過負荷

硯羽未

文字の大きさ
上 下
91 / 94
番外編 Love Addict

35-11

しおりを挟む
 あまりにも壱流の良いところを突いてくるので、次第にわけがわからなくなってきて、竜司の広い背中にすがりついた。


  * * *

 壱流が去ってしまったあと、瀬尾は妙に緊張していた自分に気づき、まひるが出してくれた少し冷めたコーヒーに口をつけて一気に半分くらい飲んだ。
 目の前に腰掛けてその様子を見ていたまひるが、「冷めちゃいましたよね。淹れ直します?」と言ってくれた。しかし一気飲みするには丁度良い温度だった。

「いやあの、ほんとおかまいなく」
「もしかして先生のこと、びっくりさせました?」
「……まあ、少し。実はその……結構ファンだったりしまして。実物はやっぱり、かっこいいなあと」
「社交辞令はいいのに」

「いや、社交辞令とかじゃなくて! ……あっ。す、すみません。ちょっと興奮して。保護者の名前見た時、同姓同名の方かな……なんて、うっすら思ってたんですが。本人出てきたから……なんてゆうか。……芸名とかじゃないんですね」
 わけもわからず謝る。言わなくても良いことを言っている気がする。
「ああ、可愛いでしょう? 壱流って名前。デビューさせる時どうしようかって話したんですけど、似合ってるからそのままでいいかって」
「は……、え、と、そうですね……?」
 ちょっと不思議そうな顔をした瀬尾に、ああ、とまひるは付け足した。

「あたし、彼らのマネージャーやってたものですから。今は信頼出来る人に任せてるけど。子育てってあの仕事続けながらだと、ちょっときつくて」
「ああ。そうなんですか……そうですよね。すみません、なんか」
 またしても意味不明に謝った瀬尾に、まひるは面白そうに笑んだ。頼りない感じの先生だとか思われていそうだ。何を謝っているのだろう、もっと教師らしくしなくては。と瀬尾も自分を振り返る。
 なんとなく、立ち入ったことを聞いた気がしたから。

 忙しいのだろう、確かに。
 ZIONは結構ライブ本数をこなすし、その関係で全国あちこちを点々としていることが多い。留守にする時間は多いに違いない。それに付き合っていたら、他人に預けたりしない限りまふゆのことなどまともに育てられない。
「……えーと、まふゆちゃん、お父さんとの関係は良好ですか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

もう一度、恋になる

神雛ジュン@元かびなん
BL
 松葉朝陽はプロポーズを受けた翌日、事故による記憶障害で朝陽のことだけを忘れてしまった十年来の恋人の天生隼士と対面。途方もない現実に衝撃を受けるも、これを機に関係を清算するのが将来を有望視されている隼士のためだと悟り、友人関係に戻ることを決める。  ただ、重度の偏食である隼士は、朝陽の料理しか受け付けない。そのことで隼士から頭を下げられた朝陽がこれまでどおり食事を作っていると、事故当時につけていた結婚指輪から自分に恋人がいたことに気づいた隼士に、恋人を探す協力をして欲しいと頼まれてしまう……。

蒼い春も、その先も、

Rg
BL
高校二年生の春。 自傷癖のある朝比奈穂希は、校内一の優等生として有名な佳澄椿と出会う。 穂希は自分に自傷癖があること、そして自傷をやめようと思っていることを打ち明けるが、椿の反応は穂希の想像とは少し違うものだった。 自身の傷に対する椿の言動に違和感を覚える日々を過ごしていたそんなある日、彼に『君のことを好きになってしまった』と告げられる。 ※自傷行為常習の穂希くんが主人公なので、痛々しい描写多々あります。苦手な方、ご注意を!

明日、君は僕を愛さない

山田太郎
BL
昨日自分を振ったはずの男が帰ってきた。ちょうど一年分の記憶を失って。 山野純平と高遠英介は大学時代からのパートナーだが、大学卒業とともに二人の関係はぎこちなくすれ違っていくばかりだった。そんなある日、高遠に新しい恋人がいることを聞かされてーー。

キミの次に愛してる

Motoki
BL
社会人×高校生。 たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。 裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。 姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。

オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない

潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。 いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。 そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。 一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。 たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。 アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー

【完結】キミの記憶が戻るまで

ゆあ
BL
付き合って2年、新店オープンの準備が終われば一緒に住もうって約束していた彼が、階段から転落したと連絡を受けた 慌てて戻って来て、病院に駆け付けたものの、彼から言われたのは「あの、どなた様ですか?」という他人行儀な言葉で… しかも、彼の恋人は自分ではない知らない可愛い人だと言われてしまい… ※side-朝陽とside-琥太郎はどちらから読んで頂いても大丈夫です。 朝陽-1→琥太郎-1→朝陽-2 朝陽-1→2→3 など、お好きに読んでください。 おすすめは相互に読む方です

できそこないの幸せ

さくら/黒桜
BL
溺愛・腹黒ヤンデレ×病弱な俺様わんこ 主人公総愛され *** 現役高校生でありながらロックバンド「WINGS」として地道に音楽活動を続けている、今西光と相羽勝行。 父親の虐待から助けてくれた親友・勝行の義弟として生きることを選んだ光は、生まれつき心臓に病を抱えて闘病中。大学受験を控えながらも、光を過保護に構う勝行の優しさに甘えてばかりの日々。 ある日四つ葉のクローバー伝説を聞いた光は、勝行にプレゼントしたくて自分も探し始める。だがそう簡単には見つからず、病弱な身体は悲鳴をあげてしまう。 音楽活動の相棒として、義兄弟として、互いの手を取り生涯寄り添うことを選んだ二人の純愛青春物語。 ★★★ WINGSシリーズ本編第2部 ★★★ 高校3年生の物語を収録しています。 ▶本編Ⅰ 背徳の堕天使 全2巻 (kindle電子書籍)の続編になります。読めない方向けににあらすじをつけています。 冒頭の人物紹介&あらすじページには内容のネタバレも含まれますのでご注意ください。 ※前作「両翼少年協奏曲」とは同じ時系列の話です 視点や展開が多少異なります。単品でも楽しめますが、できれば両方ご覧いただけると嬉しいです ※主人公は被虐待のトラウマを抱えています。軽度な暴力シーンがあります。苦手な方はご注意くだださい。

処理中です...