①天乃屋兄弟のお話

あきすと

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【過去編】誘惑

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(月夜視点)

数年前の星明に対して、俺は勘違いしていた。
『兄貴、加賀さんが来てくれたよ~どうぞ、上がってください。』
玄関先には、俺の幼馴染である加賀が遊びに来ていた。

今、あんまり会いたくない相手だ。
「はぁ?いきなりだな…約束してないのに珍しい。」

爽やかな笑顔に、星明がまとわりつく姿を見せつけられて
俺はやっぱり今日、加賀には会いたくなかったと改めて思う。

『買い出しに出てた星明と、帰り道一緒になったんだ。』
「へー、あっそ。」
あからさまな悪態にも、加賀は全く動じない。
俺に、それだけ慣れているから。

居間に上がる手前で、
『すぐにお暇するから、…月夜。七夕が終わった後に片付けがあるから
手伝ってくれないか?』
俺を見て、軽く頭を下げた。

俺は、椅子の上で立膝をつきながら
「…七夕なんてイベント日に、抜けらんないって。代わりに星明に行ってもら…」
返事をしかけて気付いた。

イヤ駄目だ、この2人を一緒にしてはいけない。
と、思いつつ七夕は星明の誕生日だから店に出る事自体も
どうなんだろう?とさえ思えて来た。

星明は不思議そうに俺を見た後に、加賀の方を向くと
『うん、じゃぁ俺が行きます。』
『駄目だ。夜の遅い時間だから。高校生は出歩く時間じゃない。』
「…分かった、俺が行く。途中で、何とか抜けれると思うし。」
加賀がマトモな奴で助かった。

『良かった、それ程時間は掛からないと思うけど。月夜、よろしく頼むな。』
相変わらず、嫌味の無い笑顔で我が家の風通しを良くしてから
加賀は帰って行った。

「はぁー-、めんどくさ…」
本心は、コレ。
仕方ないと思う、星明を俺の代わりになどさせるつもりは無いから。
星明は加賀を見送りに行った。
多分、何かしらの話もしてるんだろうけど。
『兄貴、機嫌悪い?』
「ぁ、もういいのか。加賀と」
『うん。加賀さんこの後、予定あるみたいだし。』
「星明って、加賀の事好きだよなぁ。」

何気なく放った言葉に、星明は顔を真っ赤にして俺を見つめる。
冷蔵庫にしまいかけの、野菜をほったらかしにして俺の前に来て
『へ、変な事…言わないでよ!加賀さん…男でしょ。同性なのに。』

ん?いや、相変わらずの可愛い反応なのに。
何だろう、この妙な違和感は。
怒ってるとかじゃない。もっと他に何かある。
「どうした?そんな真に受けるような事?」
俺は、あくまで冷静を保ちながら星明の両手を掴んで
ジッと表情を見る。

『だって、兄貴の親友でしょ?幼馴染で…』
「お前にとっても、もう一人の兄って言ってもいいくらいなのに。」
『俺は、兄貴は一人で充分、だよ。』

耳まで真っ赤になりながら、言う事?
「何?もしかして誰か好きな人でもいる、とか?」
『違う…!』
「星明、ちゃんと俺を見て?」

俺の少し変わった能力として、未来視と言うものがある。
対象者の少し先の未来が、断片的に見えるというものだ。
ただ、この能力を星明にだけは使わないと決めているから、
俺は、たとえぶつかり合ってでも星明と分かり合いたいと思う。

『兄貴が、変なこと言うから…無理。』
「もう言わないから、な…?」
おずおずと顔を上げる星明は、チラッと俺と視線を合わせてから
すぐに逸らした。

可愛すぎる。これで、高校生?もっと生意気でも全然いいのに。
むしろ純粋過ぎて、心配になって来た。
『ばか…、どうして兄貴は俺を困らせるの?』
そんなのは、勿論。
「可愛いから、星明があんまりにもピュアすぎて…目がくらみそう。」
『……!』
揶揄われてると思ったらしく、俺は星明に頭突きをくらった。

結構、効いた…。俺の手から逃れて、星明は台所に戻って行った。
痛い。額をさすっていると星明も痛かったらしく
冷蔵庫に食材をしまいながら、額を撫でていた。
そして、鼻をくすんと鳴らしていた。

素直には、…なり切れないよな?年頃なのに。
俺も、あの時分はかなり捻くれてもいたし。

でも、星明の誘惑はその後も数年続いて。
俺も、それなりに関係性を見直すべきかと真剣に悩んだけど。
なかば、諦めていた。

相変わらず、朝になれば俺を起こしに来てくれるし。
あまりにも起きないからって、ベッドに上がって俺の上に乗っかって来た時は
さすがに焦ったというか。

『起きた~?』
と言いながら跨る姿に、起き抜けの頭はクラクラしていた。
星明、お前可愛ければ何しても許されると思ってないか?
まぁ、許すんだけど俺は。
エプロンから脚が見えて、俺は本当にあと一歩のところを
踏み止まるのに必死だった。
「分かったから、起きるから…お前、これ以上は残酷だとは思わないのかよ?同じ男として。」
星明の両腕をゆるく引っ張ると、ぱたりと前に倒れ込んで
胸元の金色のネックレスがチラッと見えた。

えっろ!!
構図的には、俺が星明に襲われてるっぽいのに。
『おはよう、兄貴…』
体勢を変えながら、星明が俺の上でもぞもぞ動く。
神経が集中されない様にしつつ、目を逸らしたかった。
静かに床に降りて
『…はぁ、ビックリしたぁ。体柔らかくて良かった。』
「あ、悪い。急に引っ張ったりしたから。」
『大丈夫、さ…そろそろ下に来てね?今日はお店お休みなんでしょ。』

いつもなら(星明が休みの時)もう少し後に起こしに来るのに
今日は、数時間早い。俺も、寝過ぎではあるから何とも言えないけど。

「もしかして、出掛けたいのか?俺と」
部屋を出ようとした星明が、振り向いて
『どうして分かったの?』
「何となく。」
『正解…。ぇー、そっか。でも、改めて言うの気恥ずかしかったから、良かった。』
「付き合うよ。俺で良かったら。…デートじゃん。」
『ちょ…、そう言うと思った。ん、でも…たまには兄貴と出かけたいなぁって。』

俺は、ベッドから出て脱ぎっぱなしの服を羽織った。
星明は俺が、ちゃんと起きた事を見届けると階下に降りて行った。


星明は、俺が着替えとかしてる所に遭遇するとすぐにその場から居なくなる。
気を遣わせてしまってるのか?とも考えたけど。
きっと、恥ずかしいとか思ってるんだろうな。

あんな大胆な事をしておきながら、俺が少しでも近づこうとしたら
過剰な反応を示しながら、逃げようとして面白いし可愛いし。

実の弟を相手に、俺は何をしてんだろうかと思いながらも
やっぱりまだまだ、庇護したくてしょうがない。
はー、デートかぁ、めっちゃ楽しみ。
何着ていこう?同伴とかアフターなんかより俄然楽しみで、久しぶりに
ドキドキしてるぞ俺。
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