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新しい住人。

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羊は、ある時新たな住人を迎えたと言った。
また何を言い出すのかと思えば、我が家にいつの間にか
住みついていた鼠を手のひらに乗せて、笑った。

この鼠が、羊にとっては新たな住人だと言う。
滑稽な事だ。
意志の疎通が出来るとでも言うのか。
山羊はとにかく、羊と鼠を観察する事にした。

何か、生まれれば興味を引くであろうし
何もなくても、予想通りと割り切れる。

羊は、自らの毛で編んだセーターにポケットを
編んでつけた。その中に鼠をかこっている。
馬鹿げた事をしていると、山羊も最初はせせら笑っていたが
羊の献身を垣間見せられてしまうと
もう、羊と鼠の関係性が成立してしまっている事に
気が付いてしまった。

これに山羊が気が付いてしまうと
後は、ひたすらに面白くない日々の始まりだった。
羊が、鼠を可愛がることが心のどこかで
腹立たしい。

時には、愛おしささえも感じていた関係性だったのに
山羊は、ある衝動に駆られそうになり
羊と鼠の姿を見なくても済む様に、自室にこもるようになっていく。

おかしな話で、姿が見えなくとも山羊の頭の中は
羊と鼠の事でいっぱいになっていた。
山羊は、自分の望むもの以外は要らなかった。

そもそも、家の中に入って来た
たかが害獣一匹に何を入れ込む事があるのか。
無性に心の奥がカッと熱くなって、山羊は
立ち上がる。

羊には、山羊が居れさえすればもう
他者は必要ないと思っていた。
これは、山羊の思い違いなのだろうか?

羊の楽しそうな声が聞こえる。
きっと鼠に芸でもさせているのだろう。
立場を分かっているのだろうかと
心の底が沸きそうな山羊。

山羊にとっての、羊は
羊にとっての今の鼠みたいなものだと
知らしめてやりたくなったのだと、山羊はやっと自覚した。
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みんなの感想(1件)

花雨
2021.08.11 花雨

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