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バレても平気ですか?

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「こんばんは、…ぇーっと今日はゲーム実況ライブを始めていきたいと思います」
『千紘、』
「!ぁ、ちょっと…待っててくださいね~…」


なんで、ライブ配信時に名前呼ぶ!?

と、以上の事があってから。まぁ…喧嘩になったというか。
これって、俺がいけないのかな?
俺、確か真幸にちゃんと、ライブ配信するって伝えておいたんだけど。

ネットでは、ほんの数秒もない真幸の声に、何故か色んな憶測が飛び交い
女の人の声じゃないから、OK。と言う声もあれば、
逆に、どこの男と一緒に暮らしてるんだって…
おかしな方向で話題になってしまって、マネージャーからの連絡は
めちゃくちゃ早かった。

友人が遊びに来てる、とか。いろんな苦し紛れの言い訳を用意されたけど。
もう、正直面倒だった。
「彼氏です。」って、言えれば苦労しない。
「オニイチャンです。」の方がまだいいか。

…いや、どっちも納まりようがない気がする。

『ごめん、言われてたのは勿論、覚えてたんだけど…。ちょっと聞きたい事があって、つい』
ライブ配信だから、コメントの質問が凄くて。
配信終了をして、改めて動画を撮って事情を説明した。
もう、しょうがないから真幸は残念だけど顔面モザイクに処理して
同居人である事を説明した。

声が特にバレるとまずいから、音声ももちろん加工済み。
「俺、絶対これから真幸の事、番組とか動画で質問されるんだろうね。」
乾いた笑いしか、浮かばなかった。
『モザイクおじさんと住むモデルって?』

…苦悩じゃない?それ。

「バカバカ、何やってんだよ~もう…!」
『何の言い訳もできないし、謝罪しかないね。…千紘、ごめんなさい。』
「反省してるみたいだけど、なぁんで笑顔なの?」
『…いや、俺のSNSに何かきな臭い感じの書き込みがあったから。』
え…?まさかもう、見つかった?

「こわ…。大丈夫?」
『俺、そういえば…長年のファンの子は知ってるんだけど、千紘のコト、可愛いって言ってるのラジオで
言った事ある。』

「俺だけ、を?って事はないでしょ。さすがに」
『…千紘たんって、呼んでたのも知られてる。』
「何年前の話だよ、」
『10年位前?』
「俺、演劇してる時じゃん。何、人の名前出してんだよ…」
その頃から、たまに雑誌とかに出たりもしては居たけど。

「つまり、知る人ぞ知る、って情報なんだね。でも、まさか一緒にいるとは思わなくない?」
『俺には、無理って事?』
なんにせよ、同居人が居る事を公表してしまった以上は、これからの
真幸との関係性に、もしかしたら変化があるかもしれないし
あまり無いかもしれない。
「そんな話してない。…繋がりをそこまで理解できているのかって事。」
『責任なら、いつでも取ります。』
「言われても…、俺がどうしたら良いのかまだ、分からないのに。」

真幸のポジ具合が、時々俺の神経を逆なでしてくれる。
『千紘…』
ソファに脚を組んで考えていると、真幸が足元に寄って来た。
「真幸が、そんな顔するなんて珍しい。とりあえず、今の所、対処はしたんだからさ…」
何で俺が真幸を慰めているのかと思いつつ。
すっかりしょげてしまっている、真幸の栗色の髪を撫でた。

『やっぱり、俺…部屋「でも、事実は変わらないって。真幸、そっちに逃げ道作るのは俺は反対だから。」』
眉が下がった、頼りない笑顔が
どうしようもないなぁと思いつつも、可愛く思えた。

「俺、別に何にもしてないし。真幸も、俺の名前呼んだだけ。」
『そうそう』
「で、いつもの普通の真幸の声だったし、分からないって。」
『…はぁ。』
結構、落ち込んでいる真幸がだんだんと不憫に思えてきて、そろっと真幸の膝の上に下りて
ぎゅっと抱き締めた。

「真幸と一緒に、居たい。これからも…できれば、だけど。」
自分よりも、10㎝程上背のある真幸をなだめながら
背中を撫でては、頬にキスをする。
俺は、真幸の危うさをひそかに見せられている気がして、ただ心苦しかった。
結構、繊細で。
意外と常識にとらわれてるし、気が優しくて
つないだ手のまま、陽の光も届かない海底にまで潜ってしまいそうな
性格に、気づいていた。
優柔不断で、皆からは好かれてもいるけど
心の奥底の、満たしきれないものを隠そうとしている所。

どこまでいっても、人間くさくて好き。

真幸の笑顔を好きな俺は、確実に真幸を愛している。
下手な言葉よりも、真幸にはちゃんとした安心とか、
確かなもので応えていきたいって。

『ありがとう。千紘』
胸が苦しい…こんな思いをさ、お互いにし続けながら生きていくの。
「真幸なら、例えバレても俺は平気だよ。」
『事務所が、何て言うか…』
「憧れの人と、今一緒に居られるんだし。」
俺の言葉に、真幸は瞬きを忘れたみたいにジッと俺を見つめる。

『急に、カッコいい千紘が可愛い~』
いつもの明るい真幸が帰って来た。
いわゆるイケボで、顔もさる事ながら。
屈託なく笑う姿は、やっぱりいつ見ても何度見ても
心が動かされるものだと知る。

「真幸、ほら…結構頼りない瞬間あるから。俺なりに心配してる。」
『これからは、時々モザイクの同居人として、動画にも出してみてよ。』
「いや、さすがにそれは、Noでしょ…」



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