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第16話 蜜月
16-2
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(慣れって怖い)
最初は痛くて苦しいだけだったのが、随分と悦くなってきた自分の体の反応に、感嘆を覚える。
壁が薄いから、声を殺すのに必死だ。隣の部屋にはやはり自分達と同じ年頃の男が住んでいる。壱流の妙な声が聞こえたら、まずい。だがもしかしたら、聞こえているかもしれない。
(だって竜司、すごいんだ……)
声なんか出すつもりは毛頭ないのに、押し殺している壱流の姿に燃えるのかなんなのか、やたらに頑張ってくれる。相手にするこちらの身にもなってほしい。
「どうした壱流」
聞こえてるかも、なんて玄関先で恥ずかしくなって口元を押さえた壱流に、部屋で待っていた竜司が声をかけた。
今日も夜8時から、ライブハウスに出る予定になっている。だからバイトは5時で切り上げて、さっさと戻ってきた。
竜司の待つ部屋。1Kの、狭いアパート。お互いが視界に入らないのは風呂かトイレにいる時くらいのもので、傍目から見たらさぞかし窮屈な生活だろう。その狭い部屋の中で、まだコートを脱いでいなかった壱流を竜司がむぎゅうと抱き締めた。
どきん、とする。
「……なんでもない」
「そうか? なんか顔赤いけど」
顔を覗き込まれ、じっと表情を窺う竜司の髪もだいぶ伸びてきた。以前のように赤く染め直し、髪に隠れ傷もあまり目立たない。普通にしていれば、以前の竜司と変わりない。
だけど違う。今の竜司は友達だった竜司ではない。
記憶は、もうずっと戻らないのかもしれない。
(前までいた竜司は、)
……どこに、行ってしまったのだろう。
人間の記憶なんて、こんなにも不確かなものなのか。
それとも竜司の体のどこかで、目覚めることが出来ずただ眠っているだけなのか。
心はどこにあるのだろう。
頭蓋骨に包まれた脳の中か。それとも、もっと違う場所にあるのか。
(手が届かない)
心臓がぎゅっと締め付けられた。
じっとしていた壱流の服の中に、手が入ってきた。以前ならこんなこと行動パターンになかったが、一度関係が変わってしまってからは、普通に壱流の体を触り倒すようになり、それにもだいぶ慣れてきた。部屋の中にいた竜司の手は、温かい。
「壱流、心臓早い」
首筋を甘噛みされ、喉元から顎、唇と順にキスされる。
竜司のキスは、結構優しい。相手の意図に気づいたが、こんなことをしている時間などなかった。
「駄目だよ。今日は忙しい。ほら、メシ食いに行こ」
軽く拒否した言葉に竜司はにやりと笑い、服の中にいた手がジーンズのジッパーに移った。ゆっくりと前を開けて、薄い下着越しに指が触れる。
「りゅ、竜司……」
「ちょっとだけ」
「駄目だって。ライブ終わってからに……やだ、やっ」
体を突き放そうとするのを制し、玄関先で下着の中から壱流を取り出すと、竜司の大きな手が微妙な力加減で動き出した。直接触れた手の感触にびくんと反応し、抗議の声が途切れる。
「勃ってきた」
「……報告、しなくていい。わかってるよ」
「壱流のやらしい顔が見たいんだ」
身を屈めた竜司の顔がそこに近づいて、腰からジーンズを下着ごと引きずり下ろす。
「やめ……竜ちゃん、メシ……っ」
力が抜けて、がたん、と玄関のドアに背を預ける。そういやまだ鍵締めてなかった、と理性が告げて、壱流は後ろ手にドアノブを握り鍵をかけた。
最初は痛くて苦しいだけだったのが、随分と悦くなってきた自分の体の反応に、感嘆を覚える。
壁が薄いから、声を殺すのに必死だ。隣の部屋にはやはり自分達と同じ年頃の男が住んでいる。壱流の妙な声が聞こえたら、まずい。だがもしかしたら、聞こえているかもしれない。
(だって竜司、すごいんだ……)
声なんか出すつもりは毛頭ないのに、押し殺している壱流の姿に燃えるのかなんなのか、やたらに頑張ってくれる。相手にするこちらの身にもなってほしい。
「どうした壱流」
聞こえてるかも、なんて玄関先で恥ずかしくなって口元を押さえた壱流に、部屋で待っていた竜司が声をかけた。
今日も夜8時から、ライブハウスに出る予定になっている。だからバイトは5時で切り上げて、さっさと戻ってきた。
竜司の待つ部屋。1Kの、狭いアパート。お互いが視界に入らないのは風呂かトイレにいる時くらいのもので、傍目から見たらさぞかし窮屈な生活だろう。その狭い部屋の中で、まだコートを脱いでいなかった壱流を竜司がむぎゅうと抱き締めた。
どきん、とする。
「……なんでもない」
「そうか? なんか顔赤いけど」
顔を覗き込まれ、じっと表情を窺う竜司の髪もだいぶ伸びてきた。以前のように赤く染め直し、髪に隠れ傷もあまり目立たない。普通にしていれば、以前の竜司と変わりない。
だけど違う。今の竜司は友達だった竜司ではない。
記憶は、もうずっと戻らないのかもしれない。
(前までいた竜司は、)
……どこに、行ってしまったのだろう。
人間の記憶なんて、こんなにも不確かなものなのか。
それとも竜司の体のどこかで、目覚めることが出来ずただ眠っているだけなのか。
心はどこにあるのだろう。
頭蓋骨に包まれた脳の中か。それとも、もっと違う場所にあるのか。
(手が届かない)
心臓がぎゅっと締め付けられた。
じっとしていた壱流の服の中に、手が入ってきた。以前ならこんなこと行動パターンになかったが、一度関係が変わってしまってからは、普通に壱流の体を触り倒すようになり、それにもだいぶ慣れてきた。部屋の中にいた竜司の手は、温かい。
「壱流、心臓早い」
首筋を甘噛みされ、喉元から顎、唇と順にキスされる。
竜司のキスは、結構優しい。相手の意図に気づいたが、こんなことをしている時間などなかった。
「駄目だよ。今日は忙しい。ほら、メシ食いに行こ」
軽く拒否した言葉に竜司はにやりと笑い、服の中にいた手がジーンズのジッパーに移った。ゆっくりと前を開けて、薄い下着越しに指が触れる。
「りゅ、竜司……」
「ちょっとだけ」
「駄目だって。ライブ終わってからに……やだ、やっ」
体を突き放そうとするのを制し、玄関先で下着の中から壱流を取り出すと、竜司の大きな手が微妙な力加減で動き出した。直接触れた手の感触にびくんと反応し、抗議の声が途切れる。
「勃ってきた」
「……報告、しなくていい。わかってるよ」
「壱流のやらしい顔が見たいんだ」
身を屈めた竜司の顔がそこに近づいて、腰からジーンズを下着ごと引きずり下ろす。
「やめ……竜ちゃん、メシ……っ」
力が抜けて、がたん、と玄関のドアに背を預ける。そういやまだ鍵締めてなかった、と理性が告げて、壱流は後ろ手にドアノブを握り鍵をかけた。
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