過負荷

硯羽未

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第4話 温度差

4-2

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 俺が好んで作る音楽と、前にいたバンドの音楽性は若干異なる。
 バンドだからいろんな人間の音が絡むし、俺とは個性の違う音を繰り出してくる奴がいた。結構衝突もしたが、そういうのもバンドならではだ。
 それは軋轢ではない。葛藤だ。そうやって音を作り出すのは、悪くない。
 今は真田と俺だけだ。音が変わるのも道理だ。それもまた、悪くはない。

「どうよ」
 アルバムをめくる手が止まっているのに気づいた真田が、俺の顔を覗き込んでいた。
「……成長してんだな」
 褒められた真田は、にっと口元を歪めた。こういう表情をたまにするのは、嫌いじゃない。

 嫌いじゃない……けど。

 今朝のことをふと考えてしまう。
 寝起きの笑顔で俺に絡み付いていた、真田。今夜はどうするつもりなのだろう。また同じベッドで、一緒に寝たりするんだろうか。
 ──何か、求められちゃったり、するわけ?
 男同士って一体どんなふうにするんだ? いや、なんとなく知ってはいるけど、だけど。
 ぐらぐらと激しい眩暈がした。
 良くねえ。
 全く以てよろしくない。嫌な想像をしてしまった。

「真田さー、今はどんな女と付き合ってるんだ? 前は結構色々と、お盛んだったよな」
「……え?」
 サングラスの奥で、真田の目が微妙に細くなったのがわかった。
 今のは俺なりの抵抗だ。俺とおまえはなんでもないのだと、突きつけてやりたかった。
 俺の中の真田壱流像は、別に男が好きとかいう認識はまるでない。それなりに女と付き合ったりしていたし、俺に対して友達や仲間以外の何かの感情をキャッチしたことも、まったくない。
 それとも二人でいる時間の中で、気持ちが変化してしまったとでも言うのか? たとえば真田が俺をそういう意味で好きになったとして、俺はそれを受け入れるだろうか?

 ……今の段階で、それは無理な注文だ。
 まひるの前で、今朝のことを持ち出したりはしないだろう、というのもあった。
 真田はほんの少しの間黙ってから、俺から視線を外して質問の答えとは違うことを言った。
「今夜は3Pといこうか」
 予想していなかった科白に、アルバムを足元に取り落とした。
「まひるは? いいよな」
「えー? あはは。壱流はオイタが好きだよねえ」

 あんたも軽く笑ってんじゃない。
 もしかしてこれまでもそういうことはあったのか!?
 妙な汗が出てしまった。俺の知らない俺は一体何をやっていたんだろうか。
 三人でなんて、したことねえし。いつのまに真田や俺はそんなふしだらな男になったのだろう。……いや、ふしだらって。清らかでもないけど。

「竜ちゃん、まひるは何年か前までグラドルやってたんだよ。今は引退しちゃったけど。ほら、いい胸してんだろ」
 真田が運転しているまひるの胸元に、後部座席から手を伸ばした。運転中だった女はくすぐったそうに「今はやめてー」と笑う。少しだけ軌道がブレた。怖いので運転に集中してくれるとありがたい。
「……冗談だよな? なんで俺の質問から3Pに発展するのかわかんねえんだけど」
 真田は俺から完全に顔を背け、窓の外を見た。
 無視かよ。
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