上 下
9 / 14

僕、じゃダメなの?

しおりを挟む
『そろそろ、俺の武蔵フィギュアが完成する。』

スマホに届いたメッセージを見て
呆れていた。
はぁー?って思う反面、
清瀬がそんなフィギュアを作るに
至った理由は、少なからず自分のせいも
あるのだとしたら。

同じ家に住みながら、双子でもあり
でも心は真逆を向いているのかもしれない。
弟がよくわからない。

愛してるって言いながら、俺の代わりみたいな
等身大フィギュアを作る事も本当は
心がモヤモヤしてる。
「僕じゃダメなのかな?」

散々、禁忌を犯しながら求め合って
後戻りできない肉体のままで
数世紀を生きて来て。

清瀬が本当に求めているものが
もし、自分でないならば
もはやどうしたらいいのか、
分からない。

清瀬のアトリエに行く事は
避ける様になっていた。
くまなく計測されていく。
メジャーで、隅々まで採寸される度に
心は冷えていくのを感じていた。

こんなに側にいても、やっぱりまだ
清瀬の心には触れられない?
休みの日くらいは、部屋から出て来て
一緒にご飯を食べたい。

清瀬は、一度没頭してしまうと
周りが見えにくいから。
なるべく声を掛けて、生活が乱れない様に
調子をとってあげる。

しばらくして、やっと部屋からリビングに
清瀬が、来てくれた。
折角ランチに合わせて、プレートまで
用意したのに1人で食べるのは
味気ないからさ。
「完成しちゃいそうなの?僕の…その、等身大フィギュア。」

金髪のサラサラな髪の奥で、優しい
瞳がのぞく。
『やっと…、後は実物と比較するだけ』
ソファに座る清瀬の前に、
ランチプレートを用意して
席に着く。

「あのさ、僕やっぱり…フィギュアなんて
作られたくなかったよ。」
今更だとは、思うけど。
ずっと払拭できない心のモヤモヤが
我慢できなくなった。

『むー…、怒ってる?』
確かに強力はして来たけど、
だってアレは僕の形はしていても
本当の僕じゃないのに。

「どうしてそんなに、嬉しそうにするの?目の前に居るのに…っ、僕じゃ駄目っ……?」

泣いてしまいそうだけど、我慢してる。
悔しくて、情け無くて喉が辛い。

清瀬は、ただ静かに僕を見て
言葉を探してるみたいだった。

「兄弟のフィギュア作るなんて、おかしいよ。」
『おかしくない、だって…武蔵は俺にとっては本当に大切で。それこそ毎日拝みたくなる程の存在だし、同時に好き過ぎてついつい無茶な事してしまうから…俺にしか分からないこの感情をどうにかしたくて、フィギュアを作り始めたんだ。』

言ってる事がマトモに聞こえてるんだから、
僕もかなりおかしいのは、分かってる。

「やだなぁ、僕がいるなら…フィギュアじゃなくて僕で我慢してよ清瀬。」

心からの想いが、飾らずにそのまま
口をついて出る。

『そうしたいけど、いつも仕事からクタクタになって帰って来る武蔵を見てたら…俺だけの勝手な感情では駄目なんだって、』
「僕…フィギュアに嫉妬しちゃうよ?」

フィギュアの出来は、だいたい知ってる。
自分で言うのもなんだけど
確かに、愛されて作られた感じがして
清瀬が日頃どんな目で僕を
見ているのか分かる気さえした。

『武蔵は無意識なんだろうけど、今みたいのとかさ…俺にとってはすごい言葉だったりする訳。気付いてないだろ?俺の劣情を日々煽ってくるんだからな。でも、くったり疲れてる武蔵を見てたら自分のよこしまな考えに…罪悪感だって覚えてる。』

「そうなの…?えっと、ゴメンなさい。そんなつもりは無いんだけど。ただ、清くんが違う誰かを見てたりすると僕、気が気じゃなくて。やっぱり、僕じゃ物足りないかな?って」

『ぁー、だから…それだって。』
「ん…?」

清瀬は、もう何かを諦めた様に笑ってから
ランチのオムライスを食べ始めた。

僕も、手を合わせてから
昼食を食べる事にした。

『俺も武蔵も死ぬ事はほぼ、無いんだ。
これからもきっとずーっと2人で居るってのに、いつまでも劣情を持て余してるのもキツイんだよ。』

「気を遣ってくれてるのは、分かるよ。あのね、でも…あんまり我慢しなくていいからね?」
優しい弟だったよ、清瀬は
昔から本当に。

寄り添う様に2人で生きて来た。

清瀬は僕の全てで、他に大切なものなんて
無いって今でも思ってる。

今までは清瀬に言えなかったけど、
清瀬と僕は互いの神力の調和を
重要視されているらしくて
互いに求め合い支え合う姿こそ
本来のものだと言われてる。

だから、想われてる分僕も同じ様に
ずっと無意識に清瀬を…。

『する度に、修復されて…毎回初めてを奪う様な気持ちにさせられる。一体いつになったら、俺に慣れるんだって、思う事もあったけど』

「体は元に戻っても、僕が体験した事は心とか脳が覚えてるよ。」
『そこがエロいんだよな、…フィギュアには
そんな芸当無理だし。』

「え?!フィギュア使って何するつもりなの?」
『だから、何もしないって。むしろ冷静になる為に作ったんだよ。日頃から武蔵の煽りがすごいから。』

ランチを食べ終わっても、話は終わらない。
この際だから、清瀬の想いをたくさん
聞いておきたい。

「清くんと…くっついたり、してるとさ疲れもどっかに消えちゃう。やっぱり僕のかたわれだからなのかな?心地良くて安心できる。」
『一理あるかもな。気が同調してると回復力も強くなるし。』

「もっと…遠慮しないで来てよ?僕は清くんのお兄ちゃんだからさ。甘えたくなったら我慢しなくていいんだからね。」

ニコリと笑ってみせると、正面から
清瀬の手がのばされて僕の頬に触れている。

『武蔵…、』
「清くん…♡」
『やっぱり可愛いよなぁ…実物は』
「そうでしょ?それに、あったかいよ僕」

清瀬は、一瞬目をみはって
僕を真っ直ぐに見つめて来た。

『やべ、変な想像しかけた。』
「?」
『なぁ武蔵…あのフィギュア、実は抱ける仕様にしてあったらどうする?』

抱ける、仕様…?と言われても
そんなの想像もつかない。
『そこまで再現するのは、さすがに無理だったけどな。』

僕は嫌な予感がして、まさかとは
思いながら
「もしかして、あのフィギュアと…えっちする気?!」

声を荒げてしまった。
『まさか、いくら何でも俺はそこまであのフィギュアに求めてないって。』
「だよね…良かったぁ。」
『俺だって、抱くなら目の前の…生身で可愛い武蔵じゃなきゃ嫌だ。』

心臓が、きゅっと切なくなる。
大きな手のひらが、僕の頭を撫でた。
頭を撫で慣れるだけでもこんなに嬉しい。

「フィギュアじゃできない事、したくない?」

2人を隔てるものが、もどかしくて
僕はソファの隣に移動して
清瀬の腰に抱き付く。

どうかしてると思う、でも想いは
止まらない。
僕だけを出来れば見て欲しくて、
でもこんな想いは知られたくなかった。

浅ましいって思われたら?
嫌われちゃったらどうしようって。
清瀬の事が大好きなのは、昔から
ずっと変わらない。

お願い、これからも僕だけを
見つめてて?

その為なら、僕は清瀬をカラダで
繋ぎ止めても良いって思ってる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...