっていた2人背後から、3匹の魔物が一斉に襲いかかってきた。
2人が魔物に気がついたのと、突っ込んできたマッシュが魔物を瞬殺するのがほぼ同時だった。
「あ、ありがとうご―――」
「バカども! 貴様ら死にたいのか!」
お礼を言おうとしたところを怒鳴りつけられた2人は一瞬呆然とするが、すぐにそれが自分たちのことを思って言葉だと気がつき、
「すみませんっ!」
「正直ちょっと油断してました!」
と2人は素直にマッシュに、頭を下げる。
「わかればよいのだ。今ここは戦場だ、一瞬の油断が命取りなのだからな! わかったか!」
「「は、はいっ!」」
その後、マッシュは助けた2人を引き連れて、次々と魔物を屠っていった。
気がつくと、マッシュと若いエルフ2人の周りには、ほとんど魔物の姿はなくなっていた。
***
「はあ、はあ、はあ………、やっぱり、お姉ちゃん、は、すご、いね………」
「クロエも十分強くなりましたよ。でも、強くなったのは私も同じです」
オリガとクロエの戦闘は、終始オリガ優位で進んでいた。
クロエが氷の攻撃魔法を放とうとすれば、その動作から発動される魔法を読んだオリガがほぼ同時、時には後から発動したにも関わらずクロエより一足先に氷を溶かす炎の魔法を放つ、そんなことを十数回は繰り返している。
特に知識がない者が見てもわかるほど、2人の力量差は歴然だった。
(流石におかしい。確かにお姉ちゃんは昔から魔法がとんでもなく上手かったけど、ここまでじゃなかったはず……)
オリガの言うとおり、クロエだって最後にオリガと会った時から格段に強くなっているのだ。
(魔法の多重発動も発動予兆からの魔法予測も短縮発動も全部できるようになったのに……!)
クロエが血のにじむような努力をして身につけた技術、その全てにおいて、オリガはクロエの上をいっていた。
クロエがやっとの思いで3つの魔法を同時に繰り出せば、オリガは難なく4つ5つと魔法を同時に操り相殺する。
クロエが、オリガの発動している魔法が何なのかを1つ読む間に、オリガはクロエの魔法すべてを読んで先手を打つ。
不意をついたはずのクロエの魔法を見てから、オリガはそれを相殺する魔法を発動し始め、クロエとほぼ同時に魔法を放つ。
「どうしたのですか、クロエ。もうおしまいなら拘束させてもらいますよ?」
そしてその上、クロエを傷つけたくないオリガは、明らかに手加減していた。
もちろんクロエもオリガを傷つけたいわけではない。
クロエはオリガを助けるために今まで生きてきたのだ。
間違っても大好きな姉を傷つけたいわけがない。
しかし、クロエが手加減したのは最初の1回だけだ。
なぜならそれだけで彼我の力量差に気がついたから。
本気で挑んでも互角にすらならない、そう悟ったからだ。
「まだまだ、私は負けない、負けられないんだから!」
それでもクロエはオリガに挑み続ける。
大好きな姉を救うために。
***
激しい魔法の応酬を繰り広げるオリガとクロエとは対照的に、マヤとジョン王子の戦いはひたすら物理的だった。
「はああああああ!」
シロちゃんに乗ったマヤが他の2匹魔物と連携してジョン王子に振り下ろした3つの爪を、ジョン王子はうち1つを剣で弾き返し、1つをかわし、最後の1つを剣で受け止めていた。
「なかなかやるね、王子様」
剣技、身のこなし、状況判断、どれをとってもジョン王子はかなりのレベルだった。
「次から次へと新しい魔物を出してくるマヤに比べれば大したことはないっ!」
ジョン王子が勢いよく剣をふりぬいたのに合わせて、シロちゃんは飛び退いて距離を取る。
「それに、マヤが私を殺そうとしていれば、私はとっくの昔に死んでいるだろうしな」
「それはそうかもしれないけど、それでもやっぱり大したもんだと思うよ? ただ偉そうな王子様だと思ってたけど、ちゃんと戦えるんだってびっくりしてるもん」
ジョン王子の言う通り、マヤはジョン王子を殺さず拘束しようとしている。
マヤの直感だが、ジョン王子は悪人ではないような気がするのだ。
他にも色々と理由はあるのだが、一番の理由はそれだった。
「ねえ、もうやめにしない? 王子様は強いけどさ、私の魔物たちには勝てないよ?」
「悪いがその提案には乗れんな」
「えー……じゃあさ、せめてなんでこんなことしてるのかだけでもいいから教えてよ」
どうもジョン王子が悪人とは思えないからこそ、ジョン王子がなぜこんなことをしたのか、それがマヤには疑問なのだった。
「………」
マヤの質問に、ジョン王子は黙り込んでしまう。
「言えないことなの?」
「………それがクロエの望みだからだ」
やっと口を開いたジョン王子の言葉は、マヤにとってまったく予想だにしないものだった。
「そうだね。だから私もシロちゃんと一緒に攻撃する側にまわるよ」
クロエの魔法による拘束をオリガに解いてもらったマヤは、シロちゃんの背中に跳び乗る。
突然のことだったので鞍も鐙もないが、シロちゃんの毛を掴んでしがみついていれば大丈夫だろう。
「大丈夫ですか?」
心配そうにしているオリガにマヤは、
「大丈夫じゃなかった時はその時ってことで」
と明るく返した。
「相変わらずですね」
「そうでしょ? それに今更ジタバタしたっていい結果にはならないだろうし」
マヤは、少し離れたところで様子を伺っているジョン王子とクロエに目を向ける。
マヤが自力で魔物を呼び出したことと、いつの間にか白い体毛の見たことのない姿になっている魔物を連れていることでマヤへの警戒を強めたのか、2人はまだ様子をうかがっているようだ。
「じゃあオリガ、もし私が死にかけたりしたら、回復してね」
マヤがそれだけ言い残すと、シロちゃんがジョン王子に向かって走り出す。
「わかりました。でも、そうならないようにさっさと決着をつけます」
マヤを乗せたシロちゃんが駆け出したのを見て、オリガもクロエに向かって走り出した。
***
「ふんっ!」
マッシュが後ろ足で繰り出した蹴りが地面をえぐり、数匹の魔物をまとめて塵に返す。
「あのうさぎすげーな」
「ああ、確かあいつってあのダークエルフが連れて来たやつだろう」
次々と魔物を倒していくマッシュの後ろで、若いエルフ2人が話していた。
戦闘中に思わず関係ないことを話してしまうほど、次々と魔物を倒していくマッシュの活躍は目を引いていた。
その時、マッシュの活躍に目が行ってしまっていた2人背後から、3匹の魔物が一斉に襲いかかってきた。
2人が魔物に気がついたのと、突っ込んできたマッシュが魔物を瞬殺するのがほぼ同時だった。
「あ、ありがとうご―――」
「バカども! 貴様ら死にたいのか!」
お礼を言おうとしたところを怒鳴りつけられた2人は一瞬呆然とするが、すぐにそれが自分たちのことを思って言葉だと気がつき、
「すみませんっ!」
「正直ちょっと油断してました!」
と2人は素直にマッシュに、頭を下げる。
「わかればよいのだ。今ここは戦場だ、一瞬の油断が命取りなのだからな! わかったか!」
「「は、はいっ!」」
その後、マッシュは助けた2人を引き連れて、次々と魔物を屠っていった。
気がつくと、マッシュと若いエルフ2人の周りには、ほとんど魔物の姿はなくなっていた。
***
「はあ、はあ、はあ………、やっぱり、お姉ちゃん、は、すご、いね………」
「クロエも十分強くなりましたよ。でも、強くなったのは私も同じです」
オリガとクロエの戦闘は、終始オリガ優位で進んでいた。
クロエが氷の攻撃魔法を放とうとすれば、その動作から発動される魔法を読んだオリガがほぼ同時、時には後から発動したにも関わらずクロエより一足先に氷を溶かす炎の魔法を放つ、そんなことを十数回は繰り返している。
特に知識がない者が見てもわかるほど、2人の力量差は歴然だった。
(流石におかしい。確かにお姉ちゃんは昔から魔法がとんでもなく上手かったけど、ここまでじゃなかったはず……)
オリガの言うとおり、クロエだって最後にオリガと会った時から格段に強くなっているのだ。
(魔法の多重発動も発動予兆からの魔法予測も短縮発動も全部できるようになったのに……!)
クロエが血のにじむような努力をして身につけた技術、その全てにおいて、オリガはクロエの上をいっていた。
クロエがやっとの思いで3つの魔法を同時に繰り出せば、オリガは難なく4つ5つと魔法を同時に操り相殺する。
クロエが、オリガの発動している魔法が何なのかを1つ読む間に、オリガはクロエの魔法すべてを読んで先手を打つ。
不意をついたはずのクロエの魔法を見てから、オリガはそれを相殺する魔法を発動し始め、クロエとほぼ同時に魔法を放つ。
「どうしたのですか、クロエ。もうおしまいなら拘束させてもらいますよ?」
そしてその上、クロエを傷つけたくないオリガは、明らかに手加減していた。
もちろんクロエもオリガを傷つけたいわけではない。
クロエはオリガを助けるために今まで生きてきたのだ。
間違っても大好きな姉を傷つけたいわけがない。
しかし、クロエが手加減したのは最初の1回だけだ。
なぜならそれだけで彼我の力量差に気がついたから。
本気で挑んでも互角にすらならない、そう悟ったからだ。
「まだまだ、私は負けない、負けられないんだから!」
それでもクロエはオリガに挑み続ける。
大好きな姉を救うために。
***
激しい魔法の応酬を繰り広げるオリガとクロエとは対照的に、マヤとジョン王子の戦いはひたすら物理的だった。
「はああああああ!」
シロちゃんに乗ったマヤが他の2匹魔物と連携してジョン王子に振り下ろした3つの爪を、ジョン王子はうち1つを剣で弾き返し、1つをかわし、最後の1つを剣で受け止めていた。
「なかなかやるね、王子様」
剣技、身のこなし、状況判断、どれをとってもジョン王子はかなりのレベルだった。
「次から次へと新しい魔物を出してくるマヤに比べれば大したことはないっ!」
ジョン王子が勢いよく剣をふりぬいたのに合わせて、シロちゃんは飛び退いて距離を取る。
「それに、マヤが私を殺そうとしていれば、私はとっくの昔に死んでいるだろうしな」
「それはそうかもしれないけど、それでもやっぱり大したもんだと思うよ? ただ偉そうな王子様だと思ってたけど、ちゃんと戦えるんだってびっくりしてるもん」
ジョン王子の言う通り、マヤはジョン王子を殺さず拘束しようとしている。
マヤの直感だが、ジョン王子は悪人ではないような気がするのだ。
他にも色々と理由はあるのだが、一番の理由はそれだった。
「ねえ、もうやめにしない? 王子様は強いけどさ、私の魔物たちには勝てないよ?」
「悪いがその提案には乗れんな」
「えー……じゃあさ、せめてなんでこんなことしてるのかだけでもいいから教えてよ」
どうもジョン王子が悪人とは思えないからこそ、ジョン王子がなぜこんなことをしたのか、それがマヤには疑問なのだった。
「………」
マヤの質問に、ジョン王子は黙り込んでしまう。
「言えないことなの?」
「………それがクロエの望みだからだ」
やっと口を開いたジョン王子の言葉は、マヤにとってまったく予想だにしないものだった。
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