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目覚めの香り
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まさか、と思いながら渡されたメッセージカードを読んで
ショックを受けていた。
メッセージの差出人は、どうやらあの日の仮面の紳士らしい。
美しい筆跡を視線で追うだけで、なぜかうっとりしてしまう。
メッセージに書かれていた言葉に、静かに震えながら
視界が涙でにじんでいくのを感じた。
【私の事は、もう忘れて欲しい。きみは、とても美しい香りがして
遠い過去の記憶を呼び覚まさせてくれた。私には、想い人がいて
その想いをあきらめられずにいる。】
と言った事が書かれていた。
想いの内を明かす前から、断られた気分でとても
いたたまれない。
子供の時以来だった、頬を膨らませたのは。
なにか起きる事なんて、特には期待もしていなかった。
でも、心の奥がちりちり痛んで辛い。
やっぱりあの店で働いていた事は、あまり心証が良くなかったのだろうか?
いや、そもそも相手は同性なんだった。
うっかり忘れてしまいそうになる。
店主には、もう一度会わなければ。
もうしばらくは、あの古書店に顔を出してみようと思う。
それから数日、あまり勉強にも身が入らなくなっていた。
恋患いが終わって、今はただ失恋の痛みだけが心を哀しく
縛りつける。
店主の一件が片付いたら、もう旅立つ準備をしようと思う。
両親も理解を示してくれているから。
もう、今のこの場所には未練もあまり残ってはいなかった。
3、4日経過してもう一度いつもの古書店に
店主は現れた。
『なんつー顔してるんだ?……まさか、フられたのか?』
いきなり図星で言われてしまうと、大きくうなずいて
思わず店主に、泣きついた。
「……私じゃ、ダメなんです。それに、想い人がいらっしゃると書かれていました。」
『フラウム、顔も明かしてはくれない相手に、どれだけ入れ込んでも……見込みはあんまり無いぜ?』
店主は、私を抱き留めて髪を撫でてくれる。
とても武骨な店主の手のひらだけど、その手つきはとても優しくて
心が安らぐ気がした。
「店主、それでお返事は来ましたか?」
『そうだった。お前、あの手紙に何をしたんだ?あの手紙を届けてもらった、次の日に
呼び出されてな。手紙のことからお前の事まで。色々とまぁ聞かれてな。』
店主から自然と距離をはかって、首を傾げながら
話を聞いていた。
何故、こちらの事を?
「とんでもない、何にもしておりません。何か、粗相でもしましたか?私。」
『なんだ、匂いがどうとか言ってたな。』
匂い、となると考えられるのは
「もしかしたら、私が寝室で使っている香水の匂いが…移ってしまったのかも。」
『おそらく、その匂いが偶然にもその方が探している香りと同じらしい。』
「偶然にしては、あまりにも…」
店主は、じろじろと無遠慮な視線で私を見てから
『何とか、なるかもしれない。』
少し遠目で見たりしつつ。
「一応、言っておきますけど男ですからね。私。」
『当たり前だ、だます訳にもいかないからな。もう、先方にも伝えてある事だ。』
ほんの一瞬だけ、自分の性別を女性であれば…と思いかけて
すぐにやめた。
「私は、どうしたらいいんですか?」
『……お前の生家の話をしたら、どうやら知ってるらしくて。ついには、お前と
会って話がしてみたいって事らしい。』
「待って、でも一体誰なんですか?その人」
店主は、にやっと笑って
『俺はもう、お役御免だからな。家に帰ってみれば意味が分かるさ。』
私を置いて、一足先に帰ってしまった。
相変わらず、読めない人だと思う。
肩をすくめて、来た道を引き返す。でも、店主は生家の事も知っていて
根回しもされていると考える。
両親の事を知っている相手となると、やはり上流階級である事には
間違いないだろうし。
家の門の前に、見知らぬ人物が立っている。
まさか、本当に家には手紙の宛先人が来ているのだろうかと
胸が騒ぎ始めた。
私は、見知らぬ護衛の青年に事情を説明して
家の中に通して貰った。
階下の踊り場で、誰かが私を見ている。
不思議に思いながら、挨拶をすると
だんだんと縮まる距離。
『その香りは……』
ショックを受けていた。
メッセージの差出人は、どうやらあの日の仮面の紳士らしい。
美しい筆跡を視線で追うだけで、なぜかうっとりしてしまう。
メッセージに書かれていた言葉に、静かに震えながら
視界が涙でにじんでいくのを感じた。
【私の事は、もう忘れて欲しい。きみは、とても美しい香りがして
遠い過去の記憶を呼び覚まさせてくれた。私には、想い人がいて
その想いをあきらめられずにいる。】
と言った事が書かれていた。
想いの内を明かす前から、断られた気分でとても
いたたまれない。
子供の時以来だった、頬を膨らませたのは。
なにか起きる事なんて、特には期待もしていなかった。
でも、心の奥がちりちり痛んで辛い。
やっぱりあの店で働いていた事は、あまり心証が良くなかったのだろうか?
いや、そもそも相手は同性なんだった。
うっかり忘れてしまいそうになる。
店主には、もう一度会わなければ。
もうしばらくは、あの古書店に顔を出してみようと思う。
それから数日、あまり勉強にも身が入らなくなっていた。
恋患いが終わって、今はただ失恋の痛みだけが心を哀しく
縛りつける。
店主の一件が片付いたら、もう旅立つ準備をしようと思う。
両親も理解を示してくれているから。
もう、今のこの場所には未練もあまり残ってはいなかった。
3、4日経過してもう一度いつもの古書店に
店主は現れた。
『なんつー顔してるんだ?……まさか、フられたのか?』
いきなり図星で言われてしまうと、大きくうなずいて
思わず店主に、泣きついた。
「……私じゃ、ダメなんです。それに、想い人がいらっしゃると書かれていました。」
『フラウム、顔も明かしてはくれない相手に、どれだけ入れ込んでも……見込みはあんまり無いぜ?』
店主は、私を抱き留めて髪を撫でてくれる。
とても武骨な店主の手のひらだけど、その手つきはとても優しくて
心が安らぐ気がした。
「店主、それでお返事は来ましたか?」
『そうだった。お前、あの手紙に何をしたんだ?あの手紙を届けてもらった、次の日に
呼び出されてな。手紙のことからお前の事まで。色々とまぁ聞かれてな。』
店主から自然と距離をはかって、首を傾げながら
話を聞いていた。
何故、こちらの事を?
「とんでもない、何にもしておりません。何か、粗相でもしましたか?私。」
『なんだ、匂いがどうとか言ってたな。』
匂い、となると考えられるのは
「もしかしたら、私が寝室で使っている香水の匂いが…移ってしまったのかも。」
『おそらく、その匂いが偶然にもその方が探している香りと同じらしい。』
「偶然にしては、あまりにも…」
店主は、じろじろと無遠慮な視線で私を見てから
『何とか、なるかもしれない。』
少し遠目で見たりしつつ。
「一応、言っておきますけど男ですからね。私。」
『当たり前だ、だます訳にもいかないからな。もう、先方にも伝えてある事だ。』
ほんの一瞬だけ、自分の性別を女性であれば…と思いかけて
すぐにやめた。
「私は、どうしたらいいんですか?」
『……お前の生家の話をしたら、どうやら知ってるらしくて。ついには、お前と
会って話がしてみたいって事らしい。』
「待って、でも一体誰なんですか?その人」
店主は、にやっと笑って
『俺はもう、お役御免だからな。家に帰ってみれば意味が分かるさ。』
私を置いて、一足先に帰ってしまった。
相変わらず、読めない人だと思う。
肩をすくめて、来た道を引き返す。でも、店主は生家の事も知っていて
根回しもされていると考える。
両親の事を知っている相手となると、やはり上流階級である事には
間違いないだろうし。
家の門の前に、見知らぬ人物が立っている。
まさか、本当に家には手紙の宛先人が来ているのだろうかと
胸が騒ぎ始めた。
私は、見知らぬ護衛の青年に事情を説明して
家の中に通して貰った。
階下の踊り場で、誰かが私を見ている。
不思議に思いながら、挨拶をすると
だんだんと縮まる距離。
『その香りは……』
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