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①帰国
しおりを挟む7月は何と言っても、七夕。
であり、俺の愛する弟の誕生日でもある。
想いを通じ合わせてから、重ねた年月はまだまだ浅い。
密度は、濃いとも言えそうだけど。
一緒に仕事をしながら、家事全般を引き受けてくれる星明には
日頃から多大なる負担をかけてしまっている事だろう。
(夜まで疲れさせている訳だし)
何の不満も漏らさずに、いつも本当によく尽くしてくれる。
健気で、意地らしい。
梅雨が明けて、夏本番になって来ると星明の部屋は
夜寝るには、蒸すらしくて2階の俺の部屋でエアコンを効かせながら
一緒に寝ている。
これが、罠だ。
「星明、夏の間は俺の部屋を自由に使って良いぞ。」
もちろん、メインは寝起きだろう。
『ぇ、俺の部屋あるけど?』
「寝起きは、俺の方でしてるんだから。ほとんど一緒みたいなものだし。」
朝ごはんを一緒に食べながら、星明は不思議そうに俺を見ている。
『もしかしてさ、兄貴もう忘れてない?』
「……え、何?」
朝からドキッとする様な星明の神妙な顔つき。
俺は、ご飯茶碗を落っことしそうになる。
『今年の七夕までに、父さん母さんが帰国するじゃん。』
は、え…?
思い出そうにも、軽くパニックになってしまう。
ここ数年、両親とは遠く離れて生活をしてしまっている。
この2人の生活のサイクルに慣れてしまって
最近届いた、絵葉書1枚を思い出した。
「わす…っ、マジかよ~、珍しい事してくれんじゃん…。」
『でも、兄貴?両親が帰って来るからさ。俺はあの今の寝室には居られないし。』
「あ、そうだよ。お前、あぶれる。やっぱり俺の部屋に、な?」
星明は、煎茶を飲み一息つく。
落ち着き払った態度。
『付き合ってるの、バレたら大変だからね?』
「うん。分かってる。」
『どうせ、すぐにまた発つだろうけど。その間は、兄貴と俺はただの兄弟だよ。』
言われてみると、至極当たり前の事なのに。
自分の欲深さを嫌と言う程、実感する。
もう、戻れない道ではある。
本当の兄弟では、無いにしても。
後ろ暗さを感じ続けなきゃいけないのは、お互いに辛い事だ。
『大丈夫だよ、だって…兄貴は俺の事、少なくとも嫌いじゃない。』
「むしろ、アホみたいに好きで…好きで。」
『そうなんだよね、仕方なかったんだよ。気持ちの止め方なんて分からなかったし。』
去年ほど、人生において大きな変化があった年は無かった。
俺は、きっと人生で初めて自分以外の人間を心から愛して
深い内側に身を沈めた。
涙が出そうなくらいに、衝動が心を衝き動かしていた。
護りたかった存在を力いっぱい抱き締める事の恐怖を知る。
今にも手折れそうな、月の光の下にさらされた背中を
鮮明に覚えている。
「キスは?」
『見られたらどうするの!?ダメに決まってるでしょ~バカ兄貴。』
「…何、それ。じゃ、ハグなら良いよな!2人は国外から帰って来るんだし。」
『あのね、ここの国ではあんまりハグしないでしょ?絶対何か言われそうだよ。』
朝ごはんが終わって、流しに食器を運んでいると
『でも、嬉しいな。兄貴ってば、そんなに俺の事…』
エプロンの裾をもちゃもちゃ触りながら、星明が俺の背後に
なすりついて来た。
はー。これで、何もするなって?ふざけんな。体に悪い。
「さっさと来て、さっさとまた国外行ってもらう。」
『ねぇ、兄貴はさ…家出ないの?そしたら、俺も一緒にくっついていきたいのに。』
ぎゅ、と星明に抱き着かれて俺の理性は朝からもう
駄目かもしれない。
こんなんで、我慢できるかよ!
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