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1 古民家カフェの優男
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沙也夏と呼ばれたのはショートヘアの少女で、ケーキにはあまり興味がないようだった。
沙也夏の着ている濃紺の制服は、あまりこの辺では見かけない。こちらもスカートが短いが、どうしてこうも短くしたがるのだろうか。
珠雨が高校生の頃も、周囲の女子がウエストでくるくるとスカート丈を調整しているのを見ていた。まあ、可愛いのだろう。あるいは周囲に合わせているだけなのかも知れない。周囲と歩調を合わせることは、安心感があるのだ。自分はルートから外れていない、多数派であるという安心感。珠雨はなんとなく冷めた目でそれを一瞥した。
環奈はつまらなそうに唇を尖らせたが、「じゃあ、あたしもいらない」と言い出した。
「食いたいんだろ。食えば」
「沙也夏ちゃんがいらないなら、あたしもいらない」
「そういうの……自主性がなくて嫌いなんだけど」
なんだかつまらないことで口論となっている。自主性がないなどと言われた環奈は少なからず傷ついたような表情をした。珠雨は少し困り、ちらりと禅一に視線を送る。
さっきまで開かれていた本は閉じられ、テーブルの隅に置かれている。禅一が座っていた椅子は既に空席で、カフェラテとミルクティーの用意に入っていたが、珠雨の視線と妙な口論に気づきこちらに歩いてきた。
「お嬢さん方、喧嘩はおよしなさい」
「喧嘩じゃねえし」
口が悪い沙也夏に、禅一はちょっと眉をハの字にして笑顔を見せる。
「もしケーキがお嫌いなら無理強いはしませんが、ザッハトルテもレアチーズケーキもどちらも美味しいので、一つずつ頼んで半分こにするって手もありますよ。ケーキセットにすると単品で頼むよりお得ですし、いかがでしょう」
言われて、沙也夏が少し止まる。考えるように禅一を一度見てから、環奈に視線を移す。
「環奈、半分こしたいの?」
「したい!」
「……しゃあないなー。じゃあ私は……レアチーズの方。こいつのザッハトルテもお願い」
「はい、ご注文承りました。少々お待ちを」
まるでどこかの執事のようなお辞儀をして、禅一が奥に消えていった。
結構商売上手だ。
二人はお互いの学校であった出来事や、昨夜観たドラマの感想、好きな音楽や漫画のこと、更にはこのカフェの内装についてまで、とりとめもなく話した。
「そう言えばね、この前バスケ部の男子に告白されたんだー……ねえ沙也夏ちゃん、この人どう思う?」
スマートフォンの中の写真を見せて、環奈が相手の反応を待っている。見せられた沙也夏は少し眉根を寄せ、シェアしたザッハトルテにフォークを突き刺す。
「ふぅん。環奈には合わなそう。脳筋な感じじゃない? やめときなよ。ちなみにそれ、誰が撮った写真?」
「んー、バスケ部の子がクラスにいて、沙也夏ちゃんに意見聞く為に転送してもらったの。わりと人気あるんだよ、爽多くん」
「下の名前で呼んでんのぉ? ちょっと距離感間違えてない?」
沙也夏の視線が鋭くなる。はっとしたように環奈がぱたぱたと手を横に振った。
「あっ、周りがそう呼んでるから! 別に意味はないの」
「男はヤることばっか考えてるんだよ? 付き合うとなったら、環奈はガードが弛いから、どうなるか目に見えて心配。さっき言ったように、環奈は他人に対する距離感がおかしい時あるから」
どこの男がリサーチ対象なのかわからないが、一緒くたにするのはどうかと珠雨は思う。勿論思うだけで、口出しするわけではない。
「ええー? 弛くないよ! 好きでもないのにそんなことするわけない」
沙也夏の着ている濃紺の制服は、あまりこの辺では見かけない。こちらもスカートが短いが、どうしてこうも短くしたがるのだろうか。
珠雨が高校生の頃も、周囲の女子がウエストでくるくるとスカート丈を調整しているのを見ていた。まあ、可愛いのだろう。あるいは周囲に合わせているだけなのかも知れない。周囲と歩調を合わせることは、安心感があるのだ。自分はルートから外れていない、多数派であるという安心感。珠雨はなんとなく冷めた目でそれを一瞥した。
環奈はつまらなそうに唇を尖らせたが、「じゃあ、あたしもいらない」と言い出した。
「食いたいんだろ。食えば」
「沙也夏ちゃんがいらないなら、あたしもいらない」
「そういうの……自主性がなくて嫌いなんだけど」
なんだかつまらないことで口論となっている。自主性がないなどと言われた環奈は少なからず傷ついたような表情をした。珠雨は少し困り、ちらりと禅一に視線を送る。
さっきまで開かれていた本は閉じられ、テーブルの隅に置かれている。禅一が座っていた椅子は既に空席で、カフェラテとミルクティーの用意に入っていたが、珠雨の視線と妙な口論に気づきこちらに歩いてきた。
「お嬢さん方、喧嘩はおよしなさい」
「喧嘩じゃねえし」
口が悪い沙也夏に、禅一はちょっと眉をハの字にして笑顔を見せる。
「もしケーキがお嫌いなら無理強いはしませんが、ザッハトルテもレアチーズケーキもどちらも美味しいので、一つずつ頼んで半分こにするって手もありますよ。ケーキセットにすると単品で頼むよりお得ですし、いかがでしょう」
言われて、沙也夏が少し止まる。考えるように禅一を一度見てから、環奈に視線を移す。
「環奈、半分こしたいの?」
「したい!」
「……しゃあないなー。じゃあ私は……レアチーズの方。こいつのザッハトルテもお願い」
「はい、ご注文承りました。少々お待ちを」
まるでどこかの執事のようなお辞儀をして、禅一が奥に消えていった。
結構商売上手だ。
二人はお互いの学校であった出来事や、昨夜観たドラマの感想、好きな音楽や漫画のこと、更にはこのカフェの内装についてまで、とりとめもなく話した。
「そう言えばね、この前バスケ部の男子に告白されたんだー……ねえ沙也夏ちゃん、この人どう思う?」
スマートフォンの中の写真を見せて、環奈が相手の反応を待っている。見せられた沙也夏は少し眉根を寄せ、シェアしたザッハトルテにフォークを突き刺す。
「ふぅん。環奈には合わなそう。脳筋な感じじゃない? やめときなよ。ちなみにそれ、誰が撮った写真?」
「んー、バスケ部の子がクラスにいて、沙也夏ちゃんに意見聞く為に転送してもらったの。わりと人気あるんだよ、爽多くん」
「下の名前で呼んでんのぉ? ちょっと距離感間違えてない?」
沙也夏の視線が鋭くなる。はっとしたように環奈がぱたぱたと手を横に振った。
「あっ、周りがそう呼んでるから! 別に意味はないの」
「男はヤることばっか考えてるんだよ? 付き合うとなったら、環奈はガードが弛いから、どうなるか目に見えて心配。さっき言ったように、環奈は他人に対する距離感がおかしい時あるから」
どこの男がリサーチ対象なのかわからないが、一緒くたにするのはどうかと珠雨は思う。勿論思うだけで、口出しするわけではない。
「ええー? 弛くないよ! 好きでもないのにそんなことするわけない」
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