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⑰熱を分け合う
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『無事、と言うのはどこからどこまでかは分からないけど…僕の過去は
聞いて面白い様な事が少ないです。』
コンロの前に立って、こちらをまっすぐに見据える義兄は少しだけ
困った様に微笑んでいる。
『それに、歳も重ねていますし…何をどうしたら良いか。切り抜けるために
選ぶ選択肢が最良とも限らず。』
「全部を、霞の口から聞こうだなんて思っていない。」
本人は、話題にしていないが。父がまだ成人する前の義兄をモデルに
何度も絵を描いていた事は、知っていた。
世に公表してはいなかったが、亡くなった父のアトリエから
いくつも義兄の絵は大切に保管されていた。
本人をモデルにしたのか、それとも父の空想を描いたのかは
分からないが、白く美しい肌に人形の様に整った横顔。
窓際にたたずんで居たり、暖炉の前で横になった姿など
見ているコッチがハラハラする様な、煽情的な表情や体勢で
描かれていた。
『そんな顔しないで、青路。アナタ、今日でしばらく僕とは会えないのでしょう?』
やかんの取っ手を布巾で持ち、そろそろと急須にお湯を注ぐ。
「そうだ、なんで…はぁ…」
『僕は、気ままに暮らしたいんですよ。今の自分に合った暮らしを。』
「時間がもどかしい。」
『青路、後悔する生き方をしないで下さいね。お義母さんを…大切にして。』
言葉だけ聞けばとても立派な事を言っている。
でも、義兄の心が見えなくなる。
「こんな…恋愛とも言えない、どうしたら良いのか分からない。」
『朝から、辛気臭いですよ。さ、朝茶を飲んでからでも良いじゃないですか。
僕だって、簡単にはいかない事をアナタ並みに痛感しています。』
湯呑に注がれた緑茶は、湯気が真っすぐに立ち上り
静かに席に着いた。
「連れて帰りたい。」
『おや、お熱いですね。そんなにも…僕の事が?』
「…改めて聞かれると、釈然としない。」
『えぇ、僕もです。』
「時間が欲しい。霞との時間が…。」
『口説きますね。僕、一応はアナタの兄ですよ?』
「……はぁ。」
心が煩悶する。雰囲気、声、視線いずれにしても直視するには
まだ照れくさい。
『恋の悩ましいため息。良いですね、青路は今きっと苦しいんでしょうね。』
にこにこと笑顔で俺を見ては笑う義兄が、恨めしい。
こちらは、遅い。あまりにも遅すぎる初恋をこじらせていると言うのに。
「帰りたくない。」
『じゃ、そうしたら良いのに。』
「ぇ……?」
『フフ、出来ないでしょう?』
綺麗な形の唇、薄くも厚くも無くて児の描き方や上唇の山まで
つくりが丹精である事が分かる。
義兄の顔は、どの角度から見てもため息が出る。
「結婚、してみる気は無かったのか?」
『してみる、ぐらいの結婚なら…僕はしませんよ。』
「霞らしい、と思う。」
『でしょう?でもね、こんな僕でも…少しだけ。自分の子供には
出会ってみたかったな。と、思うんですよ。』
瞳を細めて、湯呑をしずかに両手で抱きながら
控え目な声量で教えてくれた。
「俺も、霞の子供だったら…確かに。気になる。」
『僕には、青路の子供…いつか見せて欲しいって。勝手だけれど
思ってしまうんです。』
「夢のまた夢みたいな話だ。」
『本当に。体はね、差し出すのは簡単ですよ。でも、心だけは…』
「変な事、言うんだな。」
『世の中には、色んな人が居ますから。』
義兄が俺の手を取って、
『絶対に…後悔しないのであれば。良いですよ。青路。』
青い瞳で真っすぐに俺を見つめて来る。
熱のこもった視線と言葉と手のひらに、俺の心は
いとも簡単に揺らいでいた。
聞いて面白い様な事が少ないです。』
コンロの前に立って、こちらをまっすぐに見据える義兄は少しだけ
困った様に微笑んでいる。
『それに、歳も重ねていますし…何をどうしたら良いか。切り抜けるために
選ぶ選択肢が最良とも限らず。』
「全部を、霞の口から聞こうだなんて思っていない。」
本人は、話題にしていないが。父がまだ成人する前の義兄をモデルに
何度も絵を描いていた事は、知っていた。
世に公表してはいなかったが、亡くなった父のアトリエから
いくつも義兄の絵は大切に保管されていた。
本人をモデルにしたのか、それとも父の空想を描いたのかは
分からないが、白く美しい肌に人形の様に整った横顔。
窓際にたたずんで居たり、暖炉の前で横になった姿など
見ているコッチがハラハラする様な、煽情的な表情や体勢で
描かれていた。
『そんな顔しないで、青路。アナタ、今日でしばらく僕とは会えないのでしょう?』
やかんの取っ手を布巾で持ち、そろそろと急須にお湯を注ぐ。
「そうだ、なんで…はぁ…」
『僕は、気ままに暮らしたいんですよ。今の自分に合った暮らしを。』
「時間がもどかしい。」
『青路、後悔する生き方をしないで下さいね。お義母さんを…大切にして。』
言葉だけ聞けばとても立派な事を言っている。
でも、義兄の心が見えなくなる。
「こんな…恋愛とも言えない、どうしたら良いのか分からない。」
『朝から、辛気臭いですよ。さ、朝茶を飲んでからでも良いじゃないですか。
僕だって、簡単にはいかない事をアナタ並みに痛感しています。』
湯呑に注がれた緑茶は、湯気が真っすぐに立ち上り
静かに席に着いた。
「連れて帰りたい。」
『おや、お熱いですね。そんなにも…僕の事が?』
「…改めて聞かれると、釈然としない。」
『えぇ、僕もです。』
「時間が欲しい。霞との時間が…。」
『口説きますね。僕、一応はアナタの兄ですよ?』
「……はぁ。」
心が煩悶する。雰囲気、声、視線いずれにしても直視するには
まだ照れくさい。
『恋の悩ましいため息。良いですね、青路は今きっと苦しいんでしょうね。』
にこにこと笑顔で俺を見ては笑う義兄が、恨めしい。
こちらは、遅い。あまりにも遅すぎる初恋をこじらせていると言うのに。
「帰りたくない。」
『じゃ、そうしたら良いのに。』
「ぇ……?」
『フフ、出来ないでしょう?』
綺麗な形の唇、薄くも厚くも無くて児の描き方や上唇の山まで
つくりが丹精である事が分かる。
義兄の顔は、どの角度から見てもため息が出る。
「結婚、してみる気は無かったのか?」
『してみる、ぐらいの結婚なら…僕はしませんよ。』
「霞らしい、と思う。」
『でしょう?でもね、こんな僕でも…少しだけ。自分の子供には
出会ってみたかったな。と、思うんですよ。』
瞳を細めて、湯呑をしずかに両手で抱きながら
控え目な声量で教えてくれた。
「俺も、霞の子供だったら…確かに。気になる。」
『僕には、青路の子供…いつか見せて欲しいって。勝手だけれど
思ってしまうんです。』
「夢のまた夢みたいな話だ。」
『本当に。体はね、差し出すのは簡単ですよ。でも、心だけは…』
「変な事、言うんだな。」
『世の中には、色んな人が居ますから。』
義兄が俺の手を取って、
『絶対に…後悔しないのであれば。良いですよ。青路。』
青い瞳で真っすぐに俺を見つめて来る。
熱のこもった視線と言葉と手のひらに、俺の心は
いとも簡単に揺らいでいた。
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