山羊と羊のセカイ

あきすと

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灰色の日常。

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山羊と羊のセカイ。

山羊は、呆れていた。
羊に渡そうとしていた
手紙を あろうことか
羊が、
山羊の家に、遊びに来た際に
食べてしまったからだ。

言葉も出なかった。

したためた思いは、
羊の胃へと
落ちていって
溶けたのだろう。

山羊は、怒れもしなかった。

ただ、愚かな羊の行いに
閉口するだけ。

羊は、悪びれもせずに
笑っていた。

目の奥までもが、
ちゃんと
確かに
笑っていた。

山羊は、自分の寛大さを
呪いたくなった。
これで、一体何回目だろう?

問い詰めることにさえも
無為さを感じていた所に

羊は、山羊のところへ
やって来て
言った。

手紙なんて、書く必要もない。
ならば直接言えばいいのに。

羊は、あっけらかんと
言いたい事を言う。

山羊は、冷静の血液が
身体中を巡っている事に
心底感謝した。

深呼吸の後、
山羊は眼を伏せて
頷いた。

君にはやっぱり
敵わない。






山羊は、羊の性格を
憐れんでいた。

どう、考えても
損な性格だと
笑う事さえあった。

と、同時にほんの少しだけ
憧れる部分もあった。

何がいいのかと言えば、
時に、素直さ
直情的で
回りくどさがないところ。

山羊は、気がついていた。

きっと、鏡を覗けば
山羊の鏡の向こうには
羊が映ることだろう。

似て非なるものの筈が
でも、本質では
重なる部分がいくつもある。

真逆だと思っていた
羊との類似性に
山羊は、ふとした瞬間に
心が揺れていた。

なんて事ない話なのに
山羊は、いつも
羊よりわずか斜め上から
見下ろしている気分でいたのに

山羊の、生まれ持った性質が
拒むのか、面白くなかった。

羊は、少なくとも
こんな思考には
至らないのだろうと
考える。

羊は、山羊のように
小狡くはないのだから、と
自嘲気味して
山羊は、なぜか肩を落とした。

羊は 向う見ずだ、と
つぶやいた。
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