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第4話 温度差
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俺が好んで作る音楽と、前にいたバンドの音楽性は若干異なる。
バンドだからいろんな人間の音が絡むし、俺とは個性の違う音を繰り出してくる奴がいた。結構衝突もしたが、そういうのもバンドならではだ。
それは軋轢ではない。葛藤だ。そうやって音を作り出すのは、悪くない。
今は真田と俺だけだ。音が変わるのも道理だ。それもまた、悪くはない。
「どうよ」
アルバムをめくる手が止まっているのに気づいた真田が、俺の顔を覗き込んでいた。
「……成長してんだな」
褒められた真田は、にっと口元を歪めた。こういう表情をたまにするのは、嫌いじゃない。
嫌いじゃない……けど。
今朝のことをふと考えてしまう。
寝起きの笑顔で俺に絡み付いていた、真田。今夜はどうするつもりなのだろう。また同じベッドで、一緒に寝たりするんだろうか。
──何か、求められちゃったり、するわけ?
男同士って一体どんなふうにするんだ? いや、なんとなく知ってはいるけど、だけど。
ぐらぐらと激しい眩暈がした。
良くねえ。
全く以てよろしくない。嫌な想像をしてしまった。
「真田さー、今はどんな女と付き合ってるんだ? 前は結構色々と、お盛んだったよな」
「……え?」
サングラスの奥で、真田の目が微妙に細くなったのがわかった。
今のは俺なりの抵抗だ。俺とおまえはなんでもないのだと、突きつけてやりたかった。
俺の中の真田壱流像は、別に男が好きとかいう認識はまるでない。それなりに女と付き合ったりしていたし、俺に対して友達や仲間以外の何かの感情をキャッチしたことも、まったくない。
それとも二人でいる時間の中で、気持ちが変化してしまったとでも言うのか? たとえば真田が俺をそういう意味で好きになったとして、俺はそれを受け入れるだろうか?
……今の段階で、それは無理な注文だ。
まひるの前で、今朝のことを持ち出したりはしないだろう、というのもあった。
真田はほんの少しの間黙ってから、俺から視線を外して質問の答えとは違うことを言った。
「今夜は3Pといこうか」
予想していなかった科白に、アルバムを足元に取り落とした。
「まひるは? いいよな」
「えー? あはは。壱流はオイタが好きだよねえ」
あんたも軽く笑ってんじゃない。
もしかしてこれまでもそういうことはあったのか!?
妙な汗が出てしまった。俺の知らない俺は一体何をやっていたんだろうか。
三人でなんて、したことねえし。いつのまに真田や俺はそんなふしだらな男になったのだろう。……いや、ふしだらって。清らかでもないけど。
「竜ちゃん、まひるは何年か前までグラドルやってたんだよ。今は引退しちゃったけど。ほら、いい胸してんだろ」
真田が運転しているまひるの胸元に、後部座席から手を伸ばした。運転中だった女はくすぐったそうに「今はやめてー」と笑う。少しだけ軌道がブレた。怖いので運転に集中してくれるとありがたい。
「……冗談だよな? なんで俺の質問から3Pに発展するのかわかんねえんだけど」
真田は俺から完全に顔を背け、窓の外を見た。
無視かよ。
バンドだからいろんな人間の音が絡むし、俺とは個性の違う音を繰り出してくる奴がいた。結構衝突もしたが、そういうのもバンドならではだ。
それは軋轢ではない。葛藤だ。そうやって音を作り出すのは、悪くない。
今は真田と俺だけだ。音が変わるのも道理だ。それもまた、悪くはない。
「どうよ」
アルバムをめくる手が止まっているのに気づいた真田が、俺の顔を覗き込んでいた。
「……成長してんだな」
褒められた真田は、にっと口元を歪めた。こういう表情をたまにするのは、嫌いじゃない。
嫌いじゃない……けど。
今朝のことをふと考えてしまう。
寝起きの笑顔で俺に絡み付いていた、真田。今夜はどうするつもりなのだろう。また同じベッドで、一緒に寝たりするんだろうか。
──何か、求められちゃったり、するわけ?
男同士って一体どんなふうにするんだ? いや、なんとなく知ってはいるけど、だけど。
ぐらぐらと激しい眩暈がした。
良くねえ。
全く以てよろしくない。嫌な想像をしてしまった。
「真田さー、今はどんな女と付き合ってるんだ? 前は結構色々と、お盛んだったよな」
「……え?」
サングラスの奥で、真田の目が微妙に細くなったのがわかった。
今のは俺なりの抵抗だ。俺とおまえはなんでもないのだと、突きつけてやりたかった。
俺の中の真田壱流像は、別に男が好きとかいう認識はまるでない。それなりに女と付き合ったりしていたし、俺に対して友達や仲間以外の何かの感情をキャッチしたことも、まったくない。
それとも二人でいる時間の中で、気持ちが変化してしまったとでも言うのか? たとえば真田が俺をそういう意味で好きになったとして、俺はそれを受け入れるだろうか?
……今の段階で、それは無理な注文だ。
まひるの前で、今朝のことを持ち出したりはしないだろう、というのもあった。
真田はほんの少しの間黙ってから、俺から視線を外して質問の答えとは違うことを言った。
「今夜は3Pといこうか」
予想していなかった科白に、アルバムを足元に取り落とした。
「まひるは? いいよな」
「えー? あはは。壱流はオイタが好きだよねえ」
あんたも軽く笑ってんじゃない。
もしかしてこれまでもそういうことはあったのか!?
妙な汗が出てしまった。俺の知らない俺は一体何をやっていたんだろうか。
三人でなんて、したことねえし。いつのまに真田や俺はそんなふしだらな男になったのだろう。……いや、ふしだらって。清らかでもないけど。
「竜ちゃん、まひるは何年か前までグラドルやってたんだよ。今は引退しちゃったけど。ほら、いい胸してんだろ」
真田が運転しているまひるの胸元に、後部座席から手を伸ばした。運転中だった女はくすぐったそうに「今はやめてー」と笑う。少しだけ軌道がブレた。怖いので運転に集中してくれるとありがたい。
「……冗談だよな? なんで俺の質問から3Pに発展するのかわかんねえんだけど」
真田は俺から完全に顔を背け、窓の外を見た。
無視かよ。
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