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第7話 まるで妖精のような
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すっかりネモフィラを拘束したアサトは、鉄パイプを持ったままどうして良いかわからずに立ち尽くす僕に手招きをした。ネモフィラは大人しく、馬乗りになったアサトの下敷きになっている。その顔に焦りなどは一切見えず、冷淡な美しさを持った相貌がこの状況とまるで似合わずに、僕を軽く混乱させた。
「ミチル……こっちへ来い」
「あ……ああ」
ノロノロと水の中を歩くようなスピードで、アサトの傍まで辿り着く。アサトはネモフィラの身に纏う服を丁寧に脱がすと、僕に投げて寄越した。
「何で脱がして……」
「服の調達だ。あと、こいつはこれから首を切り落とす。汚れる前にありがたく貰い受ける」
「追い剥ぎとか……」
「あのなあ……今お前が着てる服だって、俺が調達してきてやったもんだ。出処がどこか聞かなかったのは、疑問に思わなかったからか。それとも知りたくなかったからか?」
アサトの言葉がぐさりと心に刺さった。
確かにそうだ。今服を手に入れようと思ったら、店に行って購入するなんて選択肢はないのだ。手先が器用で個人的に作っている人間はいるだろうが、僕の身近にはいない。
服を脱がす際に邪魔となった指の拘束が一時的に外されても、ネモフィラは逃げたりしなかった。本当にこれが天敵? どうにも腑に落ちない。僕のことをじっと観察でもするように凝視してくるのも、いたたまれなかった。
Dに性別はあるのか。
少し前に抱いた疑問は服を剥かれた目の前の裸体を見れば明らかだった。
痩せた平坦な胸、外部に露出した控え目な生殖器官は男のものだ。しかし全体的にとても華奢な造りをしており、男性らしさはあまり感じられない。そしてどことなく既視感を覚え、すぐに思い至った。
僕自身の体が、まさにこんな感じだったからだ。
なんとなく自分が脱がされている気分になって、居心地が悪くなった。コンプレックスのある、か細い肉体。そこにDの美しい顔が乗ると何故か、例えば妖精のような儚い存在にも見えるのが不思議だった。この世のものとは思えない美しさだ。
「ミ・チ・ル……?」
ネモフィラの唇から、僕の名前が漏れ聞こえた。鈴を鳴らしたような声には、何かに疑問を抱いているような色が混じっていた。
このような美しいものが、本当に天敵たる存在になるのか。──そんな疑問を抱くのも無理はない。けれど僕は以前Dに視力を奪われている。……恐ろしい、存在のはずだ。
アサトはその体から降りることはせず、首によく手入れのされたサバイバルナイフを押し付けた。
「待ってくれ……!」
そう叫んだつもりだった。
けれどアサトのナイフは皮膚に深く潜り込み、その喉を躊躇なく切り裂いた。血は噴き出さなかった。その体に血が流れていないのならば、何が流れているのだろう。とろりとした粘性のある液体が、ネモフィラの喉からゆっくりと滴り落ちた。
力任せに首を落とされる衝撃で、びくりびくりと細い肢体がおぞましく痙攣する。
痙攣はしても痛みを感じていないのか、苦悶の表情を浮かべもせず、相変わらずネモフィラは僕を見つめていた。ガラス玉のような瞳は、怯えている僕の姿を焼き付けるように映す。そんなにこのモノアイが気になるのだろうか。
もう名前は呼ばれなかった。声が出ないからだ。
Dは首を切り離されても死んだりはしない。けれど視界に頼れない体は制御を失い、首だけになった頭は身動きが取れない。残酷だが、これが死なない相手に対する最適解の対処方法なのかもしれなかった。
「ミチル……こっちへ来い」
「あ……ああ」
ノロノロと水の中を歩くようなスピードで、アサトの傍まで辿り着く。アサトはネモフィラの身に纏う服を丁寧に脱がすと、僕に投げて寄越した。
「何で脱がして……」
「服の調達だ。あと、こいつはこれから首を切り落とす。汚れる前にありがたく貰い受ける」
「追い剥ぎとか……」
「あのなあ……今お前が着てる服だって、俺が調達してきてやったもんだ。出処がどこか聞かなかったのは、疑問に思わなかったからか。それとも知りたくなかったからか?」
アサトの言葉がぐさりと心に刺さった。
確かにそうだ。今服を手に入れようと思ったら、店に行って購入するなんて選択肢はないのだ。手先が器用で個人的に作っている人間はいるだろうが、僕の身近にはいない。
服を脱がす際に邪魔となった指の拘束が一時的に外されても、ネモフィラは逃げたりしなかった。本当にこれが天敵? どうにも腑に落ちない。僕のことをじっと観察でもするように凝視してくるのも、いたたまれなかった。
Dに性別はあるのか。
少し前に抱いた疑問は服を剥かれた目の前の裸体を見れば明らかだった。
痩せた平坦な胸、外部に露出した控え目な生殖器官は男のものだ。しかし全体的にとても華奢な造りをしており、男性らしさはあまり感じられない。そしてどことなく既視感を覚え、すぐに思い至った。
僕自身の体が、まさにこんな感じだったからだ。
なんとなく自分が脱がされている気分になって、居心地が悪くなった。コンプレックスのある、か細い肉体。そこにDの美しい顔が乗ると何故か、例えば妖精のような儚い存在にも見えるのが不思議だった。この世のものとは思えない美しさだ。
「ミ・チ・ル……?」
ネモフィラの唇から、僕の名前が漏れ聞こえた。鈴を鳴らしたような声には、何かに疑問を抱いているような色が混じっていた。
このような美しいものが、本当に天敵たる存在になるのか。──そんな疑問を抱くのも無理はない。けれど僕は以前Dに視力を奪われている。……恐ろしい、存在のはずだ。
アサトはその体から降りることはせず、首によく手入れのされたサバイバルナイフを押し付けた。
「待ってくれ……!」
そう叫んだつもりだった。
けれどアサトのナイフは皮膚に深く潜り込み、その喉を躊躇なく切り裂いた。血は噴き出さなかった。その体に血が流れていないのならば、何が流れているのだろう。とろりとした粘性のある液体が、ネモフィラの喉からゆっくりと滴り落ちた。
力任せに首を落とされる衝撃で、びくりびくりと細い肢体がおぞましく痙攣する。
痙攣はしても痛みを感じていないのか、苦悶の表情を浮かべもせず、相変わらずネモフィラは僕を見つめていた。ガラス玉のような瞳は、怯えている僕の姿を焼き付けるように映す。そんなにこのモノアイが気になるのだろうか。
もう名前は呼ばれなかった。声が出ないからだ。
Dは首を切り離されても死んだりはしない。けれど視界に頼れない体は制御を失い、首だけになった頭は身動きが取れない。残酷だが、これが死なない相手に対する最適解の対処方法なのかもしれなかった。
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