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第9話 悪循環
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確かに、そのとおりだ。
どれが真実かなんて俺には見極められない。記憶がないのだから当然だ。日記でもつけてろよ昨日までの俺、と消えた自分を罵ってみて、ふと考える。
……もしかして、部屋の中探したら、そんなんがあったりするか?
「俺記録とか残したりしてねえの?」
「さあ……知らない。俺が知ってんのはスマホのメモ。……あ、そういえば」
壱流は何かを思い出したように、一度停止して俯いた。
「なんだよ?」
「……いや、ちょっと恥ずかしいこと思い出した」
「さっきの3Pも結構恥ずかしいぞ。なんでもいいから、言えよ。俺はなんにもわかんねえんだから」
「あの……、ハメ撮りされたことなら、ある」
……それ、俺?
そんな趣味はない、と思いたいのだが、そもそも壱流を抱いていること自体がおかしい。
ハメ撮りなんて考える俺も、もしかしたらいるのかもしれない。……今の俺は、ドン引きする方だけど。
「竜司が忘れちゃった時に、これでも見せて思い出させてやれって。その動画見せながらさ、また俺のことめちゃくちゃ抱くの。……信じてないだろ?」
「いや……えーと……」
つい先ほど信用されないのが辛いなんて言われたばかりだったので、素直に肯定することが出来なくて困った。かなり困惑した顔をしていると思う。すんなり受け入れることは出来ないが、とりあえず壱流の言うことを噛み砕いてやろうと努力してみる。
「その動画、残ってんのか?」
「えげつかなったから、すぐ消した。恥ずかしいもん」
……残念なんだか、ほっとしたんだか、自分でもよくわからない。
別にそんなもの見たくはない。ただ、本当にそういうことがあったという記録が提示されれば、俺だって認めないわけにはいかない。何かの足がかりになると思ったから。
「昨日……記憶なくす前、」
壱流の声のトーンが、少し落ちた。
昼間の質問の続きだろうか。何か思い出したのかと待っていたら、言葉が続いた。
「俺、竜司を殺そうとしたんだ」
「──ああ?」
「出来なかったけど」
あまりにも予想していなかった科白に、思考が停止する。
いきなり、何を言うのか。
それが事実なのかどうかよりも、本当に意味がわからなくて怒る気も失せる。どうしてそんな展開になったのだ。
……あ、もしかして。
壱流は自分を抱く俺のことを、好きなんかじゃなかったのではないか?
今日話した内容を最初から辿ってみても、俺が壱流を好きだと言ったという話は出てきても、壱流が俺をそういう意味で好きだという言葉は、一度も出てきていない。
考え込んでいる俺をよそに、壱流がまた言葉を発した。
「そしたら竜ちゃん、また記憶喪失になってた。俺のことすごく好きだった竜司じゃなくて、前から知ってる友達の顔になってた。それはそれで、嬉しかったんだ。……だけど」
言葉はそこで途切れた。
なんと答えたら良いのか迷って、ひとまずくるくると包帯を巻いてやった。
一旦立ち上がって勝手にクローゼットを探り、着替えを物色する。今着ている服は、血で汚れてしまっていた。いつまでもそれを身につけてるのは、なんとなくいたたまれない。
ばさりと代わりの服を放って、「とりあえず着替えろ」とぞんざいに言った。壱流はぼんやりと、床に落ちた服を手に取る。
服を掴んだまま、その体を丸めて自分の膝を抱えた壱流の姿は、猫のようにも思えた。
どれが真実かなんて俺には見極められない。記憶がないのだから当然だ。日記でもつけてろよ昨日までの俺、と消えた自分を罵ってみて、ふと考える。
……もしかして、部屋の中探したら、そんなんがあったりするか?
「俺記録とか残したりしてねえの?」
「さあ……知らない。俺が知ってんのはスマホのメモ。……あ、そういえば」
壱流は何かを思い出したように、一度停止して俯いた。
「なんだよ?」
「……いや、ちょっと恥ずかしいこと思い出した」
「さっきの3Pも結構恥ずかしいぞ。なんでもいいから、言えよ。俺はなんにもわかんねえんだから」
「あの……、ハメ撮りされたことなら、ある」
……それ、俺?
そんな趣味はない、と思いたいのだが、そもそも壱流を抱いていること自体がおかしい。
ハメ撮りなんて考える俺も、もしかしたらいるのかもしれない。……今の俺は、ドン引きする方だけど。
「竜司が忘れちゃった時に、これでも見せて思い出させてやれって。その動画見せながらさ、また俺のことめちゃくちゃ抱くの。……信じてないだろ?」
「いや……えーと……」
つい先ほど信用されないのが辛いなんて言われたばかりだったので、素直に肯定することが出来なくて困った。かなり困惑した顔をしていると思う。すんなり受け入れることは出来ないが、とりあえず壱流の言うことを噛み砕いてやろうと努力してみる。
「その動画、残ってんのか?」
「えげつかなったから、すぐ消した。恥ずかしいもん」
……残念なんだか、ほっとしたんだか、自分でもよくわからない。
別にそんなもの見たくはない。ただ、本当にそういうことがあったという記録が提示されれば、俺だって認めないわけにはいかない。何かの足がかりになると思ったから。
「昨日……記憶なくす前、」
壱流の声のトーンが、少し落ちた。
昼間の質問の続きだろうか。何か思い出したのかと待っていたら、言葉が続いた。
「俺、竜司を殺そうとしたんだ」
「──ああ?」
「出来なかったけど」
あまりにも予想していなかった科白に、思考が停止する。
いきなり、何を言うのか。
それが事実なのかどうかよりも、本当に意味がわからなくて怒る気も失せる。どうしてそんな展開になったのだ。
……あ、もしかして。
壱流は自分を抱く俺のことを、好きなんかじゃなかったのではないか?
今日話した内容を最初から辿ってみても、俺が壱流を好きだと言ったという話は出てきても、壱流が俺をそういう意味で好きだという言葉は、一度も出てきていない。
考え込んでいる俺をよそに、壱流がまた言葉を発した。
「そしたら竜ちゃん、また記憶喪失になってた。俺のことすごく好きだった竜司じゃなくて、前から知ってる友達の顔になってた。それはそれで、嬉しかったんだ。……だけど」
言葉はそこで途切れた。
なんと答えたら良いのか迷って、ひとまずくるくると包帯を巻いてやった。
一旦立ち上がって勝手にクローゼットを探り、着替えを物色する。今着ている服は、血で汚れてしまっていた。いつまでもそれを身につけてるのは、なんとなくいたたまれない。
ばさりと代わりの服を放って、「とりあえず着替えろ」とぞんざいに言った。壱流はぼんやりと、床に落ちた服を手に取る。
服を掴んだまま、その体を丸めて自分の膝を抱えた壱流の姿は、猫のようにも思えた。
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