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第24話 わだかまり
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いきなり言われてまひるはぎょっとした。
まさかそんなことしていたなんて知らなかった。壱流が逐一報告するような男ではないのは知っているが、他の男と寝たことがあるなんて思ってもみなかった。
「最後までは無理だった。すげ吐きそうになって、自己嫌悪して、死にたくなった。竜司じゃないと駄目なんだって思ったけど、当の竜司はノンケに戻ってるし、どうしたらいいかわかんなくなった。……気づいたら、手首切ってた」
淡々と告げた壱流の横顔を見ながら、こんなにかっこいい男なのになあ、可愛いなあ、とまひるはぼんやり思った。
出会った頃よりずっと、壱流はかっこよくなった。大人の男の色気も出てきた。
竜司が記憶をなくすたびに生じる心の軋轢。
壱流はどこか微妙に壊れている。
頑張りすぎて精神のあちこちに亀裂が入っている。
けれどその奥底の知れない感情が、彼の歌い方に多大なる影響を与えている。因果だと思う。けれど確実にその葛藤が真田壱流をボーカリストとして高めているのだ。
それは良いことなのだろうか。
(まさに一流ってとこか)
完全に壊れない程度に、葛藤してくれて良い。
そんなことを言ったら壱流はどのような反応を示すだろう。怖くて言えなかった。
「どうしてまひるは俺と一緒にいる? マネージャーの域超えてるだろ、こういうの」
「──え?」
「それとも竜司といたいだけか。あいつとヤリたいか?」
伏せ目がちの顔を向け呟いた壱流の唇に、まひるは身を起こして口づけた。
嫉妬してるのか、壱流は。
竜司を好きかもしれないと思ってるのだ、きっと。
罪悪感が、恋愛感情に変わりそうになったことは確かにあった。けれど違う。そんなんではない。
「髪、切ってくるよ。明日」
壱流が誤解するようなこの髪型も、そろそろやめようと思った。
まさかそんなことしていたなんて知らなかった。壱流が逐一報告するような男ではないのは知っているが、他の男と寝たことがあるなんて思ってもみなかった。
「最後までは無理だった。すげ吐きそうになって、自己嫌悪して、死にたくなった。竜司じゃないと駄目なんだって思ったけど、当の竜司はノンケに戻ってるし、どうしたらいいかわかんなくなった。……気づいたら、手首切ってた」
淡々と告げた壱流の横顔を見ながら、こんなにかっこいい男なのになあ、可愛いなあ、とまひるはぼんやり思った。
出会った頃よりずっと、壱流はかっこよくなった。大人の男の色気も出てきた。
竜司が記憶をなくすたびに生じる心の軋轢。
壱流はどこか微妙に壊れている。
頑張りすぎて精神のあちこちに亀裂が入っている。
けれどその奥底の知れない感情が、彼の歌い方に多大なる影響を与えている。因果だと思う。けれど確実にその葛藤が真田壱流をボーカリストとして高めているのだ。
それは良いことなのだろうか。
(まさに一流ってとこか)
完全に壊れない程度に、葛藤してくれて良い。
そんなことを言ったら壱流はどのような反応を示すだろう。怖くて言えなかった。
「どうしてまひるは俺と一緒にいる? マネージャーの域超えてるだろ、こういうの」
「──え?」
「それとも竜司といたいだけか。あいつとヤリたいか?」
伏せ目がちの顔を向け呟いた壱流の唇に、まひるは身を起こして口づけた。
嫉妬してるのか、壱流は。
竜司を好きかもしれないと思ってるのだ、きっと。
罪悪感が、恋愛感情に変わりそうになったことは確かにあった。けれど違う。そんなんではない。
「髪、切ってくるよ。明日」
壱流が誤解するようなこの髪型も、そろそろやめようと思った。
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