過負荷

硯羽未

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番外編 Love Addict

35-5

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 本人は知らないだろうし、知ったら嫌な顔をするに違いないが、ゲイ雑誌の「抱きたい男」ランキングで、可愛い男の子アイドルに混じって壱流は常に上位に食い込む。瀬尾自身、彼は抱きたい男そのものだ。
(まあ妻子持ちってことは、ノンケ以外の何者でもないんだろうけど)
 このフェロモンは反則だ。
 近頃は忙しくてライブなんて行けていなかったが、生で歌う彼を無性に見たくなった。あまり顔を見つめるのもどうかと思って、視線を少し下ろした先で目が止まる。シャツから覗いた首筋に、つけられたばかりにも思えるキスマークがはっきりと残されていて、どきんとする。

 瀬尾の目がそこで止まったのに気づいたのか、壱流ははにかんだ表情で襟元を直した。結婚指輪はしていないが、百合がモチーフのごつい指輪をその人差し指に嵌めている。これもまた、似合う。
(うう、抱き締めたい……)
 ちょっと暴走気味の自分を意識する。しかし今は質問されている立場だった。何か答えなければ不審に思われてしまう。変な子、と言われ瀬尾は記憶を反芻してみた。変な子……では、ない、とは言い切れない。

「えーと……マイペースな感じですかね」
「そうかあ……まふゆ、なにして」
 話している壱流の膝に、まふゆがよじ登ろうとしていた。壱流はその体を抱き上げ、少し椅子を引いてから自分の娘を膝に乗せる。
「お父さん子なんですね」
 なんだか羨ましいなどと変なことを考えながら、瀬尾は素直な感想を述べる。子持ちの壱流なんて最初はあまり想像出来なかったのだが、意外とこういうのも違和感はない。

(だけど、でも)
 子持ちなのに、年上なのに、悶えるほどにおいしそうだ。キスマークを隠した時の表情がまた、たまらない。
(何考えてるんだ、俺は。これは「保護者」だ)
 心の中でぶるぶると頭を振って、なんとか思考を切り替えようとするのだが、ずっと好きでたまに夜のおかずにもさせていただいていたアーティストが目の前にいる以上、冷静になりきるのは難しい。
「あんま一緒にいる時間ないから、たまには……まあ先生、とにかくこの子よろしくお願いします」
 ぺこんと下げられた頭。意外と礼儀正しいのがまた好感度をアップさせて、ある意味困る。慌てて瀬尾も頭を下げた。
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