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垣間見た過去。

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俺の動画では、すっかりモザイクされた真幸の事が認知されてしまい
ライブをすると、質問はだいたいが真幸の事だった。
「いや、俺の動画なんだけど…」

部屋で、真幸と動画を見ながら思わず口から出た本音。
『いつかバレるのかなぁ、それはそれで面白い気もするけど。』
真幸は、コーヒーを淹れてくれてテーブルの上に置いた。
「…良い匂い」
コーヒーなんてこの部屋に来てから、もとい
真幸に勧められてから飲むようになった。

『リビングカフェって、何だか憧れない?』
「落ち着く…。真幸のインテリアの趣味ってシンプルで、植物も取り入れてて
明るいし、結構おしゃれだよな。」
『本当は、してみたいインテリアがあるんだけどさ。ちょっと管理でき無さそうだし』
「へ~、どんなの?」
『蓄光の壁紙とか使ったり、水族館みたいな部屋に憧れる。』

…水族館。ちょっと考えてみたけど。あぁ、でも確かに楽しくて癒されそう。
真幸は、くらげみたいに掴みどころがなくて不思議な奴だ。
ふよふよしてて、触ってみたくなる。

「深海は、ちょっと怖い気もするけど…何でだろう、重くて眠いイメージがある。」
『昔、なぜかジンベイザメにハマってさ、一人で水族館に見に行ってたりした。』
「一人で?」
『そう、俺は、結構ね一人で居るのが好きだったから。』
なにげに、過去形なのはスルーしよう。
「俺も、あんまり人と居るのは…気が疲れるから、苦手かな。」

なのに、なんで一緒にいるのか。
真幸は、考えてるのかな?
動画の一件以来、何となく真幸と俺は前よりも
お互いの話をするようになった。

『本当に、千紘は…人から遠いね。でも、人よりも寄り添ってくれる時もある。
だから、草花に近いって感じるんだと思う。』
「受け止める人の、勝手にしたらいいよ。俺を通して、自分を実は見つめてるのかも。」

真幸の身体の熱さを知ったせいで、きっと絆されている。
『千紘、今度の休みが重なった時…一緒に水族館行かない?』
俺は、気恥ずかしくて真幸の眼から逃れるようにうつむく。
コーヒーの香りは、真幸。と、イメージづけられてしまった。

「いいよ…。」
『ありがとう、千紘。』
ぎゅ~っと抱き締められて、やっぱりその後はキスをされた。
「んむ…っ、しつこい…!」
飼い主の過剰な愛情表現から逃れようとする、猫の動画を思い出した。

『千紘も、かなり流されてるね。』
「ぇ?どの辺が」
『俺があげた、ウサギの耳のヘッドフォン、使ってるから。』
物には、罪もないし。音質も良いから大事に使っている。
「これ?おきに…音が良いから」
『そうなんだ~、お気に入りなんだね…。そう言って貰えると俺も嬉しいかなぁ。』
「遮音性も高いし、」
『うんうん。で、やっぱりお耳のトコが、うさうさしてて好きなんだよね?』

真幸にもたれかかりながら、頷く。
「そ、そ、うさうさしてて、ぴょんぴょんしたくなる感じ?」
真幸が、俺にヘッドフォンを着けさせて
正面から顔を見て来る。

『かわいい!!溶けそう』
「あんた、その内捕まらないようにね?」
『そういえばさ、千紘の髪って黒?ではないよね。何だろ…紺色っぽいっての?』
毛先に、そっと触れる真幸を視線で追いながら
「うん。色抜かなくても…入るから。」
『なぁんか、神秘的だよ…やっぱモデルしてるだけある。』
ちょっと今更な真幸の言葉に、静かに笑う。

「俺が興味持たれてもね、しょうがないの。モデルは、着る、履く、身に着けるものを上手く魅せないといけないから。」
『俺は、その本人に見せられたわけか…』
「真幸なら、声デショ?」
『数々の乙女達に…って、役柄ばかりでもないけどさ。』
「ねぇ、真幸はBLの声のお仕事の時、どんな気持ちで演じてるの?」
つん、つん、と真幸の頬をつついて様子をうかがう。
ぁ~、でも真幸なら。
『ホント、難しいんだよ?BLって…それはもう、精一杯させてもらうけど』
「なんかそうらしいね、俺は真幸の出てるCDって言えば、この前のしか持ってないから何とも言えないけど。」
『全部聞かなかったの?』

「恥ずかしすぎて無理。」
『いいよ、いつか寝てる時にでもイヤホンで聞かせてあげる。』
そんなんされたら、もう次の日
真幸とは、顔を合わせれないだろうな。

「真幸のよく分かんない意地悪は、なんなんだろうね。」
『俺、千紘に…してみたい事がどれだけあると思う?』

ぅあ、今…不覚にもゾクッとした。
Sが、見え隠れしてる。
「知らない。聞きたくもない。」
『…千紘は、俺の理性のおかげで、そうやって何事も無く過ごせてるんだよ?』

こ、怖ーーー!!!

あ、今それっぽく言いやがったな?真幸の奴…。
「反応したら、負け。」
今の俺には、ヘッドフォンがある。
両手で耳元を押さえて、対抗したつもりでいたけど。
真幸の手が伸ばされて、あっけなく奪われてしまった。

『千紘』
絶対に反応しない。と、思ってたのに…
腕に抱かれたら、耳元で名前なんて呼ばれたら、
「……!」
本能的に、マズイと思って真幸を突き飛ばした。




「ごめんなさい。」
俺は、シェードランプを直す真幸に、頭を下げた。
『怪我、しなかった?千紘』
「…俺は、無傷だよ。真幸、本当に大丈夫?すごい音、したから」
『俺が、千紘を嫌な目に合わせたのが、いけなかった。俺の方こそ、ごめんね。』

生身の人間の脆さを、自分はよく知っているつもりでいた。
「怖かった…、」
『ぁ、さっきのは冗談だよ?忘れて、千紘。』
「そっちじゃなくて…、真幸が怪我したらって、ましてや…頭だよ?」

『俺は、平気でも…千紘の傷が開いてしまったみたいだね。』
額の傷を見て、俺はとある昔の出来事をフラッシュバックしていた。

真幸になだめられて、何とか平静を取り戻すと
リビングのシェルフから、救急箱を持って来て血のにじむ
真幸の額の傷を、オキシドールと脱脂綿で消毒した。

「俺ね…、あんまり重い話はしたくないけどさ。」
『言わなくても、俺には分かるよ。さっきので…なんとなく伝わったから。』
「じゃあ、言わない。」
『それでいいと思う。』
「俺の事、嫌いになられても、仕方ない。」
真幸は、鏡を見ながら傷口を確認して、絆創膏を貼っていた。

『まさか、俺がなんで千紘を嫌うの?』
「力では敵わないとか、思い通りに行かないからとか…それが俺が見た、現実。」
『移籍してきた時、俺のコト気が付いてた筈なのにって。』
俺は、どうしようもなくなった過去が嫌で
真幸のいる事務所に話を通してもらっていたのだ。

自分に声を掛けてくれた真幸が居る、事務所なら。と、思って
今の事務所を選んだ。
「記憶が曖昧とかじゃなくて、忘れたくて必死に心を閉ざしてた。誰とも関わるのがしんどかった。」
『ひどいこと、誰がしたの?』
「正確には、されそうに…なった。もともと、距離感近くてどうなのかなぁって、俺も計りかねてたし。」
『ぁー、千紘が可愛くて…その子、イケるかもって勘違いしちゃったんだね。』
「なのかな?でも、俺…男だし。」

言っておいて、すぐに「あ、」と後悔した。
『好きなのは、俺もね…時々苦しいよ。どうしたいとかも無いし。ただ、相手が嬉しそうとか、笑ってくれる。とか、それだけで
心って満たされるし。』
真幸の言葉、心にすぐ馴染んでいく。
「そんなに、イケメンのイケボでも…ままならないなんて、」
『俺の大好きな人は、繊細だからね。今回は、やりすぎちゃったけど…。反省してる。』
俺の頬を撫でて、真幸はまた謝る。
さっきからずっと、眉尻が下がったままの真幸を見ていると
愛おしくて、心が辛い。

「真幸は、そんなに謝らないで…。俺もびっくりしたんだ。だって、もう平気だと思ってたし。」
『好きな子に意地悪するなんて、保育園児並みだもん。』
「でも、はっきり意識があるからだよ。そーゆう雰囲気を察知したから」
『恐怖?羞恥…どっちが強かった?』
うーーーん、
真幸が、傷つかなければいいけど。
「ちょっと、恐怖かなぁ。」
『…去勢する、やっぱり俺は、千紘と一緒にいたら』
「ぇ、捨てるの?」

『またー、そういう事言うからもう、千紘が確信犯でしょ、コレ!?』
「そう言うけどさ…?俺もたまには寂しくなったりするよ。」
真幸が居る所に自分も居れば、安心だなんて考えに至ること自体が、
完全に、好いてる証拠なのに。

『あざとい…。』
「本当は、だぁいすきだよ。」
『ぇ…?』

「つぎは、意地悪しないで…してほしいな。」
ソファに這い上がって、抱き付き
真幸の傷に口付けた。
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