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その首を、緩やかに…

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山羊は、羊の夢を
聞いて ほくそ笑む。

叶うのかも 分からない
夢を、あまりにも
純粋な眼をして
話す羊に、どこかで

焦りを感じ始める。

いいさ。
好きなだけ、思い描けばいい。
でも、叶うなんて思わない。

山羊は、いつだって
羊の優位に立っていたい。

こればかりは、生来の
さがなのだ。

抗えないから、苦しくて
羊が憎らしくも思えて
悔しくて…。

みっともないだけの
感情の渦に
山羊はいつだって
無意識に、羊を巻き込んでしまう。

お気に入りの、ボロボロの
ぬいぐるみは
残念ながら、羊にしか
勤まらないのだ。

何の因果だろうかと、
嘆きもしないで
今日も、羊は
考える必要のない
平和の中を生きている。

あぁ、これでいい。

山羊の精神は、
いつも羊のせいで乱れて
羊のおかげで
保たれているのだ。

狂った、関係性には
終わりもない。

始まったのだって、
いつだったのかも
もう、2人は覚えてもいない。

やめ時を、考えた事もあった。

羊が、気づかないのであれば
現状維持がいいのだろう。

羊の何かを愛して、
どこかを、恨んで
救われながら、精神的に
殺されそうになりながら
同じようで、全く違う
時間を、

きっと、違いが逆の方向で
生きている。

時折重なる、時計の針のような
不可避なる存在。

山羊は、羊の見た目にも
性格にも、仕事にも
プライベートにも
全てが無関心を装って

実際は、気が気じゃないほど
気にかけている事。

羊が、一体どんな風に
自分を思っているのかも
怖くて聞けないただの
臆病者である事だけは、
バレて欲しくない。

依存しているのは、
山羊の方だなんて。

笑えもしないのだ。

今まで保ってきたと思っている
自尊心だけは、死守したい。

羊は、黙って山羊のそばにいるだけだ。
なぜ、なのかも知らない。
聞けもしない。

きっと、何でもない答えを
返されて、山羊はまた
意味もなく考えてしまうだけ。

羊は、同じ家に暮らす
同居人としては
申し分ない相手だ。

何しろ、文句の一つも言わない。
気を使えるのだ。

対等に見えて、
こころの支配構造は
とても複雑だ。

見えない首輪と
足枷に、自由を絡め取られて
暮らす日々。

山羊の思惑は、今日も
羊には関係のない世界だ。

羊は、ただ嬉しかった。

山羊の様に自分の事を
ここまで深く想ってくれる
相手は、人生の中で
いなかったからである。

真綿に包まれる様な
隙のない、温かくて
柔らかな愛情だと
羊は、感じていた。

山羊には、感謝さえしている。

孤独に怯えながら、
生きてきた自分を
ここまで、支えてくれるのは
きっと、世界中どこを探しても
山羊以外には、見つからないだろう。

相変わらず、いつもの
難しい顔をして
山羊は、羊の首元に
マフラーを巻いてくれるのだ。
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