【クソ彼氏から離れらんなくて⑱】窓の外は雨景色

あきすと

文字の大きさ
上 下
5 / 7

⑤待ってた

しおりを挟む
「お帰り、なんか…顔見るの久し振りな気がする。」

お盆休みの期間中、俺と朔は離れて過ごしていた。
と言っても、俺は実家に帰る事も無く。
きっと両親も忙しくしているだろうとは予測していたから
いつも通り、自分の部屋で暮らしていた。

ちょっとやっておきたかった掃除とか、家具の配置換えとか。
要らないものを断捨離したりして、前よりかは部屋の中が
スッキリしている。

エアコンの調子は良いし、ベランダで育てている緑を世話したりして
きっと心に空いてしまった隙間を埋めたかったんだと思う。

会社から帰って来た時に、玄関のドアを開けて顔に冷気を感じると
鈍かった心の動きが一瞬だけ、戻った気がした。

やばい、顔がにやける。
家に戻って来たのがコッチの家(隣部屋同士だから)
だっていうのが嬉しい。

朔は、法事とかお盆の手伝いにかり出されていたから
1週間は会えてなかった。

俺は、母方と父方の墓参りには1人で少し早めに行っておいた。

リビングのドアを開けた。
「…さむ!」
『俺も今、帰って来たんだよ。』
「ちょっと~、何度にしてるの?設定温度…」
すぐに朔が持っているエアコンのリモコンを取りに行く。

液晶画面には26度と表示されていた。
『このくらい普通だって。』
「…シャワー浴びてきたら?そんなに暑いなら。少しはスッキリするでしょ。」
『~…お前なぁ、』

あれ?なんか朔…
じーっと凝視していると
「あ、日焼けしてる。珍しいね。」
『あの炎天下の中、日陰なんて無いも等しい所で墓参りの読経させられてみろ。』
「そうだったね、忙しかったでしょ?お疲れ様。」

朔はエアコンの真下に居たけれど、俺の方を見て
『央未って、やっぱりまだ…あどけないよなぁ。』
と、つぶやかれた。

「ぇ?」
『何でもない。言われた通りシャワー浴びて来る。』

朔に髪を手のひらでワシャワシャされて、背中を見送る。

普段通りの朔ではあると思う。

無神経に見えて繊細で案外優しい。

いつも俺の心を不思議と波立たせてくる存在。

お互いが選んでお互いと一緒に暮らすようにまた、なって。
朔が帰国してから、もうまる3年が経過していた。

当たり前みたいに寝起きを共にして、同じ食事を摂りながら。
でもいつまで一緒なのかは、分からない。
またいつか、急に朔が居なくなる様な事があれば
もう本当に【終わって】しまうんだろうな、とも思う。

頭の中の思考がグルグルしだして、胸が詰まったみたいにしんどくなる。
何にしても、終わりはやって来る。
当たり前の事。

少なくとも、朔がこの部屋に帰って来る限りは余計な事を考えない様にしたい。

朔の事だから身軽で帰って来るわけが無い。
思わず冷蔵庫をと冷凍室を開けて、俺はびっくりした。
「やっぱり…」

朔の家に届いたり、持参される手土産やお中元のおすそ分けの量が
なかなか多いらしくて。
数年前から、朔が夏と冬には沢山のギフト品を持たされて帰って来る。

有難い話ではある。

さっき、朔が俺の横を通って行った時に
何となく寂しさの様なものを感じた気がした。

暑いと確かに距離感は心なしか遠くなる気がする。
10年前よりも今の方が現実に辟易としたりしてて。
今や今日の事よりも明日の仕事の事を先に考えたりしてしまう。

ごく当たり前の話なのに、まるで昔みたいな熱が
少しずつ失われていってるんじゃないかと
自分を勘ぐってしまう。

1週間、朔が居ない中での生活は
本当に静かで。
でも、時間がただ消費されてく感覚とはまた違う
充実感も伴っていた。

食材の確認をしてから、夕飯の下準備をする。
無心でしていると、いつの間にか隣には朔が立ってくれていて
一緒に進めていけるのが、単純に好きな時間だ。

着替えも済んで、落ち着いた朔は俺と交代する様に
お風呂場へと促してくれた。

「じゃ、後は任せていい?」
『ん、大丈夫。』
「朔は、火の扱い上手いよね。だから、安心して任せられるんだよな。」
『まぁ、昔は家の手伝いもよくしてたからな。』

そうだ、朔のお母さんは朔が高校生の時に亡くなっている。
朔は決して甘やかされて育ったのではなくて
どちらかと言えば、人並み以上に苦労は負っていた気がする。

「…今じゃ立派に主夫も出来るし」
『半分は趣味みたいなもんだけど。』
「なぁ、朔…?」
キッチンに立つ姿は、見慣れているのに心がくすぐったい。

『なに?』
「や、何でもない。後にする。」
『そっか、じゃ…俺もそうする。』

なにを?と聞きたかったけれど。これ以上は
しつこいかな?と諦めて。
寝室で着替えの準備をしてから、シャワーを浴びた。

体を洗っていて、ふと妙な気持になった。

まだ、帰って来てからの朔に全然触れてない。

「あぁ~もう…」
ずっと、感じてないフリしてたのに。
ちゃんとしっかり、心内では朔の事を求めているのが
よく分かった。

顔を見ると、目が合うと心が掴まれる。
毎日顔を合わせていてもずっと想いが変わらないどころか
深まるばかりで。

部屋着に着替えてから、リビングに戻るとソファとテーブルの間で
朔がうつらうつらしている。

「朔、大丈夫?」
なんだか気が抜けてしまっているのか。
この朔も子供みたいで可愛げを感じる。

ちょうど、良いかもしれない。
俺は朔の傍に寄り、ソファに座る。
『ダメ、めっちゃ眠い…』
「珍しいな?もしかして、帰って来た~って感じてる?」
『……それは、ある。あかん、まじでめっちゃ眠い。膝貸して央未。』

無遠慮な朔の手が伸びて来て、俺の太腿から腰から触られる。
「寝る?少しだけでも。じゃ、ご飯後に食べようか。」
『ちょっと、横になるだけ…で、良いから』

ふわぁっと今にも倒れるんじゃないかと思う程に、朔は俺の太腿に
当たり前みたいに頭を預ける。

いやいや、可愛いけどさ。
急すぎて心配になるよ。

綺麗な寝顔と、重みが愛おしい。
本当は髪も撫でたいし、頬にも触れたいけど。

せっかく気持ちよさそうにしているから
邪魔したくなかった。


おそらくは、30分程の間。
俺も、朔の気持ちよさそうな寝顔につられて
寝てしまっていた。

ガクッと、首が下がって目が覚めた。
『…央未、寝てる時口開いてた。』
「……見なくていいから。」
『人の寝顔は見てたクセに?』

朔の少しだけ意地悪そうな笑みさえ、好きなんだよなぁ。

「だって、あんまりにも眠たそうだったから。どうしたのかって思って。」
『あ、さっきの保温切れてるかも。入れ直さないと。』

ゆっくりと朔が体を起こして、俺に体圧を掛けて来る。
「退かないの?」
『なんか、こう…無いの?俺に央未からは』

お互い寝起きの、ぽやぽやした頭で朔から言われた言葉を考える。
「え、なになに?」
『ぎゅ~とか、さ。』
「あぁ、なんだ…そっちね。」

朔は少し不満なのか、眉根を寄せつつ俺の胸へと抱きついてきた。
『俺が、一番欲しいもの忘れンなよ。』
「フフッ、ごめんて…。あ、……ッ…」

キスをされて、やっと朔の持っているであろう熱を思い出せた気がした。
「くすぐったい、朔…」
唇の感触さえも忘れていたかもしれない。

腰にまわされる手のひらの熱さも、1週間の内にやっぱり
薄れてしまっていたんだ。

呼気を求めていた筈なのに、朔に侵入されて苦しくて
なんとなく嬉しいだなんて。
ちょっとおかしな話だろうに。

中から朔で満たされていく。
抱き締めあって、脚や指を絡ませて。

暑いのは、嫌だって思ってたのに。
朔の熱なら全然嫌じゃない現金さに、自分で冷笑したくなる。


















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺達の関係

すずかけあおい
BL
自分本位な攻め×攻めとの関係に悩む受けです。 〔攻め〕紘一(こういち) 〔受け〕郁也(いくや)

【Rain】-溺愛の攻め×ツンツン&素直じゃない受け-

悠里
BL
雨の日の静かな幸せ♡がRainのテーマです。ほっこりしたい時にぜひ♡ 本編は完結済み。 この2人のなれそめを書いた番外編を、不定期で続けています(^^) こちらは、ツンツンした素直じゃない、人間不信な類に、どうやって浩人が近づいていったか。出逢い編です♡ 書き始めたら楽しくなってしまい、本編より長くなりそうです(^-^; こんな高校時代を過ぎたら、Rainみたいになるのね♡と、楽しんで頂けたら。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

処理中です...