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第34話(最終話) 真冬
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「壱流ー? 入るぞ」
何度ノックしても反応がなかったので勝手に入ると、案の定壱流はヘッドフォンをつけてテーブルに肘を突き、ノートパソコンに向かっていた。多分俺の曲を聴きながら歌詞を練っているのだろう。集中すると、多少のことでは反応しなくなる。
「ほらな、いるだろ」
「いたー」
ようやく俺たちの気配に気づいた壱流が、ヘッドフォンを外してこちらを見た。まふゆを床に下ろしてやると、壱流のところへ走っていってまとわりついた。
くっついてきたまふゆの額にちゅうとキスをして、さらさらの髪を撫でている壱流。
これだけ見ると、娘を溺愛している普通の父親にも見える。
けれど、けして一緒に住んだりはしない。生活に困らないように金銭的なことはちゃんとしているみたいだが、まふゆは寂しくはないのだろうか。変な家庭環境で育って大丈夫だろうか、と他人事ながらも心配だ。
まふゆと戯れている壱流の傍に腰を下ろし、パソコンの画面を覗き込む。十数行の歌詞が出来ていた。退廃的なラブソングなんか書いている。
誰を想って書くのだろう。俺だったら嬉しい気もするが、それはまひるかもしれないし、あるいは架空の女かもしれない。
「──あ、竜司。まだ見るな」
俺の視線の先に気づいた壱流が、慌ててノートパソコンの画面をぱたんと閉じた。
「別にいーじゃねえか」
「書き途中だから駄目だ」
「いーじゃねえか」
まふゆが俺の言葉を真似したので、壱流が思いっきり眉をしかめた。女の子が使う言葉ではない。俺の影響を受けて育ったら、外見は本当に可愛らしいのに台無しだ。壱流は俺を非難するように見て、ため息をついた。
「まふゆ、竜司になついてるよな」
「なんだ悔しいのか」
「竜ちゃんも、子供欲しかったりする? 誰かと結婚したいか?」
「──は?」
いきなり聞かれて、俺は戸惑った。
俺が結婚どころかまともな恋愛すら出来ないことを壱流は良く知っている。相手を忘却するし、俺には壱流の傍にいるという使命がある。それに、俺は自分の血を残そうなどとは思っていなかった。
俺が残すのは、壱流が歌う為の曲。それだけで充分だ。俺がこの世にいたという証。俺が残せるただ一つのもの。
心を覗き込むようにじっと見つめている壱流の黒い目をまっすぐに見つめ返し、俺は軽く笑った。
「そうだなあ。俺はまふゆと結婚しようかな。なあまふゆ。俺のこと好きだよなあ?」
「うん、りゅーちゃんすき」
「大きくなったらりゅーちゃんと結婚してくれるか?」
「んー?」
結婚の意味も恐らくわかっていないだろうまふゆを壱流から取り上げながら冗談を言った俺に、壱流は本気で顔を歪めた。
何度ノックしても反応がなかったので勝手に入ると、案の定壱流はヘッドフォンをつけてテーブルに肘を突き、ノートパソコンに向かっていた。多分俺の曲を聴きながら歌詞を練っているのだろう。集中すると、多少のことでは反応しなくなる。
「ほらな、いるだろ」
「いたー」
ようやく俺たちの気配に気づいた壱流が、ヘッドフォンを外してこちらを見た。まふゆを床に下ろしてやると、壱流のところへ走っていってまとわりついた。
くっついてきたまふゆの額にちゅうとキスをして、さらさらの髪を撫でている壱流。
これだけ見ると、娘を溺愛している普通の父親にも見える。
けれど、けして一緒に住んだりはしない。生活に困らないように金銭的なことはちゃんとしているみたいだが、まふゆは寂しくはないのだろうか。変な家庭環境で育って大丈夫だろうか、と他人事ながらも心配だ。
まふゆと戯れている壱流の傍に腰を下ろし、パソコンの画面を覗き込む。十数行の歌詞が出来ていた。退廃的なラブソングなんか書いている。
誰を想って書くのだろう。俺だったら嬉しい気もするが、それはまひるかもしれないし、あるいは架空の女かもしれない。
「──あ、竜司。まだ見るな」
俺の視線の先に気づいた壱流が、慌ててノートパソコンの画面をぱたんと閉じた。
「別にいーじゃねえか」
「書き途中だから駄目だ」
「いーじゃねえか」
まふゆが俺の言葉を真似したので、壱流が思いっきり眉をしかめた。女の子が使う言葉ではない。俺の影響を受けて育ったら、外見は本当に可愛らしいのに台無しだ。壱流は俺を非難するように見て、ため息をついた。
「まふゆ、竜司になついてるよな」
「なんだ悔しいのか」
「竜ちゃんも、子供欲しかったりする? 誰かと結婚したいか?」
「──は?」
いきなり聞かれて、俺は戸惑った。
俺が結婚どころかまともな恋愛すら出来ないことを壱流は良く知っている。相手を忘却するし、俺には壱流の傍にいるという使命がある。それに、俺は自分の血を残そうなどとは思っていなかった。
俺が残すのは、壱流が歌う為の曲。それだけで充分だ。俺がこの世にいたという証。俺が残せるただ一つのもの。
心を覗き込むようにじっと見つめている壱流の黒い目をまっすぐに見つめ返し、俺は軽く笑った。
「そうだなあ。俺はまふゆと結婚しようかな。なあまふゆ。俺のこと好きだよなあ?」
「うん、りゅーちゃんすき」
「大きくなったらりゅーちゃんと結婚してくれるか?」
「んー?」
結婚の意味も恐らくわかっていないだろうまふゆを壱流から取り上げながら冗談を言った俺に、壱流は本気で顔を歪めた。
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