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第1巻第3章 ハーフエルフを探せ
予言の聖女
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「長老、予言の聖女様をお連れしました」
「……入っていただけ」
「はっ。聖女様、どうぞお入り下さい」
「はあ……?」
あれよあれよという間に村の中で一番大きな建物に案内されたマヤは、オークの青年が持ち上げているすだれの向こう側に戸惑いながら入っていく。
「私達も一緒に入っていいんですか?」
「当然です。お二人は聖女様のお連れの方ですから」
「では遠慮なく入らせてもらおう」
続いて、オリガも中に入り、最後にマッシュが入ると、オークの青年が手を離し、すだれが降ろされた。
「よくぞお越しくださった。我ら一同聖女様が来てくださるのを心待ちにしておりました」
「えーっと、申し訳ないんだけど、何のことかさっぱりわからない」
「おっと、これは失礼しました。実は我々の言い伝えに「オークの一族に困難が降りかかるとき、白き聖獣を連れた白銀の聖女が現れる」というものがございまして、我々はその聖女様を「予言の聖女」とお呼びしているのです」
「なるほど、それで私が予言の聖女様な訳ね」
どうやら、魔石が白くなった後体毛も白くなった魔物のシロちゃんを、白銀の髪をしたマヤが連れてきたので聖女だと思われているらしい。
「長老殿、こいつは聖女などではないぞ?」
「うんうん、私ただの魔物使いだよ?」
「確かに、聖女様にその自覚はないかもしれませんが、聖女様は何もかも予言どおりなのです」
「そんなこと言われてもなあ」
実は聖女と言われて少し嬉しいマヤだったが、だからといって安易に受け入れる気にもならなかった。
なぜなら十中八九面倒なことを任されるに違いないからだ。
「それに、聖女様は聖獣を連れておられる。それが何よりの証拠です」
「聖獣ってシロちゃんのこと?」
「わふ?」
マヤの隣にお座りしていたシロちゃんが、マヤと一緒に首を傾げる。
「その通りです。普通の魔物は黒い魔石に黒い体毛のはずですが、聖女様が連れている間物は白の魔石に白の体毛で。これこそ聖獣の証」
「うーん、そう言われてもなあ」
マヤが強化したらこうなったことは、あえて黙っておくことにした。
「それで、ここからが本題なのですが―――」
結局、聖女であることをマヤが認めようが認めまいが、この長老はマヤに頼み事をするつもりだったのだ。
それくらい切羽詰まっているのかもしれないが、少しはこちらも話も聞いてほしいと思うマヤだった。
***
「えーっと、つまり、あの村長がオークと共存したいって言ったからオークさんたちはこの森に来て、それなのにしばらくしたらエルフに攻撃され始めて、村人もさらわれて、だから私になんとかしてほしいってこと?」
数年前ここから離れたところに住んでいたオークたちのところにオリガの故郷から使者が来たというところから始まった3時間にも及ぶ長老の話を、マヤは極めてざっくりまとめた。
「相変わらずのざっくり加減だが、まあ大体そういうことだろうな」
「マヤさんって意外とまとめるの上手ですよね」
「えへへ、そうかな?」
無駄に長い割に大して重要な話がない会議の内容をまとめ続けた事務仕事の日々が意外なところで役に立っているようだ。
「でも、どうにかするって言ってもどうするの? ぶっ潰す?」
「あまりいい思い出がない村ですが、一応故郷なので、ぶっ潰すのちょっと……」
「だよねー、流石にねー」
どうやら長老の話によるとあの村長はかなりの悪人らしいが、それだけで村ごと潰すのはやりすぎだろう。
何よりの、オリガの家族であるエメリンとその子どもたちまで巻き込むことになってしまう。
マヤたちが悩んでいると、長老が1枚の紙を差し出した。
「長老、これは?」
「村長とそれを指示する有力者のリストです」
「そんなのあるんだ」
紙を開いてみると、そこには村長と10人余りの人物の名前が書かれていた。
「じゃあこの人たちだけなんとかすればいいわけか」
「なんとかするって言っても、そんなことしたら大事ですよ? 最悪あの村が火の海になるかもしれません」
「そうなの?」
「はい、この人とこの人は自前で戦闘部隊を用意してますし、こっちの人は人間の武器をたくさん用意してるって言われています」
「まあでも、なんとかなるんじゃない?」
「相変わらず適当だな、お前は」
「えーいいじゃん適当でも、実際なんとかなってきたわけだし?」
呆れるマッシュにそう言ってから、マヤは長老に振り返ると、
「そういうことだから、長老のお願い、聞いてあげる。聖女様が助けてあげるんだから、大船に乗ったつもりでいてよね」
と、元気良くそう言ったのだった。
***
「やあ村長さん、帰って来たよ」
「貴様あ!」
和やかに村長の部屋に入ってきたマヤに、村長は突然殴りかかる。
その拳は、予め出ておいてもらったシロちゃんの防御魔法に防がれていた。
「いきなりだなあ」
「それはこちらのセリフだ!」
村長が怒鳴ったタイミングで、オリガとマッシュがシロちゃんと同じ狼の魔物たちと一緒に入って来た。
その狼の魔物たちの背中には、簀巻きにされたエルフが合計11人乗っている。
「そんなに怒ってもしょうがないじゃん」
「これだけのことしておいてよくそんな口が聞けたものだな」
村長の言う「これだけのこと」とは、マヤの後ろで簀巻きにされていますエルフたちのことだろう。
マヤたちはオークの村から戻るやいなや、リストに載っていたエルフ達の屋敷を同時に襲撃していた。
結果は見ての通り、マヤたち、というよりマヤの魔物たちの圧勝だった。
そもそも1匹で並の魔物数匹分の強さを誇る魔物たちがマヤの規格外の強化魔法を受けた状態で襲ってくるのだ。
いかなエルフの精鋭といえど勝ち目はなかった。
「それこそこっちのセリフだよ。村長さん、さらったオークはどこにやったの?」
瞬間、マヤから発せられた圧力に、村長は思わず膝をつきそうになる。
マヤは笑顔を崩していなかったが、その身体からは大量の魔力が噴き出していた。
「くっ! き、貴様、一体何者だ!」
(この一瞬で魔力量の差を感じ取ったか、流石はエルフといったところだな)
マヤの魔力量を見抜いた村長に、マッシュは感心する。
(しかし今回は裏目だ。わからなければのまれることもなかったろうに)
「私が何者かなんて、どうでもいいじゃん。それより、攫ったオークたちはどこにやったのって聞いてるんだけど?」
マヤが首を傾げると、また一段階発する魔力の圧が上がる。
「ぐっ……」
「ねえ教えてよ、今なら私、許してあげるよ?」
「くっ……はは、はははははははははははっ!」
「……どうしたの?」
「はははははははははっ、こうなっては仕方ない、ああ、仕方ないだろうなあ!」
突然雰囲気の変わった村長が懐から魔石を取り出すと、それでそのまま自らの顔を引き裂いた。
「ちょ!? え? 何やってんの!?」
引き裂かれたはずの顔からは、なぜだか血が流れてこない。
その理由を、マヤはすぐに知ることができた。
「村長、あなたは……」
自らの顔を引き裂いた魔石を胸の中心に突き刺し、未だ高笑いを続ける村長、その村長の引き裂かれた顔の下には、褐色の肌があり、その奥で金色の瞳が爛々と輝いていた。
村長がダークエルフとして本性を表した瞬間だった。
「……入っていただけ」
「はっ。聖女様、どうぞお入り下さい」
「はあ……?」
あれよあれよという間に村の中で一番大きな建物に案内されたマヤは、オークの青年が持ち上げているすだれの向こう側に戸惑いながら入っていく。
「私達も一緒に入っていいんですか?」
「当然です。お二人は聖女様のお連れの方ですから」
「では遠慮なく入らせてもらおう」
続いて、オリガも中に入り、最後にマッシュが入ると、オークの青年が手を離し、すだれが降ろされた。
「よくぞお越しくださった。我ら一同聖女様が来てくださるのを心待ちにしておりました」
「えーっと、申し訳ないんだけど、何のことかさっぱりわからない」
「おっと、これは失礼しました。実は我々の言い伝えに「オークの一族に困難が降りかかるとき、白き聖獣を連れた白銀の聖女が現れる」というものがございまして、我々はその聖女様を「予言の聖女」とお呼びしているのです」
「なるほど、それで私が予言の聖女様な訳ね」
どうやら、魔石が白くなった後体毛も白くなった魔物のシロちゃんを、白銀の髪をしたマヤが連れてきたので聖女だと思われているらしい。
「長老殿、こいつは聖女などではないぞ?」
「うんうん、私ただの魔物使いだよ?」
「確かに、聖女様にその自覚はないかもしれませんが、聖女様は何もかも予言どおりなのです」
「そんなこと言われてもなあ」
実は聖女と言われて少し嬉しいマヤだったが、だからといって安易に受け入れる気にもならなかった。
なぜなら十中八九面倒なことを任されるに違いないからだ。
「それに、聖女様は聖獣を連れておられる。それが何よりの証拠です」
「聖獣ってシロちゃんのこと?」
「わふ?」
マヤの隣にお座りしていたシロちゃんが、マヤと一緒に首を傾げる。
「その通りです。普通の魔物は黒い魔石に黒い体毛のはずですが、聖女様が連れている間物は白の魔石に白の体毛で。これこそ聖獣の証」
「うーん、そう言われてもなあ」
マヤが強化したらこうなったことは、あえて黙っておくことにした。
「それで、ここからが本題なのですが―――」
結局、聖女であることをマヤが認めようが認めまいが、この長老はマヤに頼み事をするつもりだったのだ。
それくらい切羽詰まっているのかもしれないが、少しはこちらも話も聞いてほしいと思うマヤだった。
***
「えーっと、つまり、あの村長がオークと共存したいって言ったからオークさんたちはこの森に来て、それなのにしばらくしたらエルフに攻撃され始めて、村人もさらわれて、だから私になんとかしてほしいってこと?」
数年前ここから離れたところに住んでいたオークたちのところにオリガの故郷から使者が来たというところから始まった3時間にも及ぶ長老の話を、マヤは極めてざっくりまとめた。
「相変わらずのざっくり加減だが、まあ大体そういうことだろうな」
「マヤさんって意外とまとめるの上手ですよね」
「えへへ、そうかな?」
無駄に長い割に大して重要な話がない会議の内容をまとめ続けた事務仕事の日々が意外なところで役に立っているようだ。
「でも、どうにかするって言ってもどうするの? ぶっ潰す?」
「あまりいい思い出がない村ですが、一応故郷なので、ぶっ潰すのちょっと……」
「だよねー、流石にねー」
どうやら長老の話によるとあの村長はかなりの悪人らしいが、それだけで村ごと潰すのはやりすぎだろう。
何よりの、オリガの家族であるエメリンとその子どもたちまで巻き込むことになってしまう。
マヤたちが悩んでいると、長老が1枚の紙を差し出した。
「長老、これは?」
「村長とそれを指示する有力者のリストです」
「そんなのあるんだ」
紙を開いてみると、そこには村長と10人余りの人物の名前が書かれていた。
「じゃあこの人たちだけなんとかすればいいわけか」
「なんとかするって言っても、そんなことしたら大事ですよ? 最悪あの村が火の海になるかもしれません」
「そうなの?」
「はい、この人とこの人は自前で戦闘部隊を用意してますし、こっちの人は人間の武器をたくさん用意してるって言われています」
「まあでも、なんとかなるんじゃない?」
「相変わらず適当だな、お前は」
「えーいいじゃん適当でも、実際なんとかなってきたわけだし?」
呆れるマッシュにそう言ってから、マヤは長老に振り返ると、
「そういうことだから、長老のお願い、聞いてあげる。聖女様が助けてあげるんだから、大船に乗ったつもりでいてよね」
と、元気良くそう言ったのだった。
***
「やあ村長さん、帰って来たよ」
「貴様あ!」
和やかに村長の部屋に入ってきたマヤに、村長は突然殴りかかる。
その拳は、予め出ておいてもらったシロちゃんの防御魔法に防がれていた。
「いきなりだなあ」
「それはこちらのセリフだ!」
村長が怒鳴ったタイミングで、オリガとマッシュがシロちゃんと同じ狼の魔物たちと一緒に入って来た。
その狼の魔物たちの背中には、簀巻きにされたエルフが合計11人乗っている。
「そんなに怒ってもしょうがないじゃん」
「これだけのことしておいてよくそんな口が聞けたものだな」
村長の言う「これだけのこと」とは、マヤの後ろで簀巻きにされていますエルフたちのことだろう。
マヤたちはオークの村から戻るやいなや、リストに載っていたエルフ達の屋敷を同時に襲撃していた。
結果は見ての通り、マヤたち、というよりマヤの魔物たちの圧勝だった。
そもそも1匹で並の魔物数匹分の強さを誇る魔物たちがマヤの規格外の強化魔法を受けた状態で襲ってくるのだ。
いかなエルフの精鋭といえど勝ち目はなかった。
「それこそこっちのセリフだよ。村長さん、さらったオークはどこにやったの?」
瞬間、マヤから発せられた圧力に、村長は思わず膝をつきそうになる。
マヤは笑顔を崩していなかったが、その身体からは大量の魔力が噴き出していた。
「くっ! き、貴様、一体何者だ!」
(この一瞬で魔力量の差を感じ取ったか、流石はエルフといったところだな)
マヤの魔力量を見抜いた村長に、マッシュは感心する。
(しかし今回は裏目だ。わからなければのまれることもなかったろうに)
「私が何者かなんて、どうでもいいじゃん。それより、攫ったオークたちはどこにやったのって聞いてるんだけど?」
マヤが首を傾げると、また一段階発する魔力の圧が上がる。
「ぐっ……」
「ねえ教えてよ、今なら私、許してあげるよ?」
「くっ……はは、はははははははははははっ!」
「……どうしたの?」
「はははははははははっ、こうなっては仕方ない、ああ、仕方ないだろうなあ!」
突然雰囲気の変わった村長が懐から魔石を取り出すと、それでそのまま自らの顔を引き裂いた。
「ちょ!? え? 何やってんの!?」
引き裂かれたはずの顔からは、なぜだか血が流れてこない。
その理由を、マヤはすぐに知ることができた。
「村長、あなたは……」
自らの顔を引き裂いた魔石を胸の中心に突き刺し、未だ高笑いを続ける村長、その村長の引き裂かれた顔の下には、褐色の肌があり、その奥で金色の瞳が爛々と輝いていた。
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