うつろな果実

硯羽未

文字の大きさ
上 下
3 / 16
1 古民家カフェの優男

1-3

しおりを挟む
 沙也夏と呼ばれたのはショートヘアの少女で、ケーキにはあまり興味がないようだった。
 沙也夏の着ている濃紺の制服は、あまりこの辺では見かけない。こちらもスカートが短いが、どうしてこうも短くしたがるのだろうか。
 珠雨が高校生の頃も、周囲の女子がウエストでくるくるとスカート丈を調整しているのを見ていた。まあ、可愛いのだろう。あるいは周囲に合わせているだけなのかも知れない。周囲と歩調を合わせることは、安心感があるのだ。自分はルートから外れていない、多数派マジョリティであるという安心感。珠雨はなんとなく冷めた目でそれを一瞥した。
 環奈はつまらなそうに唇を尖らせたが、「じゃあ、あたしもいらない」と言い出した。
「食いたいんだろ。食えば」
「沙也夏ちゃんがいらないなら、あたしもいらない」
「そういうの……自主性がなくて嫌いなんだけど」
 なんだかつまらないことで口論となっている。自主性がないなどと言われた環奈は少なからず傷ついたような表情をした。珠雨は少し困り、ちらりと禅一に視線を送る。
 さっきまで開かれていた本は閉じられ、テーブルの隅に置かれている。禅一が座っていた椅子は既に空席で、カフェラテとミルクティーの用意に入っていたが、珠雨の視線と妙な口論に気づきこちらに歩いてきた。
「お嬢さん方、喧嘩はおよしなさい」
「喧嘩じゃねえし」
 口が悪い沙也夏に、禅一はちょっと眉をハの字にして笑顔を見せる。
「もしケーキがお嫌いなら無理強いはしませんが、ザッハトルテもレアチーズケーキもどちらも美味しいので、一つずつ頼んで半分こにするって手もありますよ。ケーキセットにすると単品で頼むよりお得ですし、いかがでしょう」
 言われて、沙也夏が少し止まる。考えるように禅一を一度見てから、環奈に視線を移す。
「環奈、半分こしたいの?」
「したい!」
「……しゃあないなー。じゃあ私は……レアチーズの方。こいつのザッハトルテもお願い」
「はい、ご注文承りました。少々お待ちを」
 まるでどこかの執事のようなお辞儀をして、禅一が奥に消えていった。
 結構商売上手だ。


 二人はお互いの学校であった出来事や、昨夜観たドラマの感想、好きな音楽や漫画のこと、更にはこのカフェの内装についてまで、とりとめもなく話した。
「そう言えばね、この前バスケ部の男子に告白されたんだー……ねえ沙也夏ちゃん、この人どう思う?」
 スマートフォンの中の写真を見せて、環奈が相手の反応を待っている。見せられた沙也夏は少し眉根を寄せ、シェアしたザッハトルテにフォークを突き刺す。
「ふぅん。環奈には合わなそう。脳筋な感じじゃない? やめときなよ。ちなみにそれ、誰が撮った写真?」
「んー、バスケ部の子がクラスにいて、沙也夏ちゃんに意見聞く為に転送してもらったの。わりと人気あるんだよ、爽多そうたくん」
「下の名前で呼んでんのぉ? ちょっと距離感間違えてない?」
 沙也夏の視線が鋭くなる。はっとしたように環奈がぱたぱたと手を横に振った。
「あっ、周りがそう呼んでるから! 別に意味はないの」
「男はヤることばっか考えてるんだよ? 付き合うとなったら、環奈はガードが弛いから、どうなるか目に見えて心配。さっき言ったように、環奈は他人に対する距離感がおかしい時あるから」
 どこの男がリサーチ対象なのかわからないが、一緒くたにするのはどうかと珠雨は思う。勿論思うだけで、口出しするわけではない。
「ええー? 弛くないよ! 好きでもないのにそんなことするわけない」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...