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第25話 混じり合う思考
25-2
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……なんだろう。
「さっきから妙な思考が混じってるような」
自分の中の心の動きに、奇妙な物を感じていた。
何か思い出そうとしているのだろうか? そう言えば洗濯機の前でも、変な感じがしたんだけどな……。血の匂いを嗅いだ時だ。
(壱流の、匂い)
頭が少し、痛くなった。
「……もう、やめ」
再びディスクをパソコンから取り出して、棚の奥に隠す。代わりに過去出演した音楽番組を収めたDVDを入れて再生させてみた。
壱流の声。
何故か心を締め付けるボーカル。その歌声は妙にせつない気持ちにさせる。
「かっけーなぁ……こいつ。メヂカラあるっつーか」
誰に聞かせるわけでなく、自然と独り言が洩れる。
俺のギターと共に歌う壱流の姿。
昼間も思ったが、前よりも随分と進歩している。正直引く(と言ったらおかしいかもしれないが)くらい、いい男だ。女だったら惚れてしまいそうだ。元々それなりにいい男だったが、より多くの人目に触れることで、研磨された感じがする。
知らない、男。
俺の知っている真田壱流とはどこか違う。
シンプルではありえない。いろんな感情が複雑に絡み合い、人の目を惹きつける。
ギターを弾く俺は、あまり変わりがない。自分で見てそう思うのだから、多分間違いない。ギターの音色が変わらない。忘れても、ギターは変わらないと言われたのをふと思い出した。
だけど……それって、成長してねえってことなんじゃ。
壱流の声は伸びのある、力強いボーカルだ。元々はこんなに声量のある奴ではなかった。尤も今はプロを名乗っているのだから、きっとボイストレーニングとかしているのだろう。
壱流は成長していっているのに、これでは置いてゆかれてしまう。そんな妙な焦りすら感じる。
ぎゅうと手のひらをきつく握り締めた。
じっとパソコンの画面を睨んでいたら、部屋の外で物音がした。
まひるのところで寝るんじゃなかったのか。壱流の足音と思しきそれは、俺の部屋へは向かわず、静かに消えた。
「そいや……あいつの部屋ってベッドなかったなあ」
DVDを流したまま、俺は立ち上がる。これまで俺と寝ない日は、ずっとまひるの部屋で寝泊りしていたのだろうか。帰ってきてどうする気なのだろう。俺の ところへも来ずに。
布団でも敷いて寝るのかもしれない。しかしなんとなく気になって、俺は廊下に出た。
しん、としたリビング。
明かりも消えて、人気もない。壱流は自分の部屋に戻ったのか。時計を見る。午前1時12分。3月とは言え夜の静かな空間は冷えていた。
「帰ったのか?」
壱流の部屋のドアをノックして、返事を待つ。しかし返事はない。よもやまたリストカットなんてしてはいないだろうが、鍵のかかっていないドアノブに、なにやらもやもやとした気持ちのまま手をかけた。
「さな……、……壱流?」
やはり照明は消えていた。
壱流の姿はない。
「……どこ行ったんだ?」
ぽつりと洩れた俺の声に、どこかでごそりと物音がした。
「さっきから妙な思考が混じってるような」
自分の中の心の動きに、奇妙な物を感じていた。
何か思い出そうとしているのだろうか? そう言えば洗濯機の前でも、変な感じがしたんだけどな……。血の匂いを嗅いだ時だ。
(壱流の、匂い)
頭が少し、痛くなった。
「……もう、やめ」
再びディスクをパソコンから取り出して、棚の奥に隠す。代わりに過去出演した音楽番組を収めたDVDを入れて再生させてみた。
壱流の声。
何故か心を締め付けるボーカル。その歌声は妙にせつない気持ちにさせる。
「かっけーなぁ……こいつ。メヂカラあるっつーか」
誰に聞かせるわけでなく、自然と独り言が洩れる。
俺のギターと共に歌う壱流の姿。
昼間も思ったが、前よりも随分と進歩している。正直引く(と言ったらおかしいかもしれないが)くらい、いい男だ。女だったら惚れてしまいそうだ。元々それなりにいい男だったが、より多くの人目に触れることで、研磨された感じがする。
知らない、男。
俺の知っている真田壱流とはどこか違う。
シンプルではありえない。いろんな感情が複雑に絡み合い、人の目を惹きつける。
ギターを弾く俺は、あまり変わりがない。自分で見てそう思うのだから、多分間違いない。ギターの音色が変わらない。忘れても、ギターは変わらないと言われたのをふと思い出した。
だけど……それって、成長してねえってことなんじゃ。
壱流の声は伸びのある、力強いボーカルだ。元々はこんなに声量のある奴ではなかった。尤も今はプロを名乗っているのだから、きっとボイストレーニングとかしているのだろう。
壱流は成長していっているのに、これでは置いてゆかれてしまう。そんな妙な焦りすら感じる。
ぎゅうと手のひらをきつく握り締めた。
じっとパソコンの画面を睨んでいたら、部屋の外で物音がした。
まひるのところで寝るんじゃなかったのか。壱流の足音と思しきそれは、俺の部屋へは向かわず、静かに消えた。
「そいや……あいつの部屋ってベッドなかったなあ」
DVDを流したまま、俺は立ち上がる。これまで俺と寝ない日は、ずっとまひるの部屋で寝泊りしていたのだろうか。帰ってきてどうする気なのだろう。俺の ところへも来ずに。
布団でも敷いて寝るのかもしれない。しかしなんとなく気になって、俺は廊下に出た。
しん、としたリビング。
明かりも消えて、人気もない。壱流は自分の部屋に戻ったのか。時計を見る。午前1時12分。3月とは言え夜の静かな空間は冷えていた。
「帰ったのか?」
壱流の部屋のドアをノックして、返事を待つ。しかし返事はない。よもやまたリストカットなんてしてはいないだろうが、鍵のかかっていないドアノブに、なにやらもやもやとした気持ちのまま手をかけた。
「さな……、……壱流?」
やはり照明は消えていた。
壱流の姿はない。
「……どこ行ったんだ?」
ぽつりと洩れた俺の声に、どこかでごそりと物音がした。
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