坊ちゃんと私

あきすと

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坊ちゃんと私⑨

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黙っていれば、気を揉むし。
話し出したかと思えば、とても返すのが難しい話題になっていく。

目の前の義兄は、心を開いている様で全くと言って良い程
俺には門扉が開かない気がして来た。

難しい。軽やかな雰囲気なのに。

まだまだ自分の青さを感じざるを得ない。
(父は意図してこの名前を付けたのだろう)

「貴方にそこまで、大切に想われている父は…きっと死して尚幸福かもしれません。」
人の表情を、ここまで気にかけた事は人生で今が初めてだろう。

『もったいない話ですよ。僕なんて愚息…。でも、だとしたら嬉しいです。』
控え目な笑みがとても印象的で、心の底にゆっくりと落ちていく。

綺麗な庭園、良く晴れた春の空に美しい兄との食事。

なんだか物語の中に居るみたいだった。

きっと、まだまだ霞さんには生い立ちに関して多くの鬱積があるのかもしれない。
俺で良ければ、いくらでも耳を傾けたいと思う。

貴方は、貴方が思う以上にもっと多くを望んでも良いのに。
なぜ、遠くに行こうとするのか。
日向より、日陰へと入って行ってしまう霞さんに寂しさを抱く。

少なくとも、俺が生まれてくるまでは
あの家での宝物は霞さんでしかなかったはずだ。
とても大事に愛情を注いで両親が育てたに違いない。

『僕はね、男性には忌み嫌われ…同じ様に女性にも邪険にされる。何をしなくとも。
いいですか、坊ちゃん。僕の存在が…既に、誰かの罪だったのです。』

店を出て、霞さんにお礼を言うと煙草に火を点けながら
何とも言えない表情で、吹かした煙草の煙を吹きかけられた。

「……。」
『ごめんなさいね、青路さん。僕は阿婆擦れのコドモなんです。』

俺は、冷静さを欠かない様にしながら車の助手席のドアを開けた。
『やめて下さいよ、青路さん。貴方は…サレル側、でしょ?』
見た事のない洋モクだった。
華奢な紙巻きたばこを携える指先ですら、霞さんは様になる。

『僕のキタナイ所、これでまた増えていく…でしょ?』
「そんな…、」
『灰皿、借りますね。青路さんは、あまり吸わないんですか?』
「気が詰まりそうになると、手が出ます。」

シートベルトを締めて、霞さんが落ち着くのを待つ。
『あぁ、なんとなく分かる気がします。ムシャクシャするって奴ですね。』
「そうです。…では、次はどこに向かいましょうか?」
『さぁ?僕はどこへでも。乗せられてるだけですし。』

つれない言葉に笑いだすと、
『ココは嫌って場所、貴方には無いですよ。だから、どこでも行きましょう。』
「俺は、当てのない運転は苦手なんですよ。」
『僕の部屋に行くには、まだ…ちょっと日が高くはありませんか?』

一瞬、ドキッとした。

思っていない訳でも無いけれど。
意識させられると、途端に心が揺れる。

「俺をおもちゃにして、楽しいですか?霞さん。」
『だって、青路さんったら…いつまでもネンネみたいに。霞さん、霞さんって呼ぶから。』
「でも、貴方は兄であり…」
『ほらね、こういう所ですよ。貴方はそろそろ僕と言う人間そのものをちゃぁんと、見た方が良いですよ。』

にこりと笑って、霞さんは俺の頬にキスをした。

薄い笑みを浮かべる霞さんから、煙草の香りと淡い香水の匂いが鼻をかすめた。
『ネンネの唇を奪ってしまうのは、忍びないですからね。』
「霞、……」
『…ハイ。』
「霞も、俺の名前を呼んで。」

触れるのが、怖い。
『貴方は…私の、坊ちゃんで居て欲しいのに。』

頬が熱くなった気がして、キスをされた箇所を確かめる様に触る。
「昔、俺に同じ様な事をしませんでしたか?」

ぇ、と小声の霞さんの声が聞こえて
『まさか、覚えていたんですか?』
薄ぼんやりとした記憶が蘇る。















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