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②霞の過去
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平河 青路(ひらかわせいじ)
僕の良く知る、大切な人の更に大切な
一粒種のなまえ。
先生(青路の父親)にかなり年の離れたお子さんが
お生まれになって、僕は喜べなかった。
これまで、蝶よ花よと僕だけを見つめて来てくれた先生が
近頃では、とんと相手をしてくれなくなった。
元々、僕は先生の母方の遠縁の者であり
養子になるかどうかの話まで、出ていた関係性だ。
嫌と言う程、見て来た。
先生と先生の奥さんの仲睦まじさを。
夫婦そろって、本当に人格が良くて嘘みたいに思っていた。
【きっと僕の器だけが、必要なのだろうと感じていた。】
なのに、一緒に暮らす僕にとてもとても良くしてくれて。
かりそめの親子ではあったけれど、僕は本当に心から
夫妻の事を好きになり始めていた。
でも、奥さんが身重になってから僕はあまり
母屋には近寄らなくなっていた。
何故だか分からないけれど、きっとその方がいいのだと
無意識に感じていたから。
それから、坊ちゃんの泣き声が、よく母屋から聞こえる様になって
耐えきれずに平河家を出て行く決意をした。
先生も、僕の複雑な胸中を察してくれたらしく
奥さんも止めはしなかったけれど、
【ここは、いつでもあなたのお家よ】
と別れ際に言ってくれた。
嬉しくて、辛くて。涙をこらえて僕はすぐに下宿先を探さねばいけない。
高校の頃の友人に連絡を取って、泊めてもらえないかとお願いした。
自分で言うのも何だけれど、僕にはあまり同性の友達は多くなくて。
かといって、異性の知人とは面倒ごとが起きては困るから
距離をとっている。
今でも忘れはしない。
平河家を出て行った、クリスマスイヴの日。
それから、ころがり込んだ友人の家で
宿代代わりに、といやらしい事の相手をさせられそうになった。
僕の人生において、クリスマスは人生を大きく左右する日に
なりかけている。
皆、自分の目先の事で手一杯なんだ。
誰も僕の気持ちまで、考えてくれる訳が無い。
分かっている。
聖夜の朝、せまい布団のすぐ隣で友人は静かに眠ってくれている。
一瞬の気の迷いだったのだろう。
まさか、男同士だぞ?
友人は、優しくて少し冴えない所もあるけれどいつも
僕の話を熱心に聞いてくれる、大人しい性格だった。
友達になって欲しい、と言われた事が初めてだった僕は
入学当初かなり浮かれていたものだ。
あれから、数年の月日が流れ。時々、映画を観に行くくらいの
ゆるい関係だと思っていた。
昨夜の友人には、僕もかなり焦った。
そっちの世界の存在を知らない訳では無かったが、
まさか自分の身近に?と思って。
就寝時にせまい布団の中で、ぎゅっと背後から抱き締められて
『霞、触れても・・・良い?』
彼の優しい声が、いつも以上に優しすぎて
心臓がドキドキしていた。
友人は、僕の生い立ちや平河家との縁も知っている。
僕にとって今一番、心が近いと言っても過言ではない相手だ。
友人の僕を抱き込む震える手は、少しだけ熱くて
首筋には、吐息も変に熱くて。
僕は、このまま身を任せたら、どうなってしまうのだろうと
怖かった。
「・・・ご、・・めん。僕、には・・・」
友人の行動は、かなり突飛ではあるけれど。
僕の心は、哀しみより申し訳なさで満ちていた。
『こんな夜に、来ちゃ駄目だよ。さよなら、霞。』
友人のきっと精一杯の優しさではなかっただろうか。
朝方、なるべく静かに友人を起こさない様にと
身支度をした。
玄関に向かうと、僕の靴に茶色い長封筒が置かれていた。
中身を見ずに、僕は友人の部屋を後にした。
僕の良く知る、大切な人の更に大切な
一粒種のなまえ。
先生(青路の父親)にかなり年の離れたお子さんが
お生まれになって、僕は喜べなかった。
これまで、蝶よ花よと僕だけを見つめて来てくれた先生が
近頃では、とんと相手をしてくれなくなった。
元々、僕は先生の母方の遠縁の者であり
養子になるかどうかの話まで、出ていた関係性だ。
嫌と言う程、見て来た。
先生と先生の奥さんの仲睦まじさを。
夫婦そろって、本当に人格が良くて嘘みたいに思っていた。
【きっと僕の器だけが、必要なのだろうと感じていた。】
なのに、一緒に暮らす僕にとてもとても良くしてくれて。
かりそめの親子ではあったけれど、僕は本当に心から
夫妻の事を好きになり始めていた。
でも、奥さんが身重になってから僕はあまり
母屋には近寄らなくなっていた。
何故だか分からないけれど、きっとその方がいいのだと
無意識に感じていたから。
それから、坊ちゃんの泣き声が、よく母屋から聞こえる様になって
耐えきれずに平河家を出て行く決意をした。
先生も、僕の複雑な胸中を察してくれたらしく
奥さんも止めはしなかったけれど、
【ここは、いつでもあなたのお家よ】
と別れ際に言ってくれた。
嬉しくて、辛くて。涙をこらえて僕はすぐに下宿先を探さねばいけない。
高校の頃の友人に連絡を取って、泊めてもらえないかとお願いした。
自分で言うのも何だけれど、僕にはあまり同性の友達は多くなくて。
かといって、異性の知人とは面倒ごとが起きては困るから
距離をとっている。
今でも忘れはしない。
平河家を出て行った、クリスマスイヴの日。
それから、ころがり込んだ友人の家で
宿代代わりに、といやらしい事の相手をさせられそうになった。
僕の人生において、クリスマスは人生を大きく左右する日に
なりかけている。
皆、自分の目先の事で手一杯なんだ。
誰も僕の気持ちまで、考えてくれる訳が無い。
分かっている。
聖夜の朝、せまい布団のすぐ隣で友人は静かに眠ってくれている。
一瞬の気の迷いだったのだろう。
まさか、男同士だぞ?
友人は、優しくて少し冴えない所もあるけれどいつも
僕の話を熱心に聞いてくれる、大人しい性格だった。
友達になって欲しい、と言われた事が初めてだった僕は
入学当初かなり浮かれていたものだ。
あれから、数年の月日が流れ。時々、映画を観に行くくらいの
ゆるい関係だと思っていた。
昨夜の友人には、僕もかなり焦った。
そっちの世界の存在を知らない訳では無かったが、
まさか自分の身近に?と思って。
就寝時にせまい布団の中で、ぎゅっと背後から抱き締められて
『霞、触れても・・・良い?』
彼の優しい声が、いつも以上に優しすぎて
心臓がドキドキしていた。
友人は、僕の生い立ちや平河家との縁も知っている。
僕にとって今一番、心が近いと言っても過言ではない相手だ。
友人の僕を抱き込む震える手は、少しだけ熱くて
首筋には、吐息も変に熱くて。
僕は、このまま身を任せたら、どうなってしまうのだろうと
怖かった。
「・・・ご、・・めん。僕、には・・・」
友人の行動は、かなり突飛ではあるけれど。
僕の心は、哀しみより申し訳なさで満ちていた。
『こんな夜に、来ちゃ駄目だよ。さよなら、霞。』
友人のきっと精一杯の優しさではなかっただろうか。
朝方、なるべく静かに友人を起こさない様にと
身支度をした。
玄関に向かうと、僕の靴に茶色い長封筒が置かれていた。
中身を見ずに、僕は友人の部屋を後にした。
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