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残暑のせい(武蔵視点)

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「清くん、どうかな?」
残暑が厳しさを増す中、僕は久し振りに理容院に行って来た。
襟足が結構伸びて来ていて、家に居る時は髪を縛っているくらいになったから。

でも、さすがにここしばらくは理容院に行けていなかったから
気分転換も兼ねて、清瀬には黙って出かけて来たところ。

帰りに、晩御飯の買い出しもしてから帰ると
家の横の畑で、農作業中だった清瀬にバッチリ見つかってしまった。

僕は、ほぼ思考停止に近い状態で買い物袋を両手に下げながら
その場でくるりと1周して清瀬に問いかけたんだ。

『…ぇ、なに?…ハぁ?むー…お前』
この厚い中、真っ黒いツナギに目立つ金髪。
清瀬はギャップの塊だと僕は思う。

「わゎ、なに?」
つかつかと歩いて来た清瀬に、詰め寄られた。
『…おまえ、あの尻尾みたいなの切って来たのか?』
鋭い眼光、0距離に近い距離感、掛かる吐息まであついのが
伝わって来た。

もしかしてこれは、やってしまったかな?
「おこ…ってるの?清くん。」
分からない、いつも清瀬の思惑と僕の思惑が合致する事がないから。

『怒って、る…よりかは、俺はショック。』
「えぇ、…なんで?」
『だって、こんな事されたら…武蔵の等身大フィギュアを作り直さないといけなくなる。』
「あー…そ、だよねぇ。うん、なんか…ごめんね?清くん。僕、暑いのに負けちゃってさ。」
『俺も、今は髪伸ばしてるのに…。武蔵と同じ髪型が良い。』

今日も清瀬の深くて熱くて溶けそうな程の愛が、僕にたくさん降り注ぐ。
「そうなの!?…ぇ~、言ってよ清くん。僕もう取り返しがつかないじゃん…。」

清瀬は、僕から離れて収穫した野菜をカゴに入れ始める。
『お前さ、切った髪回収してくるの忘れただろ?』
「…あ!本当だ。」
『霊力の塊みたいなものだから、あんまり一般人の手には渡らない様にしろよ?』
「うん。うっかりしてたよ。」
『武蔵…』

清瀬の声は、鋭い。でも、それだけでは無い事を僕は理解している。
「なに?清くん。」
『いや。…その髪型も、似合ってる。』
目線さえもくれないで、ぶっきらぼうに告げる清瀬が僕は本当に愛おしいって言うのかな?
たまらない気持ちになって。
嬉しくて、ついつい笑顔がこぼれてしまう。

「よかったぁ」
『今日の晩飯、俺も少し作っておいたから。』
「ありがとう、清くんのゴハン美味しいから…僕も頑張って作らなきゃね。」

生真面目な清瀬は、僕よりも器用に日々を暮らしている。
僕が苦手な事をすべて、清瀬が補う様に得意で居てくれる。

『むーは、料理の味見をしたらもっと美味く作れる、と思う。』
「ついつい、作ったらそのままにしちゃうんだよね。気を付けるよ。」
『俺は、むーが作ってくれるなら…何でも食べる。』

相変わらず、清瀬は僕にどこまでも甘い。
嬉しい反面、僕はこのままで良いのかな?と思わず考えてしまう。

優しい清瀬だから、今までずっと僕の事を支えてくれたんだ。
「先に、家に入ってるね。清くん、ソレ終わったらお風呂?」
『…あぁ、そうすると思う。』
「大丈夫だよ、ちゃんと準備しておくからね。」
『助かる、ありがとう。』

正面の玄関から家に上がって、その脚で台所に向かい冷蔵庫に食材を戻していく。
今日は公休だったから、気持ちには少し余裕がある。
お風呂場に行って、窓を開けたり床の掃除をしてお湯を張る準備をしていく。

「やっぱり、まだ暑いや…。」
お盆を過ぎた頃とは言え、まだまだ夏の暑さは簡単には和らいではくれない。

『…むー、汗すご。』
今日の作業が終わった清瀬がお風呂場に来た。
「あつー…もぉ、服べしょべしょ…」
すぐ近くまで清瀬が来て、僕は一瞬焦る。
『むー「ち、近い…よ!僕いま汗かいてるから、あんまり近付くと…ダメだよ。」ぇ~…』
『何でだよ。なに、今更恥ずかしがってるの?色んなの…俺に見せてくれたクセに。』

だから、余計に恥ずかしいんだよ。清瀬ってば。

「色んなのって、アレは不可抗力ばっかりでしょ…うぅ~…どいて、清くん。僕、後で
大丈夫だからさ。」
『駄目。だってさ、このまま汗が引いたら風邪引くだろうし…俺は武蔵と一緒に風呂に入る。』

断言できてしまう清瀬には、もう何を言ってもきっと無意味なんだろうなぁ。と思われた。
「匂いとか、清くん嗅ぎそうで…ほんっっとーにやめてね。」
『嗅がない、けど…じゃ、触るだけは?』

シャツが肌に張り付いてて不快なのに、僕の肩や腰に伸ばされる清瀬の手には
なんとなく抗えない。
ヘンにドキドキする。

ダメだなぁって、頭では思っているのに。

清瀬の手の動き、触れる先を想像するから嫌になる。
『風呂で、武蔵の事さわ…洗いたい』
「清くん、本心がだだ漏れだよ?」

くすくす笑っていると、抱き寄せられる。
さっきの今だから、清瀬だって汗をかいてるはずだと思ったのに。

「え、あんまり濡れてないね?清くん。」
『…むーは思った以上に濡れてて…すげーな。もう、脱げよ。面倒くさい。』

炎天下の中の農作業と、僕は買い物帰りだ。
お風呂の床に裸足で、ズボンの裾をまくった状態の僕。
着ていたシャツを清瀬に脱がされて、脱衣所のカゴに放られた。
清瀬は、真っ黒いツナギを上体は既に脱いでいた。

「…一緒に入るなんて、聞いてない。」
結局全部脱ぐ事になって渋々、裸になった僕は手で上とか下を隠そうとしていたけど
清瀬に手を引かれて、シャワーを掛けられてしまいすっかり抵抗する事を忘れてしまった。

清瀬も普通に脱いでしまい、僕は目のやり場に困っていたけど。

『リアルの武蔵は、俺…刺激が強すぎる。』
とか、訳分かんない事を口走る清瀬に怯えつつも
何故か一緒に湯船に浸かっている現実が、自分でもかなり久し振りだから
落ち着かなかった。

「(でも濁り湯で助かったかも)…大丈夫?清くん。」
『大丈夫…かは危ういけど、何かしたら…無事では済まない気がする。』
「ぁはは、ソレは僕も変わらないかも~」
『でも、めっちゃ触りたい…。』
「ちょ、ソレは僕…逃げ場無さすぎでしょ。」
『分かってる。だから今、なるべく良い想像しない様にしてる。』
「ぇ~…。でも、さ。久しぶりだよね?一緒にお風呂入るの。」

照れくさくて笑うと、清瀬が固まってしまう。
『コレで何にもしない方がおかしいだろ!!』

「ぼ、く…別に何にもしてないでしょ~?」
『笑いかけられたら、無理。俺がどんだけ武蔵を「…分かったよ!もぉ~…逆に難しいよ。こんなの」』

清瀬さえ、嫌じゃなかったら背中くらい流してあげたいなって
思ってたのに。

「でもさ、清くん。僕の体なら見慣れてるんじゃないの?その…おに……フィギュアで。」
『アレは、カタチだけ。お前と同一ではない。と言うか、一緒にするな。本体の癖に。』
「そっかぁ…ソレはソレで、嬉しいかもしれない。」

清瀬の偏愛がもし、自分にではなくてフィギュアと言う造形物にあるのだとしたら。
僕は、きっと敵いはしないから。

嬉しい顔を、清瀬が見てるかな?と思うとまた気恥ずかしくて
うつ向いてしまうばかり。

『耳まで真っ赤。』
「ふふっ、だろうね。だって、僕の事そんな風に思っててくれるの…嬉しくて。」
『……俺の理性試してる?むー』
「違うよ、僕だってヤキモチ焼いちゃうんだね。」

『駄目だー!むーとこんな状況で冷静に終れる要素が無さすぎる!!』
清瀬が両手で顔を覆ってる。

「そんな、あんまり意識させないでよ清くん。僕だって、結構…気にしない様にしてるんだから。」

2人で浴槽に入ってるから、お湯の高さもあってまだセーフ?
って思っていたけど。

「…あのさ、もしかして…清くん、の…たっ『ったり前だろ!』そんな~怒んないでよ。」
『怒ってない。はぁ、最近ほら…この暑さで』
「シてなかったモンね。」

一緒に暮らしてはいるけれど、生活は結構それぞれにもなりやすい。
だから、気を遣い合うのはお互いに分かっているから。
「いつも、いっぱい心配して…気を遣ってくれてるのに、僕からは何にもお返しできなくってゴメンね。」

清瀬の過度な想いとか重い愛情が献身を、当たり前みたいに僕に与えてくれる。

『お返しだなんて、最初から望んだ事も無い。』
「僕、優しい清くんに甘えてるよね。いつもいつも…僕だって、清くんの事を想って出来る事
探してるんだけどなぁ。」

僕は、ゆっくりお湯の中に手を沈めていく。
清瀬の視線がお湯の中に注がれる。
きっと、想像してるに違いない。

上手く探し当てられた瞬間、僕は清瀬と目が合った。

「ぁ、捕まえちゃった…ね。きよくん。」










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