異形頭のデルフィニウム

硯羽未

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第13話 不具合と戯言

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 未散と地下に身を隠した為、メンテナンスを受けることは出来なくなった。地上に出たとしても開発メーカーは既になくなり、誰が尻ぬぐいするわけでもない。今未散は動いているが、不具合が出たら直す人間はいない。

「アサトの傍にいられるのもあとわずかかもシレナイから、料理とかもオボえておいて」
 未散の合成音声がたまに乱れる。未散自身不具合が出ているのは把握しているようで、たまに動かなくなり、再起動を繰り返している。

 不具合の原因はわかっていた。先日未散は食料を探しに行くと言ったきり、一晩戻らなかったことがある。その際に誰かに襲われたらしい。未散が手に入れた食料が目当ての、暴漢の仕業なのだろう。
 未散は人間に危害を加えないようプログラムされている。機械だったし、生身の人間と違って痛みを認知しないが、それでもアサトは許すことが出来なかった。なんとか戻ってきたものの、あちこち破損してぼろぼろになった未散を見て、アサトは唇を噛み締めた。

「未散」
「アサト、役に立たなくテごめん」
「未散、未散……」
 幼い頃から十数年という長い時を共に過ごした。自然と愛着は沸く。ぎゅっと抱き締めた体はやはり人間とは違って金属的な硬さだったが、アサトにとっては誰よりも大切な存在となっていた。コーティングされた人工の皮膚はところどころ破損しており、機械仕掛けの内部が見え隠れして痛々しかった。
 一人で行かせたことを、後悔してもしきれなかった。

「アサト……僕はもしかしたら、アサトの心も体も癒せるようなパートナーに……なりたかったのかもしれない。僕にそういう機能がないのは、残念」
「──何言ってんだ」
 抱き締めたアサトの腕に自分の手をそっと置いた未散は、いつも見せる笑顔のままどこか寂しそうに呟いた。
「こんなにも立派に育ったアサトを、すべてにおいて満足させらレル存在でありたかった」
「俺は未散にそんなこと望んでるわけじゃない」
「……僕が、望んだのかもしれナイね。思考回路に不具合がデテいる」

 未散はプログラムにない思考パターンをしている。壊れ始めているのだ。或いは開発段階でそういった機能をつけようとしていたバクが、どこかに残っているのかもしれない。
 アサトにしてみれば、人間の性欲を満たすだけの機械人形にはまるで興味がなかった。けれど未散ならどうだろう? ふと邪なことを考えた。

「……キス、くらいなら……出来るんじゃねえ?」
「アサトはキスだけで満足するノカ」
「さあどうだろ。……してみる?」
 アサトは顔を近づけ、軽く唇に触れるだけのキスをした。顔が離れる時に、未散のモノアイに自分が反射して映り込んだのをぼんやりと見つめる。変な気分になった。長いこと一緒にいたが、キスをしたのは初めてだった。

「アサト、僕の戯言に付き合ってくれてアリがとう」
 未散はそれだけ言うと、しばらく黙り込んだ。電源が落ちたのだ。再起動がかかってひやりとする。ちゃんと無事に再起動してくれるのかと、不安になる。
 なんとも言えない焦燥感に、何故だがアサトはこれまでにない欲望が、体の奥底から湧き上がってくるのを認識した。
「……なんで、勃ってんだよ俺は」
 意味がわからなかった。
 未散をそんな目で見るなんて、どうかしている。
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