坊ちゃんと私

あきすと

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⑪到着

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笑うと穏やかに緩む表情、ただただ俺が思う事は
「月に一度だなんておかしい。俺は、霞…と兄弟なのに。」

暗くなって日が沈んだ後に、俺は車を運転しながら妙に
焦りを感じていた。

隣の助手席には義兄が乗っている。
車内が暗くて、横顔から見える表情は分からない。

『そう言うのは、面倒くさいんですよ。青路だって、僕にこうして逢いに来ると言うのは
つまり、そういう事なのでしょう?だったら、いい加減そろそろ覚悟をお見せなさいな。』

意識はハッキリしているのに、靄が邪魔をしてくる。
本心と強がりが同時に言葉としてあふれ出しているからか。

「面倒くさいのは、アンタだよ。付いたり離れたり…俺の事おもちゃにして、愉しんでる。」
『僕の中での答えはもう、決まっちまってますよ。ただ、青路がソレに辿り着けないだけ。』

言葉の遊びが、要所要所にあって煩わしい。
何で、そしたら答えだけをくれないのか。

ギアをチェンジする動作が段々と荒くなってくる。
外はもう、真っ暗だ、そろそろ義兄の家に向かわないと。

「いい加減、家を教えてくれ」
『ぇ、僕この道知りませんもの…今ここはどこなの?青路』
「はぁ!?」
『来た道を戻れば良いじゃないですか。』
「…まさか。今更そのルートで行く訳が無いだろう。霞、ダッシュボードに道路地図があるから取って。」
『はいはい…、これですね。少し灯りを点けますよ。』

義兄は少し身を乗り出して車内のフロント寄りのルームライトを点けた。

「地図、読めるのか?」
『えぇ、人並みには。ここは確か県道だったはずです。僕が酔った山道に、さっきの海岸線…。なるほど、
僕の住んでいる県の境をうろついていますね。大丈夫、そんなには遠く離れていないです。もう1時間も走れば』
「ガソリン、満タンにしておいて良かった。」
『でも、もう半分くらいになってる。帰りはまた入れて行った方が良いね。』

義兄はその後丁寧に、自分の住む市までの案内をしてくれたお陰で
何とか市内に戻って来れた。

「霞のアパート、駐車場はあるのか?」
『はい。車社会ですよねすっかり。1台分はついて来ているので、僕の言う番号のトコに停めてください。』
「良かった。さすがに適当な場所に路駐はマズいからさ。」
『…ですね、おまわりさんにしょっ引かれますよ。』

車から降りて、助手席にまわりドアを開ける。
「お疲れさま、霞…。」
『…お疲れなのは、どう考えても青路でしょう?でも、ありがとう。とても楽しかった気がします。』

差し伸べた手をやんわりと受けて、座席からゆっくりと腰を浮かせて降車する。
「お腹空いた。」
『色気無いですねぇ、いかにも弟ですよ青路は。』
「だって、集中してると脳が…」

少しだけフラつく義兄を傍で支えながら歩く。
『ずっと座ってたでしょ?体が固まったみたいに…』
「よく、伸ばしてやると良いよ。風呂でとか。」
『お風呂も、沸かしましょう。』
「良い部屋を借りれた訳だ?」
『独身寮とまではいかないんですよ。でも、会社がホテルの他にも複数の不動産をやっているのでね。役得です。』

階段を2階まで上がって、部屋の前で義兄はズボンのポケットから部屋の鍵を取り出して
施錠を開けた。

「お邪魔します…、」
『えぇ、どうぞ。上がってくださいな。』
暗闇の玄関に電気が点く。
「綺麗な部屋だ。」
『まだ築2年らしくて…あ、そうだ。青路、スパゲッティナポリタンは好き?』
「……ぇ、霞が作るのか!?」

今からレストランや喫茶店に間に合わない事も無いけれど。
義兄の言葉が意外で、俺は耳を疑っていた。

『当たり前です。僕、ずっと海外でも自分のゴハンは自分で作って来ました。』
「ぁ、じゃあ…お願い?します。」

居間に案内されて、置いてあるソファに座る。
『ちょっと待ってて下さいネ。支度して来ますんで。』

本当に、全く義兄が理解できない。
いや、少しずつは前よりも分かり始めているのに。

こんな人だったっけ?の連続なんだ。

良い意味での戸惑いが今日一日でとんでも無い量になっている。

エプロンを着けて、手を台所で洗ってから冷蔵庫の食材を綺麗に洗い
下準備をしていく。

「なんか、現実味なくて…」
『僕ね、青路には色んな事を本当はしてあげたいと思っていて…こんな事になってるんです。』
ピーマンを切りながら、義兄はこちらを振り返って
遣る瀬無さそうに笑った。

「こんな事?」
『青路を…僕は育てても良かったのに。逃げてしまった。だから、罪滅ぼしなんですよ。』

俺が、霞に育てられる?
理解しがたい感覚ではある。
それでも、義兄なりのもしかしたら…情愛のカタチなのかもしれない。

「喜んでいいのか、ソレは。」
『僕は、自分ではどうしようもない沢山の業に押し潰されそうでした。でも、青路が生まれた時に
やっと見えない何かから解放された気さえして…』

トントンと刻む包丁の音が、間隔が義兄の料理の年数を思わせる。


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