うつろな果実

硯羽未

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3 手のひらの温度と下心

3-4

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 布団を敷いた部屋までふらふらと歩きながら、氷彩が甘えるようにしなだれかかる。
 こうなることはある程度禅一にも予想が出来ていたはずだった。
 これまでも、氷彩は相手と別れる度に禅一と関係を持った。やはり禅一が良いとわがままを言う女に、愛想を尽かせたらどんなに楽だったろう。
 それが氷彩の本心ではないと知っているのに、突き放せない。彼女の心は既に禅一にはない。それなのにこんな不毛な関係を続けるのは、寂しいからなのか、他に何か目的があるのか。
 それでも、心のどこかでは氷彩を待っている。
「どうせ浅見もフリーなんでしょ? いいじゃない……それとも、本当に誰かいるの?」
「……別に誰も。でも今夜は一人で寝てください」
「んじゃ、せめて浅見がメイクオフしてくれない? スーツケースに拭き取りタイプのやつ……入ってるから」
 とても眠そうに言われたので、禅一は仕方なく氷彩のスーツケースを開け、メイク落としと基礎化粧品の入ったポーチを探し出すと、既に布団に横たわっていた女の横に腰を下ろした。
「いいですか? お顔触りますよ」
「んー……」
 目を瞑っている氷彩の瞼に、ひんやりとした感触が落ちる。
「浅見は優しいね。エステみたい。結局あたしのわがまま聞いてくれる」
「じっとしてて」
 肌に負担を掛けないようにゆっくりメイクを浮かせ、落としてゆく。
 自分の素肌に自信がないと、こんなことを禅一に頼んだりしないだろう。アルコールで上気した顔は、普段から気を使っているのかほとんどシミもない。まるで服を脱がしているかのような錯覚に陥り、意識を他のところに逸らそうと努力する。
「お客さま、このあと観光はなさるんですか?」
「なぁに浅見……ごっこ遊び?」
「ご案内しましょうか」
「うん……明日帰る前に、デートしようね……」
 時間をかけて素肌に戻し、仕上げに美容液をつけた手で氷彩の顔を優しく包み込んだ。禅一の手は結構大きい。
「氷彩さん……もう、寝ちゃいました?」
 うとうとしてきた氷彩の目がうっすら開く。
「……ありがと。すごく気持ち良かった……お返ししたげる」
 その手が禅一に触れ、そっと撫でた。
「やらしい手つき、やめてください」
「嘘つきだなぁ……なんか、既に発情してるでしょ、禅一くん。そういうタイミングの時に来ちゃったのかな?」
 不意にあまり呼ばれたことのない名前で呼ばれたので、禅一はどきりとした。発情していると指摘されるような心当たりはあった。何日か前に病院に行ったばかりだった。
「……そういうことにしといても、いいですけどね」
 先程あれほど拒んでいたのに、違うことを言っている自分に嫌気が差した。


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