花開く記憶~金色の獅子の煩悶~

あきすと

文字の大きさ
上 下
2 / 5

獅子の憂鬱

しおりを挟む

代々受け継がれてきた名が、こんなにも重いなどとは考えてもみなかった。
国を護る存在として、先代から王位を継承してから早いもので10年の
歳月が流れようとは。

王になってからと言うもの、とにかく花嫁候補の話や世継ぎの事まで
周りに口うるさく言われている。

とてもじゃないが、簡単には私にも簡単には折れる訳にもいかない。
10数年前に出会った、小さなお客人。
両親に連れられて、王宮の庭園で開かれたお茶会に参加していたその子は
年端もいかないだろうに、挨拶を交わす際に抱き着いてきたのだった。

ふわりと広がる、甘く儚い香りに思わず胸が高鳴ったのをよく覚えてる。
一瞬、時間がとてもゆっくりに感じられた。
金色の瞳は、少しだけにじみながらも
私をしっかりと見つめていた。

両親に引っぺがされながら、私は少女に心を留めながら
ずっと気がかり…いや、心を持って行かれた気がしてならなかった。

あの少女が、もし大人になっていたならもう年頃だろう。
まさか、花嫁として探して欲しいなどと言えるはずも無く。

はっきり言って、再会できる見込みがほとんど無いに等しい。
少し前に、調べ物をするついでに当時の来賓名簿を見つけ出せたから
あの少女の両親を探す事にしたのだった。

来賓の中でも、若い夫婦であり目立っていたので
名簿を目で追っていれば、すぐには見つかった。

驚いた、国内の来賓では無く一家は隣の国から招待されていたのだった。
「珍しいな…、舶来品、交易商か。」
住所までの記載がありはしたが、はて…どう連絡したものか。」

こればかりは、少し根回しをして事に取り掛からなければいけない。
まずは、密偵を使って一家の周辺などを下調べも欠かせないだろう。

私がもっと、自由に動ければいいのだろうが。
ただ、幸いにも隣の国には数人の友人がおり
今でも、手紙を交わす間でもありよくコチラの国にも遊びに来てくれる。

私は、寝室に向かうと鏡台に飾られた1つの香水瓶を見つめて
手に取る。
やっと、あの時心を動かされた香水がどれだったのか判明した。
いや、100%合致したとは言えない。

何故なら、香水の香りはつけている本人の香りが混ざり合ってからの
芳香となるからだ。

それを差し引いたとしても、限りなく近いと思ったのがこの薔薇の香りの
香水だった。
長らく生産されていなかったものが、復刻版として少量ではあるものの
販売されていたのだった。

その香水は、とある夫妻に紹介してもらったのだった。
とても親しみやすい親切な夫妻で。
「そういえば、隣の国から来ていると言っていた。」

夫妻がこの一家を知っているのかも分からないが、次の機会があれば
聞いてみよう。


『いい加減、その初恋の…少女?の素性を調べたらどうなんだ。』
朝食が終わった私に、相変わらずの無遠慮な言葉を投げかけて来るのは
幼馴染の従者だった。

「もう、大人になってる年齢だ。…人聞きが悪い。」
改めて、第三者の視点で表現されると自分の趣味趣向を咎められている気分だ。
『でも、当時は子供だったのに今でも、心はその子にしか動かないって事は…』

朝議の始まる前から、厄介な話を始めたものだと
ため息が出そうだ。

「そもそも、その子の匂いに…惹かれたという方が正しい。」
私が、真面目に答えると従者は笑いだす。
『そっちの方が、余計に危ないだろ…っ、』
思い切り笑われてしまうと、何も言い返せずに。
「まぁ、でも少しだけ分かりそうなんだ。だから、悲観はしてない。」

ひとしきり笑った従者は、顔を上げて
『じゃぁ、その子は大アルカナでいう所の8だな。』
突然、何を言い出すのかと思えば。

「タロットカードか。」
『金色の獅子を手名付けられるお姫様は、一体どこにいるんだろうなぁ?』
「面白い解釈をするな?私は、思ったよりも近くに居るものだと考えているよ。」
にこりと笑い、私は静かに従者に向けてハンドサインを送る。

言わなくても通じるものがあると言う事は、とても便利だ。
さて、私もやっと重い腰を上げて動き出す事にした。

上手く動かなければいけない。あまり時間は取れない。
私の正面には光が多く注がれる分、出来てしまう影も大きい。
自身が影に溶け込めば、思ったよりも簡単に世の中を動かせることも
知ってしまっている。

光の届かない世界、闇に入り込むことにも慣れて来た。
例えば、違法な店を敢えて取り締まらずに泳がせておいて
その代わりに、あらゆる情報が入ってくるように
特権階級の秘密や、趣向を掌握したりと。
何も、今すぐにどうこうしようと言うものではない。

ただ、必要な時には…容赦なく行使させてもらうかもしれない。

たったこれだけの事だ。
お互いの利害関係が一致する様に、勿論こちらも
鬼ではあるまい。
交渉の余地があれば、になるが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

金木犀の馨る頃

白湯すい
BL
町外れにある小さな珈琲店【金木犀珈琲店】にはじめてのおつかいに行った主人公・花村夕陽の長い長い初恋のお話。長い髪とやわらかな笑顔が美しい・沢木千蔭は、夕陽のまっすぐな恋心と成長にしだいに絆されていく。一途少年×おっとりお兄さんなほのぼの歳の差BLです。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

処理中です...