過負荷

硯羽未

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第24話 わだかまり

24-3

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 いきなり言われてまひるはぎょっとした。
 まさかそんなことしていたなんて知らなかった。壱流が逐一報告するような男ではないのは知っているが、他の男と寝たことがあるなんて思ってもみなかった。

「最後までは無理だった。すげ吐きそうになって、自己嫌悪して、死にたくなった。竜司じゃないと駄目なんだって思ったけど、当の竜司はノンケに戻ってるし、どうしたらいいかわかんなくなった。……気づいたら、手首切ってた」
 淡々と告げた壱流の横顔を見ながら、こんなにかっこいい男なのになあ、可愛いなあ、とまひるはぼんやり思った。
 出会った頃よりずっと、壱流はかっこよくなった。大人の男の色気も出てきた。

 竜司が記憶をなくすたびに生じる心の軋轢。
 壱流はどこか微妙に壊れている。
 頑張りすぎて精神のあちこちに亀裂が入っている。

 けれどその奥底の知れない感情が、彼の歌い方に多大なる影響を与えている。因果だと思う。けれど確実にその葛藤が真田壱流をボーカリストとして高めているのだ。
 それは良いことなのだろうか。
(まさに一流ってとこか)
 完全に壊れない程度に、葛藤してくれて良い。
 そんなことを言ったら壱流はどのような反応を示すだろう。怖くて言えなかった。

「どうしてまひるは俺と一緒にいる? マネージャーの域超えてるだろ、こういうの」
「──え?」
「それとも竜司といたいだけか。あいつとヤリたいか?」
 伏せ目がちの顔を向け呟いた壱流の唇に、まひるは身を起こして口づけた。
 嫉妬してるのか、壱流は。
 竜司を好きかもしれないと思ってるのだ、きっと。
 罪悪感が、恋愛感情に変わりそうになったことは確かにあった。けれど違う。そんなんではない。
「髪、切ってくるよ。明日」
 壱流が誤解するようなこの髪型も、そろそろやめようと思った。
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