その声に弱いんだってば…。

あきすと

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遠い憧れ。

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子供心に、真幸という存在は大きく光り輝いていた。

憧れは、少し遠いぐらいがちょうど良い。
距離は、年齢差としても影響を与えるのだから。時に意地悪だ。

5つ年上の真幸に、時々会える。
嬉しくて、実際に会えば恥ずかしくて。
特に、思春期にはかなり屈折しかけていたせいもあり
俺が演劇部に、入部して初めての学祭に観に来てくれた真幸には
素っ気ない態度をとったりしていた。

数年に一度会えるかどうかの関係だったのに。
当時は、まったくそんな考えまで及ばず。
疎遠になり、成長した俺は声優になってからの真幸の
存在を知らずに過ごしていた。

先に気が付いたのは、母親だった。
どこかで、見た事のある顔だと。
さしたる興味も、俺は持っていなくて。なのに、画面の向こうから聞こえてくる
声にだけは、心が動いた。

懐かしい。憧れの声。
小学生の時に、真幸の高校の演劇部の公演を観に行った時の記憶が蘇る。
顔も、さる事ながら…真幸の声に俺は惹き付けられた。
演じている真幸に、心を奪われたと言っても過言ではなかった。

俺は、モデルの道に進む事になったのも
タレントっぽいのをしているのも、元をたどれば、真幸がキッカケだった。

『今月号の、looks.の表紙…アレ、どう見ても、えちえちなんだけど。けしからん!』
このルームシェアの住人のたわごとに、振り回されるのにも慣れて来た。
「最近、はだける系の要望出される事よくあってさ。俺は、物言わぬお人形みたいで、どうにでもしてって思ってる。」

『こんなの見せたらダメ…、絶対ダメ。』
「…ぁあ、臍?」
どれだよ、と俺はゲームを中断して真幸の横に行って、紙面をのぞく。
『ほら、腰骨もNGで。事務所の先輩NGって事にして』
「臍ぉ…?なんで駄目なのか分かんないけど。」
『え、臍は…なんかこう、ドキドキしない?』
全然、共感できない。と笑顔で返す。

「変な目で、見ないで下さい。先輩。」
『ぅ…、だって千紘が誰かに消費されるのは、我慢できないよ。』
「いいんだよ、だって…俺が選んだ道なんだから。」

俺の声の冷たさに、真幸は何故かしょげた。
『モデルしてる千紘は、好きだよ。でも、あんまり遠くに行かないで欲しいって思うのは、俺のエゴなのかも。』
「お互い様って思うよ。真幸みたいに、俺はあんたの声を聞いて…ってのは出来ないけどさ。」
『ホントだね…じゃ、完全プライベートな俺で満たしてる訳だ?』
言い方が、どうにも引っ掛かるけど。
「これで良いんだよ。俺は、仕事の時の真幸の声にはまだ耐性がないんだから。」
仕事が終われば、家に帰って時々は真幸とゲームをしたりして、楽しんでいる。

この前の発作的な何かは、あれ以降なりを潜めている。
また、反射的に真幸に何かをしてしまったら…今度は俺がこの部屋を出ていく事を
考え出すだろう。

『どうした?珍しくジッと見て…』
「良かった。額の傷、綺麗に治ってる。」
ずっと、後悔と罪悪感でいっぱいだった俺を真幸が
気を使って、慰めてくれていた。
傷は、隠せもできるから。と言われたけど、俺は自分のした事に
ショックを受けていたんだと思い知る。

真幸を傷付けた上に、まだ過去の傷は癒えてないと実感した。
『気にしすぎだよ、もう、2週間くらい経つからね。それに、俺の配慮が足りなかったのがいけない。』
「…でも、真幸は基本的には優しいよね。98%くらい。」
『のこり2%は?』
「俺のまだ知らない怖さがあった。でも、ゾクッてした。」

物好きだと言えるだろう。
『困った子だね、千紘は…。あ、そう言えば来週の平日になるんだけど、千紘と休みが重なりそうなんだよ。』
真幸は、スマホのスケジュールを見ながら教えてくれる。
「…ほんとに、良いの?真幸。」
『ぇ、何が?』
「戻るなら今の内だよ、俺なんかと遊んでてイイのかって、聞いてるの。」
『千紘は、残酷だね…。もう、どうやっても俺の中から千紘という存在を抜きには、出来ないってのに。』
「だって、真幸は、悔しいけど…良い男だからさ。気が引けちゃう。」

気にした事は、やっぱり聞いておかないと不安だった。
ここで、引き返す真幸じゃないと、なんとなく分かっているのに。
『じゃぁ、もっと嬉しそうにして?喜んで、楽しさを俺にも伝えてよ…。』
「物言わぬ人形みたい?抱いたらきっと中は冷たいのかも。」
『……千紘でも、そういう表現するんだね。』
「確かめてみる?持ってるんでしょ…探れるもの。」

くすくす笑って、俺は、優しい笑顔の似合う真幸の輪郭を手のひらで、たどる。
『…!からかってるだろ、千紘。』
「うん。だって、楽しいからね。」
『でも、安心した。…千紘って少し潔癖なところを、たまに感じるから。』
「どこが?俺、あんたとホテル行って…キスまでしてるのに。」
俺の内面なんて、気にしても見えないものなのに。
真幸は、精一杯の優しさで、いつも包んでくれる。

真綿みたいに、締まっていくのを感じても俺は声を上げないよ。
きっと、まだ平気。

『今じゃ、俺を弄んで喜ぶ、悪い遊びを覚えちゃってさ。』
「…真幸とデート、どこ行くの?この前言ってた、水族館?」
『千紘は、希望ないの?』
「うーん。俺はね…美味しいご飯が食べれるならどこにでも行くよ。」
頬を摺り寄せて微笑むと、真幸の瞳が優しく細められた。
『千紘は、味覚が繊細だから。考えておくよ。』
腰を抱かれて、真幸の体にのしかかる体勢になる。

「いいのかな?こんなに真幸を独占しちゃって。」
『良いんだよ。千紘なら。』
「もっと、真幸に近寄りたい…精神的にも」
俺は、結構我慢してると思う。何って。もちろんアレをね。
真幸が俺を甘やかすから、更に遠ざかってしまった気がして、正直もどかしい。

『焦らなくても、大丈夫だよ、俺は、逃げも隠れもしないから。』
分かってない。真幸は、全然…分かってないよ。
くっつくのには、理由があるって思わないのかな?
「ん…、真幸…っ」
『もしかして、千紘まさか発情期でも来てる?』
「犬や猫じゃあるまいし、」
『うん。でも、よくくっ付いてくるよね。最近』

真幸って結構おっとりしてるから
言わなきゃ気づかないタイプだろうな。
仕方がない、ここは恥じらいを忘れて…。
俺は、真幸の体の上から降りて床に背中を預けると
お腹を見せて寝ころんだ。

「…真幸」
『ハイ。』
「ぇ~?」
伝わって無くない?
体を反転して、真幸を見つめる。
『なんか、本当に猫ちゃんみたいで可愛い…』
「ばか。」
鈍い!何言ってんだよ、この31歳は…。
こちとら、真幸のおかげでそろそろ限界?の近い26歳だってのに。
なぁーんにも、感じ取るものがないのか?

『もしかして、背中かゆい?』
全く、見当違いな…。
「真幸…、」
視線だけは、外さずにこっちを見てるから
『まさか、千紘』
あ、声変えやがったな…こんにゃろー。しかも無意識っぽい。
「な、なに?」
上体を起こして、真幸が俺のお腹を手のひらで撫でる。
『俺の勘違いかもしれないけど…』

俺は、まばたきを忘れて真幸を凝視してる。
「まさき…」
『本当に、発情してる?』

そーっと、視線を逸らすと真幸に唇を触られる。
「ぁ…、」
真幸の親指が、唇をそっと撫でる。
くすぐったい。
恥ずかしくて、やっぱり目をつむると真幸はキスをして
俺の頭を撫でる。ほんと、子ども扱いばっかり。

だから、最近変な夢ばっかり見てしまう。
いやいや、いくつだよ!!って、思うけど…。自分が思ったよりも
求めてる事が恥ずかしくて、何だかいやらしい気がして、嫌だった。
『どうしたいのか、言いなさい?千紘』
「…聞いたら引くと思うし、言い難い。」
『じゃあ、当ててみせようかな。』

真幸は、俺の手をにぎにぎしながら考えてる。
「あ!欲求不満だよね、千紘『ギャーーーーーーーーー!!!!?いきなり、何言うかと思えば』いや、だって寝てる時、ちょっと
イタズラしたら、可愛い声漏れてるからさ。」
「お前のせいか…、そうだろ?ここ最近、なんかおかしいと思ったら。ヤメロよ、もーーー、」
『ぁー、それはゴメンね。最後まで?してあげても良かったんだけど、後が大変そうだから。放置して寝てた。』
「俺を弄んでるのは、どう考えても真幸だろ…。ヒドイ、そんな事されてるなんて知らなかった。」

『夢だから、分からないと思ってた。』
「夢だから、余計にタチ悪いんだよ!この変態…」
『ちなみに、千紘が嫌がる声でしてあげたら、反応良かったけど。』
うわ…俺もうこの変態と一緒に寝るの、やめとこうかな。

「起きてから、なぁんかモヤモヤするって思ってたら。」
『じゃ、起きてる時に…しようかな?』
はあ?また、何を言い出すかと思えば。
「俺、恥ずかしい超えるってそんなの。」
『恥ずかしいを超えればいいんじゃない?』
どうやって?
俺は、真顔で言ってくる真幸を目の前にして首を傾げた。

「…俺、そろそろ寝る。」
『千紘。…悪かったね。』
気になる、
引っ掛かるな。なんでだろう。これだけで、終わらない気がして。
俺は、寝室に行ってパジャマに着替え、洗面所にて歯磨きなどを済ませ
もう一度寝室に戻ってからベッドに入った。
スマホとかは、持ち込まずにいつもすぐに寝てしまう。
寝るのが好きだから、至福の時を迎えられるのが楽しみだ。

そもそも。何故一緒に真幸と寝るようになっているのか。
今まで考えもしなかったけど、おかしい。
あの、真幸が眠っている俺に、いかがわしい事を…
本当にしていたんだろうか?
分からない。証拠も無いのだから。
ただ、真幸の言葉を思い返すだけで俺は胸の奥が熱くなって
またいつもの、気恥ずかしさでいっぱいになってしまっていた。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/695046973/996635390天乃屋兄弟のお話、貼っておきますね。この兄弟の声を演じていると…妄想しつつ
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